4話 祖父との再会、馬車の中
豪勢な馬車から現れた華の祖父。その正体はなんと元お殿様、つまり元大名だった。
「元殿様と言うが、今は隠居の身。ただのお爺ちゃん! だからそう怖がらなくて大丈夫だとも! ほれ!」
そんな元大名の祖父はその場で僅かに屈んで両手を広げた。
その姿はまさに、孫を迎え入れる老人そのものだった。
周囲に護衛が待機していること以外は。
「お爺ちゃん! 私もうそんな歳じゃないって! そもそもそんなことできる状況じゃないっていうか……!」
華は祖父と、その周りにいる従者諸君を見つめる。
「そうか……」
拒否された祖父は目に見えて落ち込む。そんな祖父の側に年老いた従者が側に寄り、そっと耳打ちをする。
「ご老公、見栄を張ろうとして従者を引き連れ過ぎたのが原因かと……」
「だな……孫を喜ばせようとした結果、却って怖がらせてしまったらしい……」
落ち込む祖父。周りにいる術者は気まずいのか僅かに動揺の色を見せている。
「何はともあれ、無事でなにより!」
しかし祖父はへこたれない。すぐさま開き直り、はつらつとした様子で再び華と向かい合う。
「それに、いつの間にか魔力が解放されたようだな……凄い力だ! お爺ちゃんより強いかもしれんな!」
華を前に豪快に笑うが、次第に表情を落ち着かせていく。祖父は、慈しみを込めた視線を華に向ける。
「……華が無事で、本当に良かった」
「お爺ちゃん……!」
祖父の心配の声を聞いた華は、ようやく緊張が解けて心からの笑顔を見せた。
「さて……山野花樹、山野百足」
「はっ」
祖父に名を呼ばれ、2人は頭を下げる。
「大義であった。華を要門まで無事に送り届けたこと、心より感謝する」
「身に余る、ありがたきお言葉にございます」
「大変光栄に存じます」
祖父の労いの言葉を受け止め、2人は恭しい態度で応える。
「すごい……時代劇みたい……」
目の前で繰り広げられる時代劇のようなやり取りを、華は神妙な面持ちで眺める。
(……花樹も百足も、本当に家臣なんだ……)
「……さて、無事に合流できたことだ。華、腹は減ったか?」
「うん。お腹はずっと減りっぱなし!」
「そうかそうか! じゃあ此処で食べていくとするか!」
「えっ」
祖父の決定に華は動揺する。
此処で歩くことになったら、華達の周りには確実に護衛がついて回る。
「あ、大丈夫大丈夫」
祖父は華の心配を察したのか、安心させるように宥める。
「晩御飯は買って来させる。華、爺ちゃんと一緒に馬車の中で待とう」
「うん、分かった!」
祖父の提案に華は一安心。
「では、何を食べようか。どんな物が食べたい? 此処は色々あるぞ〜」
「あっ! 食べたいのある!」
華は先程の通りにある、木と融合した店を思い出した。
店の看板には、美味しそうな寿司の絵が描かれていた。ネタはとても大きく、食べ応えがありそうに見えた。
「さっき通りにお寿司のお店があった! お寿司食べたい!」
「元祖食べ歩き寿司か、いいな」
祖父も華に同意して軽く頷く。
「華、他に欲しい物はあるか?」
「飲み物とデザート!」
「よしよし、華の好きなものを買って来させよう。石倉」
「はっ」
祖父は近くにいた老人の石倉に一言かけると、石倉はすぐにその場から離れて周りの従者に声を掛け始めた。
「さて、馬車に乗ろうか。華、こっちに」
「はーい!」
華は祖父について歩き、段差を登って馬車の中へと移動した。
「すご……!」
馬車に入った華は、広い玄関に迎え入れられた。
「もはや家じゃん……!」
「だろ?」
馬車の中は外観よりも遥かに広大だった。もはや一軒家並みの広さだ。
「天井高くて広々としてる……この馬車、お掃除大変そうだね……」
「魔法があるから大丈夫! 玄関も広いが、中はもっと広くて楽しいぞ! 見て回ってみるか?」
「うん!」
嬉しそうな祖父に案内され、華は馬車の散策を開始。
様々な部屋を歩いて周り、簡易な風呂場の素晴らしい出来に驚き、やがてひとつの部屋へと到着した。
大きな窓と座席のある、さながら料亭のような様式の素晴らしい部屋。
美しい木のテーブルに、座り心地の良さそうな椅子。開け放たれた窓からは外の景色が堪能できる。
「すごい! お店の中みたい!」
「よしよし、晩御飯はここで食べようか」
「うん! 馬車の中凄かった!」
「だろ? 屋敷はもっと凄いぞ〜!」
規模が大きいだか、このやり取りはもはや孫とお爺ちゃんである。
「そうだ、華の友達も連れて来ようか。華は賑やかな方が楽しいだろう」
「うん! 花樹と百足お兄ちゃんと食事したい!」
祖父の一声により花樹と百足も部屋に入り、席に着く。
しばらくして……
「お待たせいたしました」
待っていた華達の元に、お使いに出ていた若党の1人が包みを手に戻って来た。
「食べ歩き寿司、特上をお持ちしました」
(当たり前のように特上選んで来た……!)
「毒味は済んでおります」
(当たり前のように毒味されてる……)
「まあ、昔よりかは遥かに平和にはなったが、念には念ってことだ。魔法の進歩で簡単に毒を選別できるようにもなったしな」
「そうなんだ……!」
「ほれ、早速食べよう。美味しそうだぞ〜」
「あ、うん!」
竹の皮の包みの中には、それはもう見事な寿司が並んでいた。赤身から白身、魚卵の乗ったものに、いかにも高そうな大トロ寿司。
「いただきます!」
寿司はどれも美味だった。普段あまり食を気にしない華でも、原材料が上質であることは即座に理解できた。
「美味しい……!」
現世で食べたら確実にとんでもない値段になりそうな寿司を堪能していると、従者が更に追加の食べ物を差し出して来た。
「お飲み物をお持ちしました」
「甘味です」
器は全体的に木製で和を彷彿とさせるものばかり。だが中身は現代と遜色ない、素晴らしい物ばかり。
「異世界凄い……!」
「姫」
「えっ?」
唐突に花樹から「姫」と呼ばれ、華は目を丸くする。
「ダイヤマトは魔法技術が進んだ素晴らしい世界です。時代劇を想像して舐めて掛かったら痛い目を見ますよ?」
「姫って……あ、私ってお姫様?」
「はい。我々は術師として、姫のお側に支える家来でございます」
「ちょっともー! 花樹ってば唐突すぎるってば!」
花樹が半分冗談で敬っているのを察知し、華は冗談めかして笑う。
「姫扱いするならせめて事前に言ってってば」
「申し訳ございません。ですが今はご老公の手前ですから……」
「だよねー。あ、そうしたら私も丁寧に話した方がいいかな?」
「姫としての礼儀作法はこれから学びましょう」
「はーい」
姫と従者となり立場と話し方に変化が生じたものの、それでも2人の距離に変化はないようだった。
「いい友を持ったな……」
その様子を、祖父は満面の笑みで静かに眺めていた。
「姫、こちらは天化堂の銘菓『蕾』でございます」
「可愛い和菓子……!」
華の前に小ぶりのカラフルな和菓子が並ぶ。華は一口食べ、その美味しさに思わず目を見開いた。
「! この和菓子美味しい!」
「気に入ったか! よし! 土産に包ませるとしよう。石倉」
祖父が石倉の名を呼ぶと、すぐさま石倉が座敷に姿を現した。
「この天化堂の蕾と、あとその店にある他の和菓子を全種類買って来てくれ」
「!?」
祖父の言葉に華はこれまた驚いた。
「全種類……!?」
「他にも華の気にいる菓子があるかもしれんからな。さて……」
祖父が合図をすると、女中が中に入って来た。
「華、慣れない長旅で疲れただろう。お風呂沸かしてあるから、入って来なさい」
「あの木で出来たお風呂入っていいの!? やったー!」
「勿論。分からないことがあったら遠慮なく女中に聞きなさい」
「はーい!」
華は立ち上がると、外で控えている女中が頭を下げてきた。
「姫様、どうぞこちらへ……」
「よろしくお願いします!」
華は女中の案内でその場から退席する。
「さて……」
華を見送った祖父は、孫好きの老人からご老公の表情に変えて花樹と百足に向き直る。
「華の様子はどうだった」
「魔力を解放した姫は、海月の幹部と一戦交え、圧倒的な力により勝利しました」
祖父の問いに花樹はいつになく真剣に答える。
「誰が教えたわけでもなく、式神と人間の違いを瞬時に見分けて葬り去り、人間は最大限の手加減により命を奪うことなく……」
「……」
「姫の魔力は並みの術師よりも遥かに膨大です。あの「玉崩し」も夢ではないかと……」
「ほう……実に素晴らしい」
祖父は花樹の報告に満足した様子で頷いた。
「華はやはり、華擊の血を色濃く引き継いでいるようだな」




