第一章:(9)
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この作品はロサンゼルスのギャングの世界の空気感を描くために、一部バイオレンスが描写が含まれておりますが、基本は主人公が偏差値30から東京大学へと進学していく過程ときっかけを描いたものとなりますので、楽しく読んで頂ければと思います。
「勝負はブラックジャック。役はブラックジャックが色に関わらず2倍、それだけだ。ベットはジャクソン。やるのはお前とオレ、一対一だ」
Jが一気に提案する。ギャンブルにかけては一目置かれており、これに反対する理由はパットたちには無い。また、先程のけん制で既にペースはJに握られており、パットは黙って頷くしかなかった。1回20ドルの勝負は安くは無い。しかし、一気に勝負を付けるほど高値でも無く、Jはこの場でのギャンブルを本気で楽しむ気だった。
「おいおい、俺は仲間外れなのか?」
キングは笑いながら言うが、既にメニューから数品注文しており、彼はギャンブルでは無く食事の方を楽しむ気だった。
「オッケーだ。ただ、カードはこっちで配る。ミック、お前がやれ」
パットは指示をだす。ミックはカードを用意してテーブルの横に立った。いかさまの可能性はあるが、Jだって一通りのいかさまの方法は知っている。見抜けなければ自分の落ち度だ。誰が配ろうが関係ない。そう考えていた。
「勝負の後、金払いでもめたくねぇから、プレイは現金でやりたいんだが、あいにく現金の持ち合わせがない」
Jが手を広げてパットを見ながら続ける。
「ただ、目の前に銀行がいるからな。800ドル、オレの貯金を下ろしたいんだが」
「800だと!オレが借りたのは200だぞ。倍の利子でも400だろ」
パットが即座に言い返す。
「忘れたのか?オレの利子は1週間で倍だ」
Jは「1週間」の部分をゆっくりと強調して言う。
「お前が借りたのは2週間以上前の話。先週の段階で倍の400、そして今週になってその倍の800だ。お前のことだ、それくらい持ってるだろ?」
パットにとっては殴りたくなるくらい憎たらしい顔でJはパットに説明している。
「馬鹿野郎。200ずつ増えていくなら今週は600だろ」
経済的にはJは複利で計算した額であり、パットの方は単利で計算した額であり、両方共に正しい。元本に対する利息の付け方の問題だ。当然だが、そんな細かいことを明記した書類がJとパットの間で交わされているはずがない。「1週間で倍」というJのルールを知った上で、何の念書も交わさずに金が動いている。
組織に属さないJが、組織の幹部クラスの人間に金を貸す事態がどうして生まれるのかと言えば、やはりギャンブルにある。ギャンブルをすれば勝ちもあれば負けもある。どんな人物でも大きく負けた時、その場で払えないケースもある。ギャンブルの場に顔を出すJが金を貸す機会はこうして訪れる。
その場で払う必要がある場合、利率が倍でも借りることになる。
ただし、書面を交わせば取り返す証拠にもなるが、闇で金を動かしている証拠にもなる。そんな面倒な事態を避けるために、口約束だけで金を動かす。取り戻せるかどうかはJ本人の実力にかかっているが、こういう場面において、友人にキングがいることが大きく助けになっていた。
恐らくパットはこんな事態になるまでは、金を返す気は無かっただろう。だから明記されていない利率からJは複利を選んで話を切り出した。当然相手は単利で反論する。
「オーケー、じゃあ600でディールだ」
Jはジャック・ダニエルが入ったグラスを軽く持ち上げてOKのサインとし、グラスを空けた。
交渉に勝った安堵感からパットは600ドルを現金で支払う。しかし、元々は払う気が無かった金であり、既に完全にJにペースを握られていた。
「あ、あと先日のマイキーの勝った金、152ドルも払えよミック。ギャンブラー名乗る以上、負けた金は払え」
この最後の一言がギャンブラーには有効だ。
Jの手札はアップの8とホールドの6。状況としては最悪の手札だ。当然これで勝負には出れない。ヒットしても8でアウトな以上バストする可能性が高い。
「スタンド」Jは躊躇無く言った。
この場合の戦略は、ホールドの手札が10以上と相手に思わせて、相手がバストするのを待つということになる。手札が悪い時の基本戦略だが、こんなのは8歳の子供でも行う手だ。効果を生むかどうかはこの勝負には現れない。
ホールドカードで行うゲームにおいて、相手の目を見ることは重要だ。そこには自信や躊躇など様々な表情が浮かぶ。逆を言えば表情が変わらないことは最大の武器となる。
Jはグラスに注がれたジャック・ダニエルを飲みながらパットを見ている。悩んでいる以上15、16あたりだろう。
「ヒット」パットの声と共にカードが広げられ、5が出てきた。
「イエス!」というパットの声が響きK、6、5の21の手札が出てきた。
場に出した20ドル札がパットの元に行き、奴は嬉しそうにグラスを開ける。Jはすぐに次の20ドルをテーブルに置きカードを待った。
手札はアップの9とホールドの6。「スタンド」Jは間を置かず言う。
この勝負もパットが18で勝った。
テーブルでの勝負はパット有利で進んでいく。しかし、Jが次々にスタンドを連発するため、ゲーム時間の大半はパットの思考の時間となっている。Jは13までならヒット、それ以上ではスタンド、という基本姿勢を取る。しかも、判断に躊躇は無い。勝負時は何故か鼻で分かる。その時が来るまではこの基本姿勢で思考せずにゲームは進む。
負け続けていた訳ではないが、200ドル近くはパットが勝っている。しかし、徐々にパットの手が荒れてきているのが分かる。
ブラックジャックは、2枚から多くても5枚のカードに完全に依存するゲームであり、正直「運」が大半を占める。ビギナーでも「運」が良ければいくらでも稼げる。
カードが運に依存する以上、勝負を分けるポイントを作るとしたら「疑心暗鬼」だ。出てきたカードに一喜一憂しても始まらないし、預言者でもないのだからそれは予測出来ない。と、すれば相手のカードに対する「読み」に「疑問」を抱かせるのがカード以外での唯一の勝負の要素となる。
勝っているパットの中に疑問が湧き始めている。Jが14でも19でも変わらない表情でスタンドを連発する以上、アップのカードが上位の数字の時、パットは必要以上に考えるようになり、バスト率が徐々に上がってきたのだ。
長く思考を続けると体力を消耗する。そして、体力の消耗はギリギリの判断を求められる時に、楽観や悲観という極端なケースをすぐに想像してしまう。
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