どうしてここまで少子化になってるわけ????
「皆さん、ご存知の通り。日本でトラックに跳ねられたり、過労死したりする奴が最近やたらと増えている。我が世界の転生者キャパシティは、とっくに限界突破しているのだ」
天頂の天の声を司る中央システムが、我々と音声会議を行っていた。国を挙げての大規模な全体会議なんて、滅多にないことだ。
うちの村も、当番の奴ら以外は全員会場に集まっていた。
「今、最大の問題となっているのは、彼らが現地の少子化に貢献しないどころか、赤ん坊として転生し、新生NPCの枠を勝手に埋め続けている!」
客席からざわざわと私語が漏れる。確かにここ数年、赤ん坊として生まれてくる奴らが異常に増えていた。
あいつら、子どもの頃は「俺の魔力がバレたら大変だ」とか言って妙に知った風な顔をして魔法を使わないくせに、大人になったらなったで無駄に魔法を乱発しやがるんだ。
「しかも、その赤ん坊どもは大きくなると、勝手に冒険へ出かけおる! 元の空き枠は誰も埋めん! 我々が人間を製造するスピードが、奴らの転生速度に追いつかんのだ! あの国は今、総出で異世界モノを創作してやがるのか!!!」
おいおい、中央システムのくせに随分とノリが軽いな。もっと効率よく働けよ。
「とにかく、今から抽選を行う」
我が村の会議机から、一本のおみくじ筒がせり上がってきた。
「展開が早すぎるだろ」とみんながブツブツ文句を言う。
あまりにも突然だった。私たちは列に並び、竹のクジを引き抜いていく。そのクジは無限に湧き出るかのように、ずっとピカピカと明滅していた。
――ワイバーン(幼体)。
何だこれ。
「これより、本来のシフトに加え、皆さんには一時的に別のロールを演じていただきます」
はぁ???
「人材不足の穴を埋めるため、キャラクターの補充が完了するまで、全員毎日3時間の残業をお願いします」
クジを裏返して時間帯を確認する。――『夜20:00〜23:00』。
おいおい! それって、ガチで百合を見るゴールデンタイムじゃねえか!!!
あーあ。
毎晩ポップするモブモンスターになっちまった!
「ちょっと、私、全然そういうキャラクターじゃないんですけど」
クジを掲げて村長に抗議する。
「これから臨時の変身セット『ブレスレット』を配る。それをつければ、他人の目にはその外見に映るようになるから安心しろ」
「はぁ……」
全員から怨嗟のうめき声が漏れる。
「みんな、しっかり頼むぞ」と村長が手を叩いた。
あんな立派なヒゲを蓄えた「ザ・村長」って見た目の奴のくせに、あいつが引いたのは【伝書鳩】だった。そのまま飛び回って過労死すればいいのに。
隣のスライムたちの群れが、急に激しく飛び跳ね始めた。
「どうした、お前らは一番数の多い種族だろ?」村長が頭を掻く。
スライムたちは会場中をパニック状態でぐるぐると狂ったように回り始めた。
「あーあ」
「何があったんだ?」私は隣の奴に尋ねた。
「ここ数年、スライムをメインにした作品が増えすぎたんだよ。スライムの在庫が底を突いたらしい」八百屋の2号が教えてくれた。
「あのブーム、一回落ち着いたんじゃなかったっけ?」
「AIに学習させて……作者たちにプロットを提案したら、またアホみたいに大量生産されちまったんだと」
「あちゃあ……」
そう言われると、ちょっとスライムになりたかったな。座ったまま動かなくてよさそうだし……。スライムの群れの中に、百合漫画を嗜む奴が1匹や2匹混ざってたって、別に不自然じゃないだろ?
トレードできないか手を挙げようとしたその時――
「もうすぐ夜8時だ! 8時枠を引いた奴はすぐに出発しろ!」
「チッ」
ワイバーンならワイバーンでいいや。
私は手首のブレスレットを起動した。
要するに、裏山をうろついてりゃいいんだろ。
いっそのこと、湖畔に座っている時間を固定して……奴らが学習すれば、決まった時間に私を狩りに来るようになる。そうなれば……速攻で定時退勤だ!!!
私は翼を広げ、指定された山へと飛び立った。
「よお、お前A村の奴か?」
上空から巨大なエコーが響いた。
見上げると、私の3倍はあるレッドドラゴンが旋回していた。
「お前は手前の街の奴? お前も残業?」
「俺は飛ぶだけ。お前が悲鳴を10回あげたら降りていくことになってる。隠しキャラ属性だからな」
「おいおい! 10回も!? どんなクソ対応の母親役だよ!」
「しょうがねえだろ、俺がドロップする素材のレアリティを調整しなきゃいけないんだから」
自分の平凡すぎるHPゲージを確認する。
「待って……万が一、私が2、3発殴られて死んじゃったらどうなるの?」
「だから隠し設定なんだよ。お前が死んだら俺も退勤だ」
どうせ1日1回しかリスポーンしないんだ……奴らがこの仕様に気づくにはまだ日数がかかるだろう……。
「分かった分かった!」
私は地上へ向かって急降下した。ここは村からも遠くない。ぶっちゃけ、アタリの役を引いたかもしれない。
密林をかすめ、湖面へと進む。
おや? 今、一瞬オレンジ色の髪が見えたような。
あの百合系の子か? 私は速度を落とした。
やった! 本物だ!
私は翼を大きく羽ばたかせ、大音響を響かせた。
早く私を殺して! カモン! ドラゴンのドロップアイテムは美味いぞ!!! しかもこれで上がれる!!! 来い! 光速で私を落として……
大剣が振り下ろされる。
さすが私が売った村一番の剣だ。悲鳴をあげる暇もなく、私は撃沈した。地面に倒れ込んだ私の体から、ルビーがポロッと転がり落ちる。
「ソフィアさん……?」
「え?」
なんでバレてんの? ブレスレットを確認したが、完全に正常作動している。
頭上のレッドドラゴンはさっさと飛び去っていった。
ちょっと待てよ! バグってないか確認するのを手伝えよ!
「宿屋のソフィアさんですよね」
彼女がどんどん顔を近づけてくる。彼女の髪の色が、やけに鮮やかに視界に映る。
「私のこと、覚えてますか?」
「……」私は死んだドラゴンだ。喋っちゃいけない。
「ソフィアさん?」
「……」
「ソフィアさん?」
「……」
「ソフィア2号さん?」
「……」
「えっ!? なんで私が2号だって分かったの!?」
私は思わず飛び起きた。背中が重い。翼も尻尾もついたままだ。
転生者から見れば、私たちのグラフィックは全員同じはずなのに。
「君のシステムステータスに『2号』って書いてありますよ」
「あ! なんで内部システムが見えてるわけ!?」
「うーん……たぶん……私、バグでここに入り込んだからかな」
「はあ???」
私は急いで彼女のプロファイルを開いた。
Nancy……名前か!
『R18百合ゲーム』のキャラクター! うちの世界、全年齢対象なんだけど!
「転生する時に、こっちのシステムをちょっと覗き見しちゃったんです」彼女はへへっとだらしなく笑った。
「じゃあ、私たちのシステムの中身が全部見えてるの!? 嘘でしょ!」私は気まずくなって後ずさりした。
「名前と職業くらいしか見えませんよ。開かない限り、外見のモザイクは透視できませんし」
「……」
「……」
「ちょっと待って、私が百合好きだって知ってるみたいだけど……そんなのプロファイルに書いてあるわけないよね」
彼女との今までの取引を思い出すが、いつも忙しくて、すぐに次の客の番になっていたはずだ。
「うんうん、ええと……だって、私がスタッフ用トイレに入った時、君が百合ラノベを読んでるのを見ちゃいましたから」
「あ! なるほどね!」
「……」
「……」
「って、なんであんたがうちのスタッフ用トイレに入り込んでんのよ!!!」
「いやぁ……エロゲの主人公って……」彼女は意味深に微笑んだ。「基本どこのトイレでも入れるんですよ~」




