第一章:(8)
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この作品はロサンゼルスのギャングの世界の空気感を描くために、一部バイオレンスが描写が含まれておりますが、基本は主人公が偏差値30から東京大学へと進学していく過程ときっかけを描いたものとなりますので、楽しく読んで頂ければと思います。
「で、人数は何人必要だ?」
シビックの助手席でケントを吸いながらキングはJに聞く。放課後、Jはキングを助手席に乗せ街中を走っていた。
「別に戦争する訳じゃねぇし、オレはギャンブルを楽しむだけだ。大人数で押し掛ける事は無いさ」Jが答える。
ポーカーで勝負をしたマイキーは結局勝ったようだ。しかし、問題は相手がマイキーに対して金を払わないという事態が発生したことだった。こうなると非常に複雑な状況となる。当然マイキーのような立場で払えと言えば、殴られることとなるが、時にはギャンブルに勝ったというだけで後日襲われるような理不尽なケースもある。
それだけならJが乗り出す義理も無いが、マイキーの相手はグリーンに所属するミックたちだ。ついでにJが話したい相手もいることと、キングの余計な一言がこの事態を招いたので、キングに責任を取らせるためにもこの話に首を突っ込んだ。こういう作戦めいたことが好きなキングなので、Jが話を持っていくと二つ返事で乗ってきた。
キングは煙草を窓から投げ捨て、ラジオをヒップホップステーションからポップスステーションへと変えた。エリック・クラプトンの「いとしのレイラ」が流れている。
「しかし、マイキーは役に立たねぇし。二人では危険だ。Jのギャンブルの邪魔をしない程度の人数にしておくさ」
キングは笑いながら言うが、こういう場面においては本当に頼りになる男だ。
キングを降ろした後、まだ夏じゃないかと思わせる日差しの中、全開の窓で海風を感じながらパロスバルデス半島を背に海岸線を北に流した。海は太陽を受け青く煌き、放課後のサーフィンを楽しむ高校生達がいた。この平和な景色を演出する、太陽が沈んでからが勝負だ。
キングが用意したのは3人だった。
誰もが屈強な男たちで味方としては頼もしいほどに目付きが悪い。Jのシビックにキングが乗り、残りの3人がもう一台に乗り、2台連ねてグリーンの連中がギャンブル場にしているレストランの駐車場に着いたのは夜8時過ぎだ。
当然治安の悪い地域にあり、モールの雰囲気からも危険な空気を感じる。既に駐車場に来ていたマイキーを先頭にレストランへと入っていく。マイキーが店員に何かを伝えると、そのまま奥の個室へと通された。
「What’s Up」
Jが顎を軽く上げて部屋に居る連中に挨拶する。
ミックとその部下が驚きの表情をするが、予想通りでJには楽しい光景だった。
「J、どうしたんだ?あっ、こいつはスティーブだ」
親指で横に立つ部下を指して紹介する。痩せ型の男で粗暴さが隠れていない。Jは激しく睨まれているが、この場でそれを気にする必要もない。
部屋の奥にいる幹部のパットを囲む部下の4人は臨戦態勢に入った。それを見てキングの部下3人もすぐに動ける体勢を作る。
「おいおい、喧嘩しに来た訳じゃないぜ」
Jが両手を下向きに広げ、落ち着くようにジャスチャーをする。パットもそれに同意のようだ。パットはグリーンの幹部であり、当然この連中の中では最上位の人物だ。20代中盤の彼は喧嘩だけでのし上がって来た訳では無く、知性もある。身体の線は細いが、オールバックの髪型と喧嘩慣れしたその目が威圧感を与える。
「おぉ~J、歓迎するよ。まさか貴様と勝負出来るとはな。ジャック・ダニエルいるか?」と全く歓迎していない口調でパットはJを出迎える。
「パット、こいつは・・・」と言い始める前に、
「知ってるよ、ブルーのキングだろ。オレの方が年上だが、こいつには敬意を表さないとな。キングがいるからこそ、オレらは簡単に手は出せない、そうだろ?」
パット笑顔で答えるが、目は一切笑っていない。そしてJとキングに座るように促す。
「ジャックは俺の好物だ。俺の方が貰いたいんだが」
軽口を叩きつつキングがテーブルに座り、それを見てJも座る。マイキーやミック、双方の部下は立ったまま状況を見守っている。
テーブルには決して綺麗とは言いきれないグラスとジャック・ダニエルのボトルが運ばれてきた。Jはマルボロを取り出し、火を点けながら
「お前の仲間は金払いが悪いっていう悪い癖があるみたいだな」
とパットを見ずに話しかけた。
「お前に借りた金の話か?」
パットはグラスにウィスキーを注ぎながら聞き返す。
「あぁ、それもある。ただ、ミックはギャンブルで負けた金を払わねえらしいんだよ。そうだよな、ミック?」
パットは横に座るミックを厳しい表情で見る。ギャンブルの金のことではなく、今パットらが置かれている状況を招いた原因が、ミックにあることを悟ったからだ。この状況こそJが待ち望んでいたものだった。場の流れがJのペースになりつつある。
ミックは何も言えず、ただテーブルを眺めているだけだ。この場がどう動くのか、そして終わった後に自分がどうなるのか、色々と考えている。ミックの横に立つスティーブは、粗暴さだけでなく殺気まで隠すことなくJに向けている。
そんなことは気にせずに、キングは楽しそうに自分の分とJの分のウィスキーをグラスに注ぎ、レストランのメニューを眺めている。場の雰囲気が有利に展開していることを、キングは察しているようだった。
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