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五話 華の決心

 ほのかな明かりが華の顔を照らし、華はそっと目を覚ました。


「あれ……?」


 いつもの華の自室ではない。


 広い和室に、ベッドではなく敷布団。パジャマではなく、ゆったりとした寝巻き姿。


 畳の上に敷かれたフカフカの布団で寝ていた華は、ゆっくりと上半身を起こして辺りを見回した。


「ここ……どこ?」


 天井の高い、広い和室はとてもよく手入れされている。まるで高級旅館に泊まりに来たかのようだった。


 床の間には見たこともない可愛らしい花が飾られ、その近くを二足歩行の和装のネズミが掃除をしながら歩いている。


 歴史の教科書の絵巻で見たような架空の存在が、華の目の前で動いている。


(鳥獣戯画……?)


 襖には見事な桜の絵が描かれており、よくよく観察してみると風に吹かれて僅かに枝が揺れていた。

 眺めていると絵のうぐいすが枝に止まり、羽繕いを始める。


「夢……?」

「失礼します」


 襖の中で動く鶯を眺めていると、障子の向こうから女性の断りの声がして、2人の女中が入って来た。


「姫様、おはようございます」

「……?」


 さながら時代劇のような声掛けに華が呆然とする中、寝室に見慣れた女子が姿を現した。


「姫!」


 華の親友、和装姿の山野花樹やまのかきだ。


「おはようございます!」

「あっ! 花樹!」


 友の姿を見た華は、ここでようやく意識が覚醒したようだ。その場から勢いよく起き上がり、笑顔で花樹を迎え入れた。


「思い出した! 私、お風呂の後に眠たくなってきて……」

「無理もありません。あの時は色々とございましたから」

「じゃあ、寝てる間に運ばれて……?」

「はい。無事にダイヤマトへとご到着しました」


 花樹は華に解説を始めた。


「ここはダイヤマトの首都である『華都かと』にある、菜乃家の屋敷です」

「華都……?」

「魔法の最先端が集まる、大都会です」

「大都会……!」


 花樹の説明に華は目を輝かせる。


「此処はいわば菜乃家の別荘のような所でして、実家はもっと大きいんです。お城もございます」

「お城……!」

「ここは菜乃家の一族が華都で過ごす為に建てられたお屋敷のひとつなんです」

「他にもあるの!?」


 規模の大きい実家に、華は更に目を輝かせる。


「現世から来た華さんにしばらく此処を貸してくれるとのことで……」

「貸して……えっ!? お屋敷ひとつ貸してくれるの!?」

「はい。海月に追われている状況で、現世に帰せませんから……」

「現世……あっ!」


 ここで華は実家のことを思い出した。


「お父さんとお母さんは!? 大丈夫!?」

「御両親は無事です。ご近所に住む家来により守られてますから」

「……?」


 花樹の言葉に華は困惑の色を見せる。


「華さんのご実家の周りに住む人々は皆、菜乃家の家来です」


「!?」


 とんでもない話に華は驚く。華の周囲にいたご近所さんは、全て菜乃家の家来だった。


「嘘でしょ……!? あの隣のヒロおばちゃんも!?」

「術師の方です。一人前の魔法使いですよ」


 隣に住む優しそうなおばさんはまさかの魔法使いだった。


「御両親は魔力のこともありますから、狙われることはないでしょう。しかし華さんは……その膨大な魔力を、すでに目につけられていて……」

「私が魔力を理解する前からバレてたよね……」

「はい」


 だからこそ唐突に異世界へと連れて来られた。


「そっか……私、帰れないんだ……」

「はい。今のところは……」


 意図せず両親と離れてしまい、華は目に見えて落ち込む。


 花樹は無言のまま眉を下げ、近くにいる女中に目配せをする。女中は何か察したのか、その場から無言で立ち退いた。



「……華さん、現世に帰りたいですよね」


 姫ではなく名前で呼ばれ、落ち込んでいた華は花樹に顔を向けた。


「現世に帰る為の方法、ございます」


「……ホント?」


「ええ。帰る為には、身の安全の確保……つまり、自衛能力を身につけなくてはなりません」


 華は無言のまま、真剣に花樹の言葉に耳を傾ける。


「魔力を扱う技術を磨くのです。例え大勢の海月と対峙しても、お一人で余裕で追い返せるほどの力を持つのです」


「1人で……」


「あの時、相手は一人でした。しかし、これからはもっと大勢で、さらにはもっと高価な魔導具を手に襲いかかって来るでしょう」


 花樹は華を前に真剣に語る。


「……海月は腐っても術者の群れです。裏で手を引く者達の手もあり、かなりの力があります」


「立ち向かう為にはどうしても、何年かは此処で魔法を学ばなくてはならないでしょう」


「魔法を理解する為にも、魔法学園に通う必要があります。特訓も、非常に厳しいものになると思います」


 花樹は改めて真剣な眼差しを華に向ける。


「御両親と暮らしたいのならまず、その魔力を扱う特訓を……」

「する!」


 花樹の言葉に華は即答する。


「……いくらなんでも早計では? もう少し考えても……」

「ずっと気持ちは変わらないから! 私、強くなりたい!」


 幼い頃からずっと追い求めていた力が今、華の全身に満ち溢れている。


「今までは体格差もあって……ちょっとだけ、諦め始めてて……でもっ!」


 慌てて語る華を花樹は優しく見守る。


「魔力を認識した瞬間、すごく嬉しかった……! 力を追い求めるのを諦めなくていいんだって!」


「華さん……」


「誰よりも強くなれるチャンスだから……! 私、絶対に強くなりたい! お父さんとお母さんとも暮らしたいし、映画館にも行きたいし!」


 華は現世のあれこれを思い浮かべながら話する。


「後はね! えーっと……!」

「大丈夫ですよ。華さんのお気持ちはよーく分かりました」


 花樹は優しい笑みを浮かべ、華を見つめた。


「華さんの為にも、今後の為にも……やりましょう! 猛特訓!」


「やったー!」


 猛特訓と聞いた華は誰よりも大喜び。その場で大きく飛び跳ねた。




 華はその勢いのまま飛翔。天井を貫き、何もかもを破壊し、瓦を吹き飛ばして空へと飛び上がった。




「……!?」

「華さん……」


 空高く舞い上がり困惑する華を、花樹は静かに眺めながら白忍者の式神を複数召喚。


 白忍者はその場から飛び上がり、空中に投げ出された華を優しく受け止めると、安全に地上へと降り立った。


「あ、花樹……ありがと……」

「……これは尚更、魔力の扱いをしっかりと学ばなければなりませんね」

「はい……」


 花樹の言葉に、華は申し訳なさそうに頷くのだった。

 屋敷より頑丈な華の特訓が幕を開ける。

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