九話 決闘を申し込まれた!
華がダイヤマトに来て半年以上経過したある日の早朝。
「お爺様、おはようございます!」
「華、おはよう!」
すっかり拘束衣にも慣れた華は、軽い足取りで山の特訓場に現れた。既に現場にいた祖父に元気よく挨拶をする。
「御老公、おはようございます」
「花樹もおはよう!」
華の後からニコニコ笑顔の花樹も姿を現し、丁寧な挨拶をする。
「さて……本日は華にとって、良いニュースを二つ持って来たぞ!」
「良いニュース……?」
「まず一つ目!」
祖父は懐から手紙を取り出した。
「華の通う魔法学園が正式に決まりました!」
「やったー! お爺様、どんな学園?」
「この手紙に書かれている! ほれ!」
華は祖父から丁寧に手紙を受け取った。
「えーと……」
華は手紙の内容を読み進め、ひとつの学園の名前を見つけ出した。
「……四季魔法学園?」
「おおっ! 素晴らしいですね! 姫、そこは名門ですよ!」
「名門!?」
大喜びの花樹から名門だと伝えられ、華は驚く。
「このダイヤマトで一番と謳われる、大名門! 数多くの有名な術師を生み出し世に送り出した、ダイヤマトに多く貢献している素晴らしい学園だ!」
「すごいところなんだ……」
「……姫、勉強で教えられた筈ですよ?」
花樹の言葉に華は無言で視線を逸らした。
「お爺ちゃんもこの学園の卒業生だ! ここは良いところだぞ〜!」
「えっ!? お爺様が!?」
祖父は得意気に胸を張る。
「学園には四つの学園があってな、入学する生徒の人となりによって、どの学園に配属されるか変わるぞ!」
「学園が四つも……つまりそれって、規模の大きなクラス分けってこと?」
「そうそう」
華の疑問に祖父は頷く。
「昔は階級に応じて学級を分けられていたのを、形を変えて引き継いでいるのです」
「春は貴族、夏は侍、秋は商人、冬は庶民……」
「へぇ〜! じゃあ、今の私なら春の方に行くのかな?」
「恐らくは」
「楽しそう!」
「実際に楽しいぞ!」
「いいなぁ〜!」
まだ見ぬ学園の話に、華は期待に胸を膨らませる。
「そして、もう一つのいいニュースというのは……?」
「そうそう! もう一つあるんだった!」
華の質問に、祖父はこれまた楽しそうに応じる。
「もう一つは……なんと! せせらぎ家の長女「まえ姫」から決闘を申し込まれたぞ!」
「決闘〜?」
祖父の持ち込んだ情報に、華と花樹は首を傾げる。
(それっていいニュースなの……?)
「せせらぎは有名な術師の名家だぞ! 景谷の国という、大自然溢れる土地に住んでいてな、それはもう流れるような術を使って……!」
「私よりお爺様の方が楽しそうにしてる……」
楽しそうな祖父を前に華は困惑の色を見せる。
「話によるとな。華の特訓の話を聞いたご令嬢が、それならば是非、一対一の魔法による実践をしませんかと、決闘を申し込んでくれたそうだ!」
「お嬢様がそんなことするんだ……」
「しますよ。せせらぎ家は術師の名門ですし、長女のまえ姫様は特に魔法系統に精進した、それはもうお強いお方ですから」
「魔法使いの一族で、魔法に強いお嬢様ってこと? それは確かに強敵かも……!」
決闘を申し込んできたまえ姫が強いと聞いた華は、僅かに心を躍らせる。
「術師の名家同士、素晴らしい戦いを期待しているぞ! さて、今回は決闘のルールについて説明しようか!」
「お爺様、よろしくお願いします!」
「よし!」
決闘の規則についてしっかり説明を受け、式神を相手に軽い模擬戦をすることになった。
花樹が出してくれた式神の白忍者を相手に、華は軽く身体を動かす。
「それっ!」
「華! 衣類を用いた打撃は与えないように! 今のは「武器の使用」とみなされて反則になるぞ!」
「はいっ!」
今回の決闘では魔法のみで相手と戦う。華は魔法のみで白忍者と対峙し、決闘を体感していく。
「御老公」
そんな中。花樹は周囲に声が聞こえないよう見えない結界を張り、華の祖父に声をかけた。
「今回の決闘は学園絡みでしょうか」
「恐らくそうだろうな」
2人は華を見つめながらやり取りをする。
「実力のある相手に決闘を申し込み、いい結果を残して世間に知らしめ、いい魔法学園に選ばれようとする……昔はよくあったとお聞きしますが……」
「今はそんな決闘、滅多にせん。古い習わしだ」
相手より力を示し、いい魔法学園に選ばれようとする決闘は、昔はそれなりにあった。
「まえ姫はどの名門に選ばれていない。察するに、名門に選ばれた華が気に入らんから、まえ姫はこんな決闘を申し込んだのだろうな」
「今では学園絡みの決闘など、あまり耳にしません。今もその噂を信じて、決闘する方も少なくないとは聞きますが……」
「こんな習わしを、今の世で行おうとする奴が正気とは思えん」
祖父は表情をひとつも変えずに吐き捨てる。
「それにしても、御両親がこの決闘を許すとは……」
「許すだろうな。せせらぎ家は華を過小評価している。それでいて、華の魔力測定がきっかけで、世間では華は立派な菜乃家の一員として認められ始めている」
「……つまり、菜乃家の一員である華姫に勝利することで、せせらぎ家は菜乃家に勝利したという実績を作り、評判を上げようとしているのですね」
「だろうな」
祖父は一拍おいてから話を再会する。
「まえ姫の例の噂は前々から耳にしていた。恐らくアレも絡んでくるかもしれん。ここは華に任せ、せせらぎ家は評判上げの犠牲にでもなってもらおう」
「はい」
「当日は何が起こるか分からん。花樹、十二分に警戒するように」
「分かりました」
「お爺様! 花樹! 倒せたよ!」
「おっ? もう勝負ありか! 素晴らしい!」
「姫! 見事な戦いぶりでした!」
話を終えた瞬間に名前を呼ばれ、2人は拍手しながら華を褒め称える。
「お爺様、今回の模擬戦に点数を付けるとしたら何点でしょうか?」
「うーん、百億点!」
「やったー!」
祖父から点数を聞いた華はその場で飛び跳ねながら大喜びする。
「よし! 今日のおやつは城下町で有名な物を取り寄せよう! 模擬戦を頑張ったご褒美だ!」
「お爺様、ありがとう!」
孫大好きな祖父にすっかり慣れた華は、ご褒美に対して素直に大喜びしている。
「華は天才だな〜! あの拘束衣であれほどの魔法を出せるとは!」
「ありがとうございます! まだ魔法弾くらいしか出せませんが、いつかはどんな術も使いこなしてみせます!」
「それは頼もしい!」
それを聞いた祖父はこれまた大喜び。
「素晴らしい家族愛ですね〜」
目の前で繰り広げられる仲睦まじい光景に、花樹は楽しそうに微笑むのだった。




