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裏通りの東大生  作者: Jzou
ウサギとカメ

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第四章:(4)

沢山の作品の中からこの作品をご覧頂き、ありがとうございます。


この作品はロサンゼルスのギャングの世界の空気感を描くために、一部バイオレンスが描写が含まれておりますが、基本は主人公が偏差値30から東京大学へと進学していく過程ときっかけを描いたものとなりますので、楽しく読んで頂ければと思います。

Jの赤いシビックのラジオからはスヌープ・ドギー・ドッグの「Who am I?」が大音量でかかっている。


ブラックの抗争が行われるのは公園の裏駐車場だが、正直にそんなところに行くのはあまりにも無謀なので、逃走経路を確保するためにも表駐車場に車を停めて、徒歩で裏駐車場まで行くことにした。


「J、楽しみだな」


助手席にはアーサーが乗る。


ヒップホップ好きのアーサーは曲に合わせて頭を上下に振っている。そんなアーサーがレッドの若手2人を連れてきたため、組織に属さないJが連れて来るには、ラルフの期待以上戦力だろう。


Jは窓を開けて左手を窓の外に出し、マルボロをふかしながら運転する。レッドの若手2人はナイフを取り出しながら臨戦態勢であり、アーサーの「楽しみ」が何を意味するのかは分からないが、Jとしてはラルフへの義理を果たせれば良い、そんな程度の思いだった。


「なあ、なんかヤバい事になるんじゃないのか?」


レッドの若手2人との同乗となり狭くなった後ろの座席からマイキーが弱弱しい声を出す。完全に戦力外の人選だが、丁度学校の駐車場でアーサーたちと車に乗り込む時にマイキーが近くを通りかかったので、そのまま乗せたのだ。どこに向かうのか、なぜ向かうのか、何も聞かされずにシビックに乗せられ、行き先は組織の抗争の場、これもマイキーの運の悪さだろう。


戦力外の1人含めて合計5人でウィルソン・パークの表駐車場に車を停める。


ファーマーズマーケット開催の日には全て埋まる巨大な駐車場も、単なる平日の午後となればガラガラだ。シビックを停めて全員で歩きながら裏駐車場へと向かう。芝生の緑が心地良い広い公園だ。週末ともなれば家族連れで賑わう平和な公園も、裏駐車場は公園の小高い丘と貨物列車用の線路に挟まれ目立たない事もあり、危ない連中が定期的に集まる場所ともなっている。公園内の芝生の上を歩き、小高い丘を越えて裏駐車場が見える位置まで来ると、裏駐車場にギャングの姿は一人もなく、そのかわりに駐車場一面のパトカーが目に入った。


「やばい!」


とJが思うと同時に数人のポリスが走り出しパトカーに飛び乗った。


Jやアーサーも直ぐに引き返し、走ると怪しいので急ぎ足で公園の芝生を進んだ。しかし、後ろからはサイレンを鳴らしたパトカーが2台芝生を踏みつけながら猛スピードで追いかけてきた。


「Hey!お前ら」


J達の前後に止めたパトカーから警官が数人出てきた。


腰に下げるベレッタM92に手を掛けている警官もいる。アメリカの警官が持つ銃は、そこら辺のストリートギャングが持つ銃よりも重厚だ。この銃を発砲する意思と権利が、警察の権威と威厳を高めているし、ギャングなどに対して何よりの抑止力となっている。


サングラス姿のポリスの一人が近寄り、


「この公園で組織の抗争があるって情報があった。お前達がその仲間かどうか知らないが、ここで喧嘩すれば大変なことになるぞ」


190㎝以上はある屈強な身体から低い声で半ば脅してくる。その後ろでは銃に手をかけながらその様子を見ている警官が2人。ここで不用意な動きをすれば、即発砲されるだろう。アーサーは早く行こうとJのTシャツを掴み引っ張るが、


「OK、分かったよ。この公園がダメなら隣の公園にでも行くさ」


とJはわざわざ警察を挑発する。別に自分の為の喧嘩でもないが、警察に脅されてただ引き下がるのも癪だった。しかし、この言葉の次の瞬間、ポリスの表情はさらに険しさを増す。


「もしお前達が悪い『なにか』をここらの公園でしでかしたら、お前の人生はミゼラブルなものになるぞ」


この「ミゼラブル」という単語、それまで日常生活で聞いたことは無かったが、「ああ無情」という文学作品を昔読んだことがある。そしてその元のタイトルが確か「レ・ミゼラブル」だった記憶がある。

今、目の前で聞いた英単語と、昔見たことのある文学作品の日本語のタイトルが頭の中で繋がった喜びで一瞬笑顔になったが、銃に手をかけた警官たちに人生を「無情なもの」にしてやると言われている以上、何かがあれば確実に「あぁ無情」な人生が待っているのだろう。


完全に無関係のまま連れてこられたマイキーはオロオロするばかりであり、Jもこの状況をシミュレートするまでもなく、これ以上の反抗が、なりたくない自分への最短ルートであることは理解出来た。


「よし、帰ろう」


Jの決断に全員が黙って頷き、眼光鋭い警官たちに監視されながら不用意な行動は取らぬように走らず駐車場へと戻っていった。結局その日は何事も無い平和な一日となった。

【作者からのお願い】

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