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裏通りの東大生  作者: Jzou
高負荷トレーニング

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第五章:(11)

沢山の作品の中からこの作品をご覧頂き、ありがとうございます。


この作品はロサンゼルスのギャングの世界の空気感を描くために、一部バイオレンスが描写が含まれておりますが、基本は主人公が偏差値30から東京大学へと進学していく過程ときっかけを描いたものとなりますので、楽しく読んで頂ければと思います。

「やるべきことを全然やってないじゃない」


裸でベッドに寝ているJにキスをした後、素肌にTシャツ1枚だけを着たミッシェルが馬乗りになり、強い口調で注意する。


地元LAの大学に進学したミッシェルは、大学近くに住むようになり、Jはミッシェルの家に遊びに行っていた。

夏の間、夏が過ぎ、秋を迎えても、Jはミッシェルとのデートを重ねると共に、キングたちとの夜遊びも続けていた。時々軽くは注意をしていたミッシェルだったが、少し強めに注意をする必要を感じたようだ。


「いや、SATⅡも受験して一回で十分な点数を出せたし、日本の大学を受験するのに必要なTOEFLも何とか点数を揃えたよ」


「それはJから聞いてるから知ってるよ。そして、キングたちと遊んでるのも知ってる。テストは受けたけど、そのほかは?私は日本語分からないけど、Jも日本語読み書き出来ないって言ってなかった?テストは日本語なんでしょ?」


Jには返す言葉も無かった。自分の名前の漢字さえ、書くことが出来るか怪しい。だからこそ日本の文学作品を読み始めたが、物語を読むだけで漢字の学習も試験対策も何もしていないのが現実だった。


「お母さんじゃないから『勉強しろ』なんて言わないけど、本気のJを少し出して。勝負に負けたら格好悪いでしょ?」


言い終わると優しい顔になりJにもう一度キスをしてベッドを降りた。


「勉強してもしなくても、合格・不合格はフィフティ・フィフティだ。それ以外の結果はないからね。大丈夫、オレは勝負運は良い方だ」


ベッドから起き上がったJに、「期待してるからね」と笑顔で言うとJに背を向けてTシャツを脱ぎ、大学に行くための準備をし始めた。




ミッシェルの家からLAの街をシビックで走り家に向かいながら、Jは受験までの日数を逆算してシミュレートし始めた。


ミッシェルの言葉を借りなくても、この勝負に負ける未来は「なりたくない自分」への道だ。そうであれば合格までのシミュレートが必要であり、ウサギがそろそろ目覚める時となりそうだ。



成功への、上達への最短ルートは高負荷での反復練習だ。


それはゲームでもスポーツでも勉強でも変わらない。


少し負荷の強い反復練習を圧倒的回数繰り返し、高い負荷に体を慣らしていく。日本の受験における成功への道は案外シンプルだ。過去問を毎回確実に90%前後の正答率で時間内に解くことが出来ていれば、かなりの確率で道は開けてくる。やるべきことがほぼ明確に示されている以上、これを解けるだけで良い。シンプルであり、攻略としてはストリートレースやギャングとの交渉より遥かに単純だ。


東京大学の過去問を取り寄せ、解ける範囲で問題に取り組む。


最初は制限時間をオーバーした上で、解ける問題そのものが少ない。ここから修正をかけていく。制限時間が60分ならば、50分を制限時間にセットし、その時間内で解き終わる自分を作り上げていくべく、徹底的に反復練習をしていく。また、解けない問題に対しては、何を知ることで解けるようになるのかを逆算していく。これもゲームで培ったシミュレート能力の賜物だろう。解くために必要な知識のルートとステップはすぐに割り出せた。過去問以外の部分で必要な日本語力、英語力、日本の社会問題などの知識もまた徹底的な高負荷反復練習を行う道筋も作り上げた。


「これなら間に合うな」


受験日まで3か月ほど、ウサギがダッシュをしてゴールまでギリギリだが、合格というゴールに向けて一本道がクリアに見えて来た。これだけの時間があって過去問も十分に解けないようでは、負荷不足か練習不足か、何よりもやる気不足だろう。


このやる気が起きる瞬間をJは待っていたし、そのきっかけはミッシェルの存在だった。



朝になるとデニーズに向かい、コークを注文する。


まずは過去問を「解く」。


いや、「解く」という単語はこの場合正確ではない。単に「やる」だけだ。制限時間の60分より短い50分の間に解き終わることは無く、時間が無く解けなかった問題だけでなく、問題そのものへの理解が進まなかった問題さえ多い。それでも、この50分に身体を慣らしておくことが重要だ。「ゆっくりならば解ける」ことは、受験や試験においては重要ではない。制限時間内に解き、見直すことまで出来なければ合格は見えてこない。時間に身体、解くスピードを合わせる必要がある。


解答をチェックして修正をかけたら、他の年度の過去問に移る。同様に50分で解けることを目標に進め、やはり半分ほどで時間切れとなる。


2時間も脳を使えば疲労も溜まる。ここでさらに前に進もうとしても集中力が低下している中で行っても成果は低く、効率が悪い。丁度空腹にもなってくる頃だ、


「ムーンオーバーマイハミーとコークお代わり」


コークは飲み放題なのが嬉しい。熱々のサンドイッチが供され、塩気のあるハム、熱々のオムレツ、溶けたチーズの三位一体を頬張る。空腹を満たすこと、カロリーで身体を癒すことも大切だが、定期的に注文して店に金を落とすことも居座る身分としては重要だ。


一休みを終えて、次に取り掛かるのは日本語ならびに日本に関する知識の構築だ。


漢字が分からず、ことわざも四字熟語も知らず、都道府県も歴史も公民も分からない。これを受験レベルまで高めなければいけないが、ここで用いるのも高負荷の反復練習だ。


覚えるための取っ掛かりとなるポイントを作り、あとは徹底的に何度も白紙に書いて、また書いて、そして書いてと繰り返す過程で知識を定着させていく。元々が低レベルの知識だっただけに、どんどん入っていく知識が楽しくなってくる。


レベル1を2や3にすることは、レベル8を9にするよりも容易く、だからこそ楽しいのだ。この脳が楽しい、容易いと勘違いをしている内に、勢いを付けて知識のレベルを5や6まで一気に持っていくのがポイントだ。


「チーズケーキとコークお代わり」


数時間日本の知識構築に費やした後はスイーツの時間だ。単純にケーキの味を比べるならロングビーチまで足を伸ばした方が美味しいが、疲れた脳と体にチーズケーキの甘さが沁みる。


そしてもう一度、最初にやった年度の過去問に取り掛かる。


50分に設定した独自の制限時間だが、最初よりも着実に解ける問題数が増えている。うさぎが走る道のりの、ゴールまでの距離が縮まっていくことが実感出来ていた。

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