第五章:(2)
沢山の作品の中からこの作品をご覧頂き、ありがとうございます。
この作品はロサンゼルスのギャングの世界の空気感を描くために、一部バイオレンスが描写が含まれておりますが、基本は主人公が偏差値30から東京大学へと進学していく過程ときっかけを描いたものとなりますので、楽しく読んで頂ければと思います。
抗争が行われる日の朝だがJはいつも通り、ヒップホップを大音量で聴きながら学校に向かう。
Dr. Dreの「Keep There Heads Ringin’」が流れ、リズムに乗って頭を揺らしながらクレンショー通りを朝の渋滞の中でゆっくりとドライブする。
抗争があるのに穏やかなのはキングの存在だ。
ブルーとして本格的な援軍を送る訳ではないが、ブラックの抗争にキングが乗った時点でJの出る幕は無いだろうと思っていた。ありふれた日のちょっとした用事で終わることを確信していたため、いつも通りの朝を迎えていた。
学校の駐車場に車を入れ、さらに一曲聴き終わってから車を出ると、ミッシェルもまた車を降りるタイミングだった。
「おはよう」
Jが声をかけると
「あ、J、丁度良かった」
と笑顔で手を振りながら近付いてくる。
「今日買い物があるんだけど付き合ってくれる?」
「それって、買う候補を延々と見る買い物?それとも物を購入する買い物?」
Jが笑いながらからかうとミッシェルは口を尖らせふて腐れた表情をする。
「いいよ、どっちでも付き合うからさ」
「ホント、良かった~。じゃあ4時くらいに来てもらえる?」
嬉しそうに笑顔に戻る。
4時に迎えに行く約束をして、Jは図書館へと向かった。
放課後となり、赤いJのシビックの助手席にはブラックから派遣された案内役となるラルフの部下が乗り込み、後部座席にはキング、キングの部下、そしてアーサーが乗った。
今回はキングが参戦したこともあり、アーサーには本人だけで十分だと伝えていた。この面子が揃っていれば、この辺りでは敵はほぼいない。銃を持った連中に囲まれれば勝てないが、誰もブルーとブラック、そしてレッドの3組織にまとめて喧嘩を売るやつはいないだろう。
ヒップホップステーションは2Pacの「California Love」を流している。
ヒップホップのリズムに乗り頭を上下に振りながら程よく気合を入れてシビックは抗争現場となる倉庫街へと車を走らせる。
「で、オレらは5人で向かってるけど、他の連中はどうなってるんだ?」
Jは恐らくキングも抱いているだろう疑問をラルフの部下にぶつけた。学校の駐車場に来たのもこの部下一人であり、前後に他のブラックの車も見当たらない。
「大丈夫だ。今回は少々不意打ちでな。相手は若手のザコの4人だけだ。やつら4人を倉庫街に呼び出していて、そこを襲う計画だ。2人くらいには病院に行ってもらうが、それで終えるつもりだ。もう既に若手20人近くは向かってるはずだから、着いた頃にはもう抗争は終わってるかもしれねえな。」
部下の男は自信満々に答える。
待ち合わせ場所の倉庫街は袋小路になっている。
通りから入ると数百メートルほど先に袋小路となった広場があり、そこが抗争の場となっているようだ。Jの頭の中に浮かぶ風景は、ブラックの若手を中心とした20人程が、怯える相手組織の若手4人に向き合っている情景だ。そこに幹部を乗せたシビック登場、となるのだろうと思って袋小路を入っていった。
「・・・!?」
言葉が無かったのではない、出なかった。
自分が予想していた状況とあまりにも違う風景が広がると、何を考えて良いのか頭の整理が付かないし、驚きさえ声にならない。
袋小路の奥に見えるのは50人程の若手とは到底思えない年季の入ったワルの連中だ。もちろん武装もしているし、気合も入っている。全員が組織の人間では無さそうで、高みの見物や野次馬のような非武装の奴もパッと見えたが、この人数は安易な状況ではない。
相手が若手4人だけでなく、より多くの動員をかけている可能性や、他の組織からの援軍を連れてくる可能性を、車に乗る段階からJは指摘していた。しかしあまりにも自信満々な部下の男の言葉に、Jの中でのシミュレートも、想定するべきだった最悪のケースを自然と外してしまっており、目の前に現実として広がるシミュレート外の状況に思考を止めてしまった。
そして、さらにJ達を愕然とさせたのはブラックの連中が誰も来ていないことだ。最悪組織の対立の中に身を置くとは思っていたが、味方0という状況は想定に無かった。
しかも袋小路の奥という場所、これでは文字通りただの袋のネズミだ。
思考が停止した瞬間、人は悪手を打つ。
それが積極的行動であれ、何もしないという決断であれ。
Jも状況の整理が追い付かない中で、最善手が浮かばないまま、ヒップホップを大音量で流したままシビックを袋小路の奥へと車を進めていった。当然ながら相手組織の連中はシビックをすぐに発見し、連中の数人と目が合った。
「こ・・ろ・・される」
声になったかは分からないが、頭をよぎったのはその言葉だけだった。
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