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十話 決闘当日

 せせらぎ家のまえ姫から決闘の申し出を受け、ついに決闘当日。


「緊張してきた〜」


 軽い朝練を終え、朝食を食べ終えた華は、表情を僅かに強張らせながら廊下を歩く。


「姫、大丈夫ですよ!」

「ファイトファイト〜」


 そんな華の側を山野花樹と山野百足が歩き、緊張する華を励ましている。


「姫、居間で御老公がお待ちです」

「お爺様がこの屋敷に来てるの!?」

「はい。贈り物があるとかで……」

「何だろう! 武器かな!?」

「何でしょうね〜」


 祖父からの贈り物を予想して胸を躍らせる華。

 やがて三人は祖父の待つ居間に到着。華は襖の前で座り込んだ。


「華です」

「入りなさい」

「失礼します」


 断りを入れてから襖を開け、一礼をしてから祖父の前に移動した。花樹と百足は華から少し離れて座る。


「本日、ついに決闘の日が来たな」

「はい。朝早くに準備運動を終え、準備は万端です」

「よしよし」


 魔力を吸収して頑丈になる拘束衣を身につけ、準備を万全に整えた華に祖父は満足げに頷く。


「そんな華の為に、入学祝いも兼ねて贈り物を持って来たぞ」

「まあ、何でしょう」


 祖父は大きな桐箱を華の前に優しく置いた。華は丁寧に箱を開け、中身を覗いた。


「服だ!」

「広げてみなさい」


 華は祖父の前で衣装を持ち上げて広げてみた。


 桃色を基調としたとても可愛らしくて上品な、それでいて魔法少女を彷彿とさせるような可憐な衣装だった。


「素敵! 和風な魔法少女みたいで可愛い!」


「だろう? 華は昔、現世で魔法少女のアニメを好んで見ていただろう」


 祖父は過去を懐かしみながら話をする。


「今も可憐な服が好みと聞いていたので、店で魔法少女のような魔法衣を作らせたんだ」


「オーダーメイド!?」


「そう、オーダーメイド! しかも、その衣装は今までの拘束衣より遥かに高性能!」


 祖父は楽しそうに解説を始めた。


「その衣装は、本来の拘束衣よりもはるかに多量の魔力を吸収し頑丈になる! 更には相手の魔法もある程度は吸収できる優れもの!」


「おぉ〜!」


「その一本歯の高下駄も、より魔力を吸収して重力を何十倍にも上げられる! 更には非常に頑丈で壊れない! その分、身体強化が必要にはなるがな!」


 本来なら、一般人には着用できないとんでもない代物だ。


「普段、修行用に着ている拘束衣より着やすくて扱いやすいぞ!」


 どんなに扱い易かろうが、拘束衣は拘束衣。


 どんな魔力の高い術師でも、これを着せられたらたちまちのうちに地面に倒れ込んでしまうだろう。


 しかし、毎日のように拘束衣を着用して修行していた華にとっては非常に扱いやすい装備だった。


「華、折角だ。着て見せておくれ」

「はいっ!」


 華は衣装の入った木箱を手に取り、嬉しそうに襖の向こうへと駆け込んでいった。



 しばらくして……



「着替えました!」

「よっ! 待ってました!」

「さん、に、いちで襖を開けます。姫は決め台詞と共にどうぞー」

「はいっ!」


 全員が華を担ぎ上げる中、華は襖の中央で待機する。


「三、ニ、一!」


 百足が合図をして、山野兄妹が両側から襖を開け放った。


 襖の向こうには、可憐な魔法衣で着飾った可愛らしい華の姿が。


 襖が開いたのを皮切りに、華は可憐な構えと共に元気よく名乗りを上げた。



「魔法少女ナノハナ! 参・上!」 



「おぉー!」

「素晴らしい……!」

「実に可憐で素晴らしい! 最高です!」


 華の登場に居間にいる一同、従者達は歓声を上げて迎える。


「うむ、実に見事だ」

「まあ素敵……!」


 そんな祖父の背後には、華の伯父と伯母も並んで立っていた。


 華の伯父である「菜乃青葉なのあおば」は菜乃家の当主。つまり現役のお殿様である。


「伯父上!? 伯母上!?」

「あああ大丈夫大丈夫! 驚かせてごめん!」

「大丈夫よ! 起き上がって!」


 華は即座に土下座の姿勢を取り、それを見た伯父と伯母は慌てて華に謝罪をする。


「久々に姪と会えるので、折角なので驚かせようと思い……いやはや、申し訳ない」


「ごめんなさいね。立場を忘れて、現世のノリではしゃいでしまいました」


「いえっ! 伯父上と叔母上と久々にお会いできて、とても嬉しゅうございます!」


「ふふ……大きくなったな」

「言葉遣いもしっかり学んで……! とても立派になりましたね」


 伯父と伯母とは現世で何度も会っていた。


 祖父の実家と思っていた大きな家に親族が集まり、そこで度々出会っては仲睦まじくお喋りをしていた。なので結構仲が良い。


「本当は華を城に招きたかったけど、此処の方が修行に適してるからな……いやはや、元気そうで何よりだ」


「そうね。それにしても、すごい驚きようだったわね、私達が貴族だって知った時も、華はこうして驚いてくれたのかしら」


「大層驚きました……! しかし、伯父上と叔母上は前々から気品が滲み出ていたので、同時にとても納得しました!」


「ははは、そうかい」

「あらまあ……」


 華からの素直で真っ直ぐな褒め言葉に、伯父は楽しそうに笑い、伯母は嬉しそうに微笑んだ。


「あの、伯父上と叔母上はどのような御用で……」

「まあ、華ったら……貴方の決闘を見届けに来たに決まってるじゃない」


 伯母は優しい笑顔で答える。


「仕事を家の者に任せ、此処まで来たんだ。華、父上との特訓により、どれほど成長したのか……楽しみに見ているぞ」


「頑張ってね」


「ありがとうございます!」


 伯父と伯母の温かい声援に、華は嬉しそうに返事をした。


「姫、そろそろ準備を……」

「はーい! 伯父上、叔母上、お爺様、失礼します!」

「気をつけてな!」


 居間を後にした華は自室で身支度を整えると、馬車に乗って決闘できる会場のある特訓場へと移動した。


 華は花樹と百足と従者達を引き連れ、特訓場の大きな門を通って移動した。


「ひろーい!」


 大きな門を通り抜けた先には、整備された広大な土地が広がっていた。


 近くでは武家の息子や娘らしき子達が、カカシを相手に打ち込んでいるのが見えた。

 中には手合わせしている子もいるようだ。


 少し遠くでは、道具を手に魔法の修行をする術者の姿もあった。


「ここは特訓場です。様々な理由で……まあ、大体は学園に通う為にこの周辺に住んでいる、武士や術師の子が修行をするために此処に来るんです」

「男の子も女の子も揃って特訓してる……こんなとこあったんだ!」

「魔法を用いた修行は此処でしかできませんから」


 花樹の説明通り、この特訓場で木刀を手に素振りをしている子達は皆、強い魔力を帯びていた。


「剣士も立派に魔法使ってるね」


 木刀を振り回して刃を飛ばしたり、突きにより放たれた波により、遥か遠くの的に穴を開けたりしている。


「デカい家の子はわざわざ此処に来る必要ないからね。家に専用の特訓場あるし」


 百足は呑気に説明しながらも、虫の式神を幾つか飛ばして辺りを警戒している。


 花樹も小動物を召喚して警戒しつつ、決闘の相手であるせせらぎ家のまえ姫について思案していた。


(せせらぎ家……有名な上級術師の名家であり、その家の長女であるまえ姫は、魔術に傾倒するほどの魔法好き……)


(しかし彼女の魔力は術師の平均より少なく、術を扱う一部の感覚もあまり良くないと噂されている……)


(努力により術師並みの力を得られたけれど、その過程と生活環境により性格は歪み、更には優秀な妹の登場により跡取り候補から外された……)


(果てには名門学園からも外されたと聞いた。そんな中、突然現れた華さんが名門学園に選ばれたとなったら……)


 花樹はその後を想像し、ほんの僅かに眉を顰めた。


(……心から魔法を追い求める彼女が、禁忌に触れるには十分な環境でしょうね。あくまで予測ですが……)


 そんなまえ姫との顔合わせを憂う花樹は、より一層気を引き締めたのだった。

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