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裏通りの東大生  作者: Jzou
ウサギとカメ

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44/60

第四章:(8)

沢山の作品の中からこの作品をご覧頂き、ありがとうございます。


この作品はロサンゼルスのギャングの世界の空気感を描くために、一部バイオレンスが描写が含まれておりますが、基本は主人公が偏差値30から東京大学へと進学していく過程ときっかけを描いたものとなりますので、楽しく読んで頂ければと思います。

ソファーの幹部達はざわつくことも出来ずに二人のやりとりを見ていた。


ウィルも呆然としながら状況を見ている。


ビリーの顔には凄みがあり、力強くJを見据え、冗談だ、なんて言葉が出てきそうにはない。本物の圧力を前に、Jの身体は硬くなっていたが、この状況で、じゃあ帰りますとはいかないだろう。ブルーと対立したくないというビリーの言葉にも、身の安全は保証されない。


Jは表情は変えずにビリーを見たまま、躊躇なく銃を取り上げた。オモチャではないことはこの銃が物語っている。誰かを殺す能力のあるモノには、それにしか宿らない独特の冷たいオーラのようなものがある。


Jは手に取った銃口をすぐにウィルに向けた。


だが身体も目線も正面のビリーに向けている。それを外すことは無事に生還する可能性を下げることを本能的に察したからだ。今Jが対しているのはウィルではない。目の前のビリーであり、彼のどんな小さなサインも見逃してはいけない。ギャングたちとのギャンブルの中で培った、相手が発する小さなサインを読み切る洞察力を最大限に発揮し、正面のビリーを、銃を眉間に向けられたウィルを、そして室内でこのやり取りを見ているブラックの幹部たちの動きに集中した。


この距離ならば実際にそちらを見ていなくても、銃口がウィルの眉間を狙っていることは分かる。そして、視界の端に、銃口を見ながら動けずにこちらを見ているウィルがいるのも見えた。


Jは間髪入れずに引き金を引く。


カンッ


弾は発射されない。実はJの予想通りだった。



「遊びとしては面白い」

Jはビリーに言うとテーブルに銃を置いた。


静かな空間の中で「カチャ」というガラスに金属が触れる音が再び響いた。


既にビリーとJの二人だけの会話となっている。他の男たちはブラックに属してはいるが、Jを威嚇しようという姿勢はなく、ウィルの命をテーブルに置いて遊ぶ2人のやり取りの観客となっている。引き金を引かれたウィルは魂が抜けたようだ。


「何で弾が入っていないと分かった?」ビリーが聞く。


「どちらにもメリットが無い。こいつが死んでもオレにメリットは無い。あんたは組織に要らない人間を自分の手を汚さずに消せるかも知れないが、それでも店の中でやればただでは済まない。本気で殺るなら他の場所のはずだ。それはこいつを殺したことで、オレのことを殺すにしても同じこと。ブルーと対立したくないというあんたの言葉とも矛盾する。ようはリスクだけが高くバックが少ない勝負だってことだ。18からヒットするような馬鹿な手をあんたは打たねぇよ」


ブラックジャックを例に出しながら、Jは瞬時に下した判断を説明する。続けて


「あんたは頭が良い。このゲームでオレ、そして組織の両方を試したな。オレが撃つがどうか。そして、撃たれると思ったウィルや周りがどういう反応をするのか試した」


一瞬でも気を緩めれば斬られる真剣での勝負のような緊張感ある間合いが、Jとビリーとの間にはある。しかし、Jが説明を終えるとその緊張はビリーの方から解いた。


「さすがだな、J。ギャンブルで腕が立つというのも、この馬鹿の戯言じゃなさそうだ。ウィルが借りた1200は約束通り俺が払おう。どうだ、ブラックに入らないか?お前なら直ぐに幹部として扱ってやるよ」


引き金を引いたこと、そしてそれが冷静な判断に基づいていることの説明が、ビリーの気に止まったらしい。


「金や女なら苦労しないぞ」


ビリーはやり取りの間に火が消えた葉巻にもう一度火を点け、ポケットから財布を取り出し、そこから1200ドルをテーブルに無造作に置きながら言う。解かれた緊張は部屋全体に広がり、周囲の男達にまだ会話は無いが、安堵の表情が見える。一方でウィルだけは自分に向けられた銃口と、躊躇なく引かれた引き金という状況をまだ整理出来ずに虚空を見ていた。


「その両方に不自由はしてないよ。女を抱きたいならこんな男しかいねえ部屋には来ない」


Jは1200ドルを手にするとそのままジーンズの後ろポケットに押し込み、ビリーに背を向けた。


「ありがたいけど、オレは組織には属さない人間だ」

もうこの部屋には用はない。


ついでに言えばビリーにもウィルにも用は無くなった。長く居るだけリスクになる場所だ。部屋から出る為にドアへと向かう。ドアノブに手を伸ばして掴もうとした時、


パン!!


銃声と共に銃弾が身体を確実に撃ち抜いた。そしてビリーの声が聞こえる


「J、1つ間違ってるのは、俺はこの部屋で銃を撃てるってことだ」

【作者からのお願い】

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