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裏通りの東大生  作者: Jzou
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第五章:(6)

沢山の作品の中からこの作品をご覧頂き、ありがとうございます。


この作品はロサンゼルスのギャングの世界の空気感を描くために、一部バイオレンスが描写が含まれておりますが、基本は主人公が偏差値30から東京大学へと進学していく過程ときっかけを描いたものとなりますので、楽しく読んで頂ければと思います。

「ジャックとセブンのツーペアだぜ」


マリファナをふかしながらミックが得意げにカードを開く。


「エースのスリーカードだ」

Jがカードを開く。


卒業も近くなっているが、Jは相変わらず賭場を開いてギャンブルの日々だった。この日の客はミックにマイキー、リチャードという面々だ。


「さすがJだな」


と相変わらずのイケメンな笑顔でリチャードは言うが、リチャードもこの日はしっかりと勝っている。


そんな賭場にやってきたのはラルフだった。


「ようJ、邪魔するぜ」


「おっと、珍しい客だな」Jが顎を上げて挨拶しながら言うと


「いや、客としてじゃねえ。Jに話があってな」


もう少し続けたいミックは不満を態度で見せているが、この場にラルフを知らない者はなく、相手がラルフではそれ以上は何も出来ない。Jも手を止めて立ち上がる。


「ゴールドのウィルがな、お前のことを探し回ってるって話を耳にしてな。お前と連中との関係を考えたら穏やかな話しじゃねえ。ここに来てないかと思ってな」


Jはビリーから金を受け取ったが、その後組織内でウィルがどういう処分を受けたのかは聞いていない。生きていることはこれで分かったが、だいぶ恨みを買ったことだけは確かだろう。


「それはまた面倒なヤツが、面倒なことしてるな」


どうやらこの場所をまだウィルが掴んではいないようだが、Jとしてはウィルやゴールドの連中がこの場所に来ることを想定しなければいけなくなった。不用意に彼らに会うことは、なりたくない自分への道でしかない。その未来を回避する布石として、そろそろ賭場を開くことも潮時だろうと思った。


「Jにはデカい借りがある。オレだけでなく組織としてもな。ウィルに金を貸した時に、隣に居たのもオレだ。勿論、お前を守るつもりだ」ラルフが言うと、


「ブラックやブルーに比べたら何も出来ないけど、何かあればオレらも加勢するさ」立ち上がりながらリチャードも続く。


「悪いな、それは正直助かる」


こういう局面で頼りになる連中が味方でいてくれる。シミュレートしたよりもJの安堵感は大きかった。


「グリーンとしては動かないが、オレも加勢してやるよ」意外なことにミックまでが続く。


「オレは・・・」とマイキーが口を開き、


「大丈夫だ、お前には期待してない」


とJが返すと全員が笑った。この口約束だけでも、この街で生きる上では十分な保険となるだろう。



ラルフたちと別れた後、Jはレース相手を探してフリーウェイを流す気にはならず家に戻った。特に何を考えるでもなくベッドで横になっていると、ケイトから電話があった。Tシャツの上にシャツを羽織り、Jは再びシビックに乗り込んだ。


ケイトの家に行くと、彼女の自宅前に停めてある白のターセルにもたれながらケイトが待っていた。手を小さく振りながら、顎を軽く上げて挨拶をするケイトの横にシビックを停める。


「さ~て、どこに行こうか?」シビックに乗り込むケイトにJが言うと


「海岸線でも流そうぜ」

とケイトが応じ、車は海へと走り出した。


ポップスステーションに変えたカーラジオから、フージーズの「Killing Me Softly」がラジオから流れる中、シビックは夜の海岸線を流していた。


「卒業したら今まで通りじゃなくなるんだよな」


ケイトが静かに話し始める。


「毎日なんてどこかでずっと何も変わらないと思って高校に行ってるけど、卒業すると誰かは大学で州を出るし、誰かは働いて会えなくなるし、今までの当り前が当たり前じゃなくなるんだよね。Jも日本に行くんでしょ?それならもっとJとの時間を一緒に過ごしたいって思ってね」


「卒業後の自分たち」という現実が近く訪れることはカレンダーを見れば誰でも分かる。しかし、「毎日の繰り返し」を過ごしている中で、それが永遠に続くような錯覚に陥るのも事実だ。改めてこの毎日が終わりを迎え、いつも会う仲間と会えなくなる限りなく近い将来を考えた時、ケイトだけでなくJもまた感傷に浸る気持ちになる。


それでも、なるべくいつも通り軽口で返そうと、


「オレの場合は、ほぼ受からない大学に受かればという奇跡的な条件が揃えばな」とJは笑いながら話す。


それでも車内にはカーラジオからの曲だけが流れる時間が生まれた。


「あ~、Jのマルボロの煙のせいで目が痛い」


とさっきまでの静かな口調から一転して突然ケイトは大きな声をだした。


「いや、吸ってないよ」


「いつも吸ってるから車の中がずっと煙い」


ケイトは助手席の窓の外、夜の海を見ながら涙を流していた。

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