第四章:(7)
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この作品はロサンゼルスのギャングの世界の空気感を描くために、一部バイオレンスが描写が含まれておりますが、基本は主人公が偏差値30から東京大学へと進学していく過程ときっかけを描いたものとなりますので、楽しく読んで頂ければと思います。
ダウンタウン近くにあるあまり治安の良くない地区にその店はあった。窓1つない店のネオンは所々割れている。
Jは近くの駐車場にシビックを停め、マルボロをふかしつつ店の前まで歩いて来たが、長居をしたい場所では無かった。ここに来たのはウィルがここにいると街で聞いたからだ。300ドルを貸した日から2週間が過ぎていた。
相手はゴールドに所属する男であり、恐らくここはゴールドの店だろう。危険過ぎる場所だが、Jはキングにもラルフにも援軍を求めてはいない。単純に考えれば勝算は無い。しかし、シミュレートした結果、キングやラルフとの繋がりの事実が、Jのなりたくない自分への道を避ける要素になり得ると判断した。
「さてと、自分の火の粉、自分で払ってみるか」
マルボロを投げ捨て、先日エイミーから言われた一言を胸にJは重い店の扉を開けて店内に入った。
店はガラの悪い連中で繁盛していた。
男同士の会話を楽しむ者、小さなテレビのスポーツ中継を楽しむ者などビールのボトルを片手に様々だが、女っ気は殆ど無い。男達の妙な緊張感の中で平穏が保たれた感じだった。
カウンターにいるバーテンにウィルの名前を出すと、すんなりと店の奥の個室へと通される。Jが思った通り、店はゴールドと関係が深いようだった。
「おっ、Jじゃねぇか。What’s up!!」
部屋の左のソファーに座ったウィルが顎を上げて挨拶してくる。
「知り合いか?」
葉巻をふかす部屋の中央のソファーに深く座る男が低い声でウィルに声を掛ける。恐らくこの男がこの場で一番偉い人物だろう。
「あ、ビリー、こいつはJって言うんだ。ギャンブルの腕は立つ男だ」
この部屋にはこのビリーという男の他に、幹部らしき男が5人ほどいて、全員でガラスのテーブルを囲むように配置されたソファーに座り、酒を飲んでいる。高校でみる不良などとは格の違う男達だ。部屋は暗く、煙草なのかマリファナなのか分からない煙が充満する。入り口横にはヌードな女のポスターが額入りで飾られている。男しかいない部屋らしい趣向だ。
「ウィル、貸した金を返して欲しくてな。2週間経ったし、1200だ」
Jは得意の複利計算でウィルに金の支払いを求めた。変に取り繕うよりも、ストレートに切り出した方が良いと判断した。
「この雰囲気で、お前オレから金取ろうってのか?」
ウィルは顔を少し上げ、払わないぜ、という態度と余裕を見せた。相変わらず軽薄な笑いをしている。確かに、この場はJが強く出られる状況ではないだろう。
「お前は状況が分からない男なのか?」
ビリーが低い声でJに言う。その声にさらに安堵したのか、ウィルの下品な笑い声が部屋に響く。しかし、Jはしっかりとビリーを見据える。ビリーのウィルの笑いに対する表情を見れば、必ずしもウィルを庇うとは限らないと思ったからだ。
「ビリー!!こいつは一応後ろにブルーやブラックがいるらしいぜ。オレが会った時もブラックのラルフが一緒だったしな」
ウィルの笑い声に混じった説明が付く。しかし、この場で笑っているのはウィルだけだ。
「オレは貸した金を返してもらいたいだけだ。それ以上の意味はないよ」
パーカーのポケットに手をいれたままJはビリーに言う。緊張感のあるやりとりを、ウィル以外の奴らは黙って見ている。
「だいたいオレはお前に300しか借りてねぇぞ」
ボトルのビールを飲もうとするウィルだが、笑って口から零している。
キングやラルフの力を借りて、こいつが1人の時を狙えば金を払わせられるが、彼らの力は余程の事が無ければ借りたくはない。だからこそ1人で来たのだが、この人数は正直Jにも想定外だった。組織の力を背景に、ウィルは強気だ。
「オレの金を借りたら、1週間で倍だ。そんなことは知ってるだろ?」
Jはウィルに言うが、顔はビリーの方を向きながら目線だけウィルに向ける。
「その300が1週間で600、そして翌週は1200か。悪い儲けだな」
ビリーが納得した様子で深く頷きながらJに話す。
「J・・・だったな?俺らは別にブルーともブラックとも対立はしたくない。お前がここに1人で来るのも、そのバックがあるからだろう。確かに、借りてるのは事実らしいから、その1200、俺が出してやろうか」
ビリーが唐突に意外な提案をしてきた。
ソファーに座る他の幹部達からも訝しげな小さなざわめきが起こっている。さすがにウィルも、ビリーが金を出すという提案に笑うのをやめて、ビリーの方を向いて、その表情を伺っている。
「・・・・」
ここはJが発言すべき時ではないと考え、黙ってビリーを見ながら立っている。
「意外か?」
少し笑いながらビリーは続ける。
そして身体を前へとずらし、背中へと手を回すと、ビリーはガラスのテーブルの上に銀色に鈍く光る重厚なモノを置いた。
カチャ
ガラスに金属が触れる音だ。その音と共に、部屋は静まり返った。本物の銃だからこその質量としての、そしてこの場に静寂をもたらすだけの存在感としての重みがある。
「お前が、俺が金を出すに値するだけの根性を見せたら、1200は俺が出そう」
手を広げて笑顔でJの方を見据えるが、その笑顔には人を圧倒する迫力がある。
「J、お前なら出来るだろう。そこにいるウィルをこれで撃てよ。今俺はブルーやブラックをバックに持つお前を目の前にしてる。黙って帰ってもらえれば良いが、そうもいかないだろう。俺が1200出すか、お前に何かをしてブルーと争うか、どちらにしても損な話だ。そんな状況にしたこいつが消えても俺は構わない」
ほんの小さな判断のミスも許されない状況の中、この部屋にいる全員がJの次の一手を待っていた。
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