十一話 決闘前の軽い手合わせ
決闘当日の朝。華は家来を引き連れて特訓場に移動し、控え室へと移動していた。
外を大勢の従者が見張る中、華と花樹、百足の三人は控え室へと入室。
座って休憩できる場所と、身体を動かせる広い土間がある。華は真っ先に座席に座り、その場でくつろぎ始めた。
「良い天気〜」
窓からのぞく日光を浴び、華はご満悦。
朝は緊張していたが、今の華はずいぶんと余裕そうに見えた。そんな華に対し、花樹は声を掛ける。
「姫、何か欲しいものはございますか?」
「何か持ってこようか? それともやりたいこととかある?」
椅子に座りのんびりしている華に、花樹と百足は声を掛ける。
「んーとね……少し身体動かしたいかも」
「人ね、オッケー。稽古用に沢山連れてくるね」
「そんな多くなくて結構ですよ」
「そんじゃ失礼〜」
華の言葉を聞いた百足は片手で丸を作ると、花樹の言葉をあえて無視して控え室から退席した。
「もう、兄さんったら……まあとりあえず、私と軽く手合わせでもします?」
「する!」
華は大喜びで広い土間に移動すると、花樹と魔法で軽い模擬戦を開始した。
「それっ!」
「やあっ!」
お互いに魔法をぶつけ合い、防ぎ、立ち回る。それをしばらく続け、やがて二人は同じ頃合いで自然に手合わせをやめた。
「いやぁ、華さん……すっごくお強くなりましたね!」
「花樹、ありがとう!」
二人きりになり、花樹はラフな話し方に変わる。
「すっごく頑張ったよ! 昔からの夢だったからね!」
「ふふ……」
構えを解いた花樹は、優しい笑みを華に向ける。
「……華さん。昔、帽子が飛んだ時のことを覚えてますか?」
「覚えてるよ! 花樹と初めて出会った時のことでしょ?」
あれは華と花樹がまだ幼かった頃。
花樹がかぶっていた帽子が風に飛ばされ、木に引っかかっていたところを、偶然通りすがった華により帽子を無事に救出した出来事があった。
「華さんはすごい運動神経を発揮して、高い木の枝に引っかかっていた帽子を取ってくれたのですよね」
「あれが花樹との最初の出会いだったよね〜。それで後で、山野一家が近所に引っ越してきて……」
「そうそう……あの時は大喜びしましたね。まさか再び出会えるなんて、と」
懐かしい思い出を語り合いながら、花樹は優しく微笑む。
「華さん」
「なあに?」
「華さんはずっと、私にとって一番の親友ですよ。どんなに立場が変わろうとも、私の中では一切変わってませんから」
優しくも、それでいて真剣な眼差しで華を見据える。
「華さん、貴方の心から望む道を進んでください」
「花樹……」
どこか神妙な空気に変わり、控え室はは静まり返る。
「失礼しますっ!!」
そんな静寂を破るかのように大声が轟き、控え室に一人の青年が姿を現した。
程よく整えられた黒髪の先端は赤く、見た目は力強くて美男子。いかにもダイヤマト男児らしい勇ましい青年だ。
「えっ? 何?」
「あ、貴方は……」
「お初にお目にかかります!」
竹刀を携えた青年は華の側まで駆け寄ると、腹から大きな声を出しながらハキハキと自己紹介を始めた。
「赤上原の国の、紅乃家の三男、名を「紅乃焔」と申します! 以後、お見知り置きを!」
紅乃焔は覇気のこもった双眸を華に向け、元気よく自己紹介をした。
「学園に通う為に華都の屋敷に滞在していたのですが、本日ここで決闘が行われるとお聞きし、居ても立っても居られず此処に馳せ参じた次第でございます!」
「えっと……」
「姫!」
華が困惑する中、花樹は慌てて華の側に駆け寄る。
「このお方は赤上原の国の大名のご子息様です!」
「えっ!?」
花樹の説明に、華は焔に負けず劣らずの声量で驚いた。
「御付きの者、ご説明ありがとう!」
紅乃焔は花樹に対しても元気よく礼を述べ、改めて華に向き合った。
「赤上原は、有名な武士が数多く生まれた土地です! 私もそれなりに腕が立ちます!」
「あ、聞いたことある! 確か華都の近くにあって、侍を育成する環境が整っていて、それでいて美味しい米作りも盛んで……」
「華姫! 我が国を知っていただきありがとうございます!」
何とか思い出した国の知識を伝えると、言い終える辺りで焔からの感謝の声が轟いた。
(国を知ってることで、こんなに喜ばれるなんて……勉強しておいて良かった……)
「華姫! 手合わせの相手を探しているそうですね!」
教えられた知識が役に立ち、華がほっとしている間にも焔は話を続ける。
「護衛の者達から許可は得ました! もしよろしければ、私が決闘前の練習相手となりましょう!」
「いいの!?」
「勿論です!」
「やったー! ありがとう!」
「どういたしまして!」
お互いは素直に礼を述べ合う。
「ほぉ……」
(まさかこのお方が、華さんにここまで興味を持つとは……)
そんな素直なやり取りを側から見た花樹は、微笑ましいものを見るような笑みを浮かべていた。
「では、始めましょう!」
「はいっ!」
「合図は私がしましょうかね〜」
二人は土間で間隔をあけ、お互いに向き合う。
焔は手に持っていた竹刀を構え、華は深く腰を落として身構えた。
「準備万端! いつでも開始できます!」
「こっちも大丈夫!」
「よし、それでは……始めっ!」
花樹が宣言したその瞬間。
「はーっ!!」
焔は竹刀を構えたままその場から飛んだ。
とんでもない速度で華の前に到達し、竹刀を頭部めがけて突き出した。
「!?」
華は咄嗟に頭を下げ、足を振り上げて竹刀を蹴り飛ばした。
「おっと!」
焔は強く蹴られた竹刀をしっかり掴みながらも即座に距離を取り、華も足を下ろして構え直した。
(この人、多分だけどしっかり手加減してる……分かりやすい攻撃で真っ直ぐ……! でも、軽く流せずに思わず本気で蹴っちゃった……!」
相手の手加減した攻撃に思わず本気で対応してしまった華は、心を燃え上がらせる。
(この人、中々できる……! さて、どうやって相手を……)
「ちょちょちょ! 一旦やめっ!」
戦闘を続行しようとした二人を花樹が慌てて止める。
「若様! 今回の決闘では武器による直接攻撃は認められておりません! 武器ではなく魔法のみで戦ってください!」
「むっ!? それは申し訳ない!」
花樹の説明を聞いた焔はハキハキと謝罪をする。
「ごめんなさいっ!」
そこに慌てた華が駆けて、焔に謝罪をする。
「思わず竹刀を本気で蹴ってしまいました……! えっと……竹刀大丈夫でした!?」
「大丈夫です! この竹刀は妖が噛んでも砕けない一級品なので!」
「良かった……!」
竹刀を手に説明する焔に華はほっと一安心。
「百足でーす、失礼しまーす」
そんな中、控え室の戸を開けて百足が入室してきた。
「あ、兄さん」
「どうも〜。若、姫のお相手をしていただきありがとうございます」
「どういたしまして! こちらも大変勉強になった! 感謝する!」
「声でか」
「兄さんっ!」
百足の礼に焔は礼で返す。
「さて……せせらぎ家が到着したってさ。華、花樹、行こっか」
「はーい! あの、手合わせしていただきありがとうございましたっ!」
「どういたしまして!」
「それでは失礼します」
お互いに感謝を述べ合った後、三人は控え室から退出した。
「さてと……」
一人残った焔は、竹刀を手にこの場から去ろうと動き出した。
しかし動き出す寸前。
焔の竹刀から妙な音がしたかと思うと、竹刀は音を立ててバラバラに砕け散ってしまった。
「……!」
竹刀が崩れ、焔は一人で呆然とする。
(数多の妖との討伐でも砕けなかった竹刀が……!? 新品にしたばかりで、もう……!?)
焔は慌てて華が立ち去った後を見つめた。
(やはりあの装備は拘束衣……! 拘束をものともせずあんな立ち振る舞いを……! 華姫……なんてお強いお方なんだ……!)
華の強さを垣間見た焔は、壊れた竹刀片手に目を輝かせた。
1話の前に新しい話を追加しました。
ある程度更新できたので、次回からは少し更新頻度が下がります。週一で更新出来るよう頑張ります。




