七話 更なる猛特訓の幕開け
一年後に控える魔法学園に向けて、華の猛特訓と猛勉強が始まった。
「まずは魔法の基礎を一から学びましょう」
早朝から魔法実技を徹底的に学び、それが終われば次は礼儀作法。
背筋を伸ばす、畳のヘリを踏まない、などの基礎から言葉遣いなどの、姫としての礼儀作法を学ぶ。
そして座学。ダイヤマトの歴史や常識などの知識を学び、数学や国語などの一般教養も叩き込んでいく。
「お姫様って大変……」
「姫は今までずっと普通に育ってきましたから……今に皺寄せが来てる状態ですね」
「うへぇ……」
その後は魔法実技。どんなに過酷な特訓だろうが、身体を動かすのが大好きな華にとっては天国だった。
「ずっと特訓でいい……」
「そんなわけにはいきません! 華さん、頑張ってください!」
側で共に特訓を受ける花樹は、勉強に関して弱音を吐く華をその都度励ましていた。
その一方で、華を指導する女性の術師は、そんな殊更な華をある意味で評価していた。
「初めてですよ……勉学から逃れる為に、この過酷な特訓に飛び込む生徒なんて……」
実技は大喜びで受けるものの、勉強は気が進まない。
しかし、元から花樹が勉強を教えてくれていたことと、一から上手に教えてくれる教師がいたお陰で勉学も何とかなった。
「日々成長してる感じがする……」
「確実に進歩してますよ。自信持ってください」
華は着実に力をつけていた。ダイヤマトの基礎知識を学び、最低限の礼儀作法を学び、実技に関しては完璧にこなしていた。
そんなある日のこと。
いつもの早朝特訓。特訓用の着物姿に身を包んだ2人は、いつもの修行場である菜乃家の所有する山に向かって歩いていた。
「姫、魔法の基礎は完璧です。基礎である魔法弾の出来は素晴らしく、精度は完璧です!」
「やったー!」
花樹に手放しで褒められ、華はその場で飛び跳ねながら大喜びする。
「術師の先生も褒めてました! もう教えることはない、とね」
「そんなこと言ってたの?」
「はい。なので今回からは先生が変わります!」
「?」
誰が来るか分からない中、到着した修行場で待っていたのは……
「お爺ちゃ……お爺様!?」
「華、おはよう!」
豪勢な衣装を身に付けた華の祖父は、華に向かって元気よく手を振る。
「本日からは、御老公が魔法の師範として手引きします」
「お爺様が!? つまり……お爺様は、先生よりもお強いのですか?」
「勿論! それはもう強いとも!」
華は教えられた言葉遣いで対応。華から強いのかと尋ねられた祖父は、長い棒を手に持ちカッカッカと大笑いする。
「と、言うわけで……これから華は、この装備を身に付けて修行してもらう! まずは初級編、と行こうか!」
祖父はどこからともなく檜の木箱を取り出した。そこそこ大きい。
「プレゼントだ、開けてみい」
「お爺様、ありがとうございます。此処でお開けしても?」
「勿論!」
華はその場で箱を開ける。中に入っていたのは、頑丈そうな上着と足袋だった。
「これは……新しい修行服?」
「はい。因みにその衣装は全て拘束衣です」
「!?」
花樹の言葉に華は言葉を失う。
「この上着は、装着者の持つ魔力を際限なく吸収します」
「何で!?」
「その分頑丈にはなりますが、勝手に魔力を取られる為、普通の人が身に付けたら力なく倒れてしまうことでしょう。術師ですらこれを着用するのは困難です」
「何それ!?」
「足袋は、吸収した魔力に比例して重くなる……どれも、姫の膨大な魔力を吸収できるよう作られた特注品でございます」
「本当に拘束用の衣装じゃん!?」
とんでもない品々を前に、華は祖父が前にいるにも関わらず言葉を崩す。
「カッカッカ……」
対する祖父は、そんな華を前に嬉しそうに笑っている。
「喜べ華。その拘束衣はな……華が求めていた、圧倒的な力が手に入る夢の装備だ」
「……えっ?」
祖父の言葉に華の目の色が変わる。
「見せてやろう!!」
祖父はそう一言叫ぶと、その場から勢いよく飛び上がった。
「ほっ!」
祖父は高所で一回転すると、足を下に急降下。落下先には、見上げるほど巨大な岩が。
「とりゃあ!」
威勢のいい掛け声と共に祖父の足は岩にぶつかり
岩は真っ二つに割れた。
祖父からは魔力を感知出来なかった。しかし、目の前の祖父は巨大な岩を見事に割ってみせた。
「……!」
とんでもない威力を目の当たりにした華は、呆然としながら目の前で割れて左右に崩れる岩を眺めた。
「姫。これが拘束衣の力です」
華は隣にいる花樹に目を向ける。
「魔力分だけ、強度と重さが増えていく……その重さから繰り出される蹴りは、どんな魔法にも劣りません……」
「すごい……」
「すごいでしょう? 御老公、全身に拘束衣を身に付けてあれだけ動いて……普通なら立つことすらままならないというのに」
「……!」
花樹の言葉を聞き、祖父が身につけている衣類は全て拘束衣であることを知った。
「しかし、膨大な魔力を保有できる菜乃の一族なら、その悪夢のような拘束衣を使いこなせる……」
拘束衣を身につけた祖父は当たり前のように歩き、華の前に立つ。
「体内に閉じ込めた魔力で身体強化をして動き回り、時には魔力を一部解放して衣装を重くし、相手を力でねじ伏せる……」
「すごい……!」
「扱い方を学べば、更なる力が手に入るぞ。華、やってみるか?」
「やります!」
華は祖父の誘いに即座に乗った。
「苦しい特訓になると思うが、それでもやるか?」
「やります。それで力を得られるのなら……!」
「カーッカッカッカッ!」
華の目は闘志で満ち溢れていた。それを見た祖父はいつにも増して大笑いを決め、改めて真剣な眼差しで華を見つめた。
「よし! では始めよう! 先祖代々から受け継がれて来た地獄の猛特訓を!」




