3話 豪勢な馬車から……
日も殆ど沈んだ頃。花樹の強引なレクチャーにより、華の魔力が開花した。
凄まじい魔力を放出する華を前に、花樹は眉を下げる。
「あの、お怪我は無いですか?」
「大丈夫! 花樹、さっきの魔法手加減してたでしょ? だから平気だった!」
「それは良かった。では移動を再開しましょうか」
花樹はその辺に放置していた乗り物を手に取り、再び乗り込む。
「相手が1人で幸いでした。この道は、冥界に近いから危ないですからね。気をつけないと我々も……」
「花樹」
心配を口にする花樹に華は声をかける。
「その乗り物、私に任せて」
「……操縦してみたいんですか?」
「魔力を解放した今なら分かるよ。私に任せて」
「駄目です」
「はーい」
真っ直ぐ視線を向けて懇願する華に、花樹は根負けすることなく拒否した。
飛行を再開した花樹は森の中を飛び、しばらくしてから上空へと飛び上がった。
「此処が冥界です」
「森しかないね」
「むしろ街があったら危険ですから。まあ、魔力を持つ我々なら平気ですがね」
「へぇ〜」
「それに、此処ならもう追っ手は来ないでしょう。安心してください」
「良かった……」
「華さん」
花樹は背後にいる華に視線を向ける。
「先程は見事な身のこなしでしたね。助かりました」
「どういたしまして〜」
「そうそう、もしお疲れでしたら休憩取りますからね。いつでもお申し付けくださいね〜」
「冥界で休憩するのはちょっと……」
そんなやり取りをしつつ、2人は夜の森の上を高速で飛ぶ。
しばらくすると、2人を追うように飛んでくる存在を花樹と華は感覚で感じ取った。
「……おや?」
背後を向くとそこには、洒落た服装をしたニコニコ笑顔の美麗な青年の姿が。
彼も花樹と同じ乗り物に乗って空を飛び、片手を離してブンブンと手を振っていた。
「あっ! 百足お兄ちゃん!」
「兄さん、無事でしたか」
「久しぶり〜」
轟々と吹き荒れる風の中、3人は何の抵抗もなく普通に会話をしている。
「兄さんは先程まで何を?」
「こっちで海月を誘き寄せてた。2人とも大丈夫だった?」
「兄さんのお陰で敵数はだいぶ少なかったですね〜」
「あー1人そっち行ったか」
百足は悔しそうに呟き、改めて華に顔を向ける。
「華、魔法使えるようになったんだね」
「うん!」
久しぶりの百足兄に華は大喜び。百足の問いに元気よく頷いた。
「あと、花樹から色々と教えてもらった! 異世界には江戸時代に似たダイヤマトって国があって、私はそこの令嬢で……」
「そうそう。詳しいことはまだかな? 分家とかその辺とか……」
「兄さん」
百足の話を花樹が遮る。
「華さんは江戸時代の知識はだいぶ乏しいので……それを教えるのはだいぶ後かと」
「そんな知識無いの?」
不思議そうにしながら、百足は華に問いかける。
「華、江戸時代についてどれくらい知ってる?」
「流石に知ってるよ! 天下統一して平和な時代になったんでしょ?」
「…………うん、そだね」
百足は諦めた。
「さて、しばらく飛んだら凄い観光名所に辿り着くからさ。そこで休憩するからね」
「もしかして、そこに迎えが来てるのですか?」
「うん」
百足はひとつ頷く。
「あれを見たらあの度胸のある華も流石に腰を抜かすかもね」
「?」
しばらくして。
「すごーい! 何あれー!」
しばらく飛び続けた華達の眼前に現れたのは、凄まじい大きさの巨大な門。
「あの巨大な門、どうやって作ったの!?」
「あれが現世と異世界をつなぐ門です」
華の質問に花樹が答える。
「要門と呼ばれていまして、数多くの術師が関わって誕生した、魔法の観光名所です」
「魔法って凄い……!」
森の中、明るく照らし出される巨大な門を遠くに見据えながら華は感動する。
「そろそろ到着しますよ〜」
「あの門の下にサービスエリア的な場所があってさ、結構楽しいよ」
「へぇ〜!」
しばらく飛び続け、華はついに要門へと到着した。
離着陸場で乗り物から降り、綺麗にならされた地面に降り立った。
少し歩いて離着陸場から離れ、通りへと歩いていく。
通りにはそれなりの人で溢れており、道行く人は皆和装だった。全体的に小綺麗で、衣装の布地はどれもしっかりしていた。
「異世界……!」
道の両端には木と共に木造建ての立派な店が構えられており、とても賑やかだった。
「なんか修学旅行に来たみたい……!」
「凄いでしょ?」
「お土産も面白いの沢山あるよ」
自然と融合した通りに華は思わず立ち止まり、花樹と百足は誇らしげにしている。
そんな素晴らしい通りの奥には、メインである巨大な巨大な要門。
「すごく壮大な感じ……」
「いつ見ても大きいですよね〜」
あまりにも大きな門を、華と花樹は揃って見上げる。
「それも凄いけど、アレを見たらもっと驚くと思うよ」
「?」
「一旦戻って戻って」
百足は華と花樹を連れて離着陸場へと戻った。
「連絡したから、そろそろ来ると思うんだよね」
「そうでしたか……あっ、来ました!」
花樹と百足が見つめる夜空の先に、2つの大きな光が現れた。
「……車?」
二対の光は次第に大きくなっていき、やがて全貌が明らかになる。
「馬車……?」
「はい、ダイヤマトの馬車です」
翼を持った大きな馬が、これなた大きな馬車を牽引して夜空を駆けている。
「空飛んでる……」
「魔法道具ですから。そんな車を牽引するのは天馬、つまり空を飛ぶ馬です」
やがて天馬率いる馬車は地面へと降り立つ。
「これ、大きすぎない……!?」
「当然です」
想像以上に大きな馬車に目を丸くして驚く中、従者らしき人達が飛び出して出入り口を整備する。
「彼らは小姓です。身の回りの整備をしてくれます」
「へぇ……」
やがて整備が終わり、小姓は特定の位置について頭を下げる。
馬車の戸が開き、刀を携えた侍が姿を現しては馬車から降りていく。
「お侍さんが沢山出て来た……!」
「若党、侍です」
従者達が並ぶ中、最後に馬車の中から1人の老人が姿をあらわした。
「お爺ちゃん!?」
馬車から出て来たのは、見事な和装を着こなした祖父だった。
「驚くのも無理はありません」
明らかに一般人とは思えない様相に目を白黒させる中、花樹は華の耳に口を寄せて静かに説明を始めた。
「貴方のお爺様は、かつて藩を統治していた……」
「……」
「ええと、お爺様はかつて定められた土地を管理していた、王様のようなもの凄い方です。つまり「元お殿様」です」
「お殿様……!?」
花樹の説明に華は驚き、そっと祖父の方に目を向けた。対する祖父は「かっかっかっ」と豪快に笑う。
「そうそう、お爺ちゃんは元お殿様! 凄いだろ?」
満面の笑みで自身の役職を自慢する祖父。
「……!」
対する華は状況が飲み込めず、ただ目の前の祖父を眺めるしかなかった。
花樹は驚き戸惑う華を眺めながら、心の中でふと思った。
(華さん……そんなお殿様である祖父のお孫さんだと、まだ理解できてないご様子ですね。家に帰ったらどうなることやら……)




