十三話 まえ姫の本気……?
特訓場の中にある格闘場にて。
「私にまともに敵わないお前が何を偉そうにっ!」
華に手も足も出なかった、せせらぎ家のまえ姫は、部下の放った一言に怒り爆発。
「勝てないなんて誰が決めたぁ!? こんな奴、本気を出せば一撃で葬り去れるんだよ!!」
術師の四十の力によりまえ姫の暴言は観客席には届かなかったが、まえ姫の真正面にいる華には暴言が全て聞こえていた。
「いいわ! そんなに言うなら! こっちも本気を出してあげる……!」
心配そうに見つめる華の前で、まえ姫の瞳が怪しく輝いた。
「謝っても絶対に許さないんだから……!」
華を脅すかのようにそう言い放つと、まえ姫の魔力が大幅に跳ね上がった。
「!?」
「ふふふ……!」
溢れんばかりに放出される魔力に華は驚き、まえ姫は勝ち誇ったかのように笑い出す。
まえ姫は膨大な魔力で身を固めながら華を見つめる。
「私の姿を目視できるのはこれで最後よ……! はあっ!」
まえ姫はそう豪語すると、全身から眩い閃光を放った。
「!」
華の視界は閃光に覆われ、何も見えなくなった。
周囲に展開してある結界は閃光を通さず、観客席からは華とまえ姫の姿を視認できる。
「貴方はその気になれば、魔力を遮断して隠れられるみたいだけど……お生憎様、私もその気になれば完璧に身を隠せるのよ。貴方よりもね」
視界が白で覆われる中、まえ姫はゆっくりと語り始めた。
「貴方はこちらを視認できない。私を探すには魔力探知しかない……でも、魔力探知には魔力が必要なの」
「……」
「貴方に、この言葉の意味が分かる?」
扇子を手に余裕綽々で話を続けるまえ姫は、真っ白な景色の中に華の魔力を探知した。
「そう、その通り……私に攻撃するには、どうしても魔力を放出しなければならないのよっ!」
まえ姫は莫大な魔力を扇子に込めると、魔力を感知した方向に向かって全力で斬撃を放った。
とんでもない量の魔力が込められた悍ましい斬撃が幾つも放たれていく。
「あっはははは! ねえどんな気分!? 何もできずに一方的に蹂躙されて、本っ当に無様ねぇ!!」
まえ姫は大笑いしながら全力で叫ぶ。
「貴方みたいな現代住みが四季魔法学園に受かる方がおかしいのよ! ほら! 認めなさいよ! 私は負け犬ですって!」
「…………」
「反撃すらできないでしょうね! まあ、今の私は多量の魔力で守られているから、攻撃されたところで大した打撃にはならないけどね!」
凄まじい攻撃が繰り広げられる中でも、華は一切喋らない。
「……はぁ、呆れた。家族が来てるからって強情張ってるの? 親からそんな新品の魔法衣を貰っている手前で、今更負けは認められないってわけ?」
苛立ちを隠せないまえ姫は、華にとどめの一撃を放つために、華に向かって魔法陣の展開を始めた。
「それなら……私が貴方を負かしてあげるっ!!」
目の前に展開した魔法陣に両手を翳すと、魔法陣からありったけの魔力を込めた特大の光線を放った。
「あっはははははは!」
恐ろしいほどの魔法光線は真っ直ぐ放たれ、凄まじい衝撃が周囲に広がる。魔法で舗装された地面が大きく削れる。
「あははははは!」
華のいるであろう方角からは悲鳴どころか、物音ひとつすらしない。
「姫っ! 姫ーっ!」
一方、観客席に座るせせらぎ家の術者、白夜は必死になってまえ姫に声を飛ばす。しかし、まえ姫に白夜の言葉は届かない。
「ふふふ……! 現世人を相手に、つい本気を出してしまったわ」
まえ姫は魔法陣を消しながら満面の笑みを浮かべると、自身を防護する魔法と閃光を全て消し去った。
まえ姫の技を受けて地面に倒れた華を眺める為だ。
閃光が全て消え、全貌が明らかとなる。
まえ姫の真正面には誰もいなかった。
「!?」
まえ姫がずっと攻撃を向けていたのは、華の魔力だった。
閃光が放たれたその瞬間、華はその場に魔力を残して走り去った。
しかし、流石の華でも閃光の中を走るのは難しい。しかし、閃光の中で輝くまえ姫からは溢れんばかりの魔力が放出されていた。
突然魔力量が上がったが、まえ姫はその多量の魔力を制御できず、周囲にこれでもかと垂れ流していたのだ。
華は相手が勝手に流してくる魔力を感覚で理解し、感覚でまえ姫の背後を取った。
そして、まえ姫の背後でずっと、相手が油断する隙をうかがっていたのだ。
華はまえ姫の性格から、何となく察していた。まえ姫は何処かで絶対に油断する……と。
「まずい……!」
何処かから攻撃が飛んでくる。まえ姫は咄嗟に魔力で身を固めた。
しかし身を固めるより先に、華が動いた。
「はあっ!」
華はまえ姫の背中に向かって、両手から特大の衝撃波を放った。
「……!?」
まえ姫はその場から吹き飛び、頭から地面に倒れ込んだ。
「ぐっ……この……っ!」
まえ姫は急いで扇子を構えて攻撃に移るも、扇子から魔法弾が放たれる気配はない。
「……は?」
同時に、まえ姫側の地面が黒く変色した。
(私も魔法が撃てない……これって……)
お互いの魔法使用が不可になり、まえ姫側の地面が変化した。
これは、まえ姫の守る盾が割れて敗北したことを意味していた。
「それまで! 勝者、菜乃華!」
華側の勝利が決定されたその瞬間、菜乃家側の観客席から歓声が湧き上がった。
「勝った……!」
「いやぁ……姫、実に素晴らしい……!」
じわじわと勝利を実感し始めた華は、笑みが滲んだ顔のまま観客席に移動する。
そんな華を、花樹を始めとした菜乃家の面々が迎えた。
「相手の隙をついた、見事な一撃! 天晴れであった!」
「お爺様、ありがとうございます! 稽古をつけてくれたお陰で、ここまで強くなれました!」
「あれだけの一撃を叩き込めるとは……凄かった、菜乃家当主としても鼻が高い」
「貴方自身、すっごく努力したってことが分かったわ。よく頑張ったわね」
「伯父様、伯母様、ありがとうございます! あの屋敷を貸してくれたからこそ、あそこまで頑張れました!」
華は周りの面々に次々とお礼を述べていく。
そんな華に、花樹は惜しみない拍手を送りつつ、悔しそうに立ち上がるまえ姫を見つめる。
(無駄に自尊心が高く、他者の実力を理解せず……何の根拠もなしに「自分が一番」だと思い込む……こんな相手が、華さんに勝てるわけがない)
まえ姫の周りを大勢の術師が囲み、術者の白夜も大慌てで駆け寄っている。
「姫ー! 大丈夫ですかー!」
白夜は誰よりもまえ姫を心配していた。どうやらあの見栄っ張りの彼女を心から心配してくれる相手は存在したらしい。
こうして、初決闘は華の勝利で幕を閉じた。
「……こんなの、認めない……!」
祝われる華を、まえ姫は恨めしい表情で睨みつけている。
そんな彼女からは、何とも言えない悍ましい魔力が溢れ出していた。




