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裏通りの東大生  作者: Jzou
ウサギとカメ

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39/59

第四章:(3)

沢山の作品の中からこの作品をご覧頂き、ありがとうございます。


この作品はロサンゼルスのギャングの世界の空気感を描くために、一部バイオレンスが描写が含まれておりますが、基本は主人公が偏差値30から東京大学へと進学していく過程ときっかけを描いたものとなりますので、楽しく読んで頂ければと思います。

翌日の放課後、Jがシビックで街を流し、モール近くの交差点で停まっていると、激しいクラクションの音が数回聞こえる。見覚えのあるキャデラックからラルフが窓を開け手を振る。


「よかったよ~Jに会えて」


大柄のラルフが笑顔で喜んでいる。黙っていても怖い顔の男だが、笑顔は意外と可愛い。


「この街で暴走している赤いシビックなんてお前のくらいしか無いからな。直ぐに分かったよ。信号で停まってて良かった。あのまま突っ切られてたら追い付けないからな」


「この時間のホーソン通りに信号無視で突っ込むなんて、19からブラックジャック目指してヒットするより難しいぜ」

Jが言うと


「それでブラックジャック出せそうなのがJだけどな」

ラルフは笑いながら応じる。



ラルフとルービンではない部下の男と共に入ったデザートのパイが有名なレストランで、Jは珈琲を飲みながら彼らからの相談を受けた。


「おい、オレが組織にいないのは知ってるだろ」


Jは顔を振りつつ手を肘から開いて無理だとアピールした。


「大丈夫だ。Jが来るだけでも心強い」


ラルフは笑顔だ。大物マフィア気取りのラルフはエスプレッソを飲み、顎鬚を触っている。実力者であるのは事実だが、本人の意識までは到達しておらず、そんな姿に親しみを覚えていた。


「組織は無くても友人はいるでしょ」

部下の男もJに期待している。


話は、ラルフがいるブラックが抗争に入ったので、援軍を求めるというものだった。その決闘がクレンショー通りの公園ウィルソン・パークの裏駐車場で行われるので、人数集めをしているらしい。


ブラック程の組織に人数が足りないということは無く、組織力でも抗争の経験でも相手組織を圧倒するのだが、様々な組織に声をかけて、「多国籍軍」をアピールするらしい。それによって相手組織に対しては、ロサンゼルスに相手組織の味方が少ないことを見せ付けると共に、「多国籍軍」を呼びかけた組織を含むロサンゼルス全域の組織に対して、ブラックの同盟関係の広さをアピールすることが出来る。外交力はギャングでも国家でも、安全保障の基本となるのだ。


しかし、Jは組織に属さないし、喧嘩にも自信が無く、大規模抗争には向かない。様々な組織との外交関係をアピールしたいのであれば、Jが一人増えたところで何の価値もない。だが、ラルフには時に助けてもらうケースもあり、断り難い相手だった。


「大体、組織の抗争だろ?オレが行って何になる?しかも2、3人連れて行ったってあまり意味ないだろ?」


と言うが


「いや、Jの顔が広いことが大切なんだ。ブラックだけじゃなく、顔の広いJがこっち側で参加していることを見せると効果があるんだ」

ロバート・デ・ニーロの真似かと思うような仕草をしながらラルフはJを持ち上げる。


「この貸し、デカく付くからな」


「大丈夫だ。戦時に助けてくれる戦友には、しっかりとメリットは用意しておく」


「Boots on the ground」アメリカの外交・安全保障の基本だ。

戦場にブーツを着ける。実際に戦場の現場を共にする仲間こそが本当の仲間であり、彼らこそを大切に扱うというものだ。これはギャングの世界においても同様の意識が強い。そのことを知っているため、Jも承諾した。ラルフも上機嫌となり、


「おい、レモンメレンゲパイを3つくれ。ここのはレモンが酸っぱくて旨いぞ」


店員にオーダーする。


「知ってるよ。オレもここのレモンメレンゲパイのファンだからな。でもまさか、オレの駄賃がレモンメレンゲパイ一皿じゃないだろうな」


するとラルフは笑ながら


「おい、『レモン』の単語の意味知ってるか?『不良品』ってことだよ。援軍に来るJに不良品になられちゃ困るからな。もっと良い駄賃を期待していいぞ」


運ばれてきたレモンメレンゲパイは、パイ生地に見るからに酸っぱそうな濃いレモン色のレモンカードがたっぷりと敷かれ、その上に山盛りの真っ白なメレンゲ、トップはそのメレンゲが食欲をそそる茶色に焼かれている。


大物マフィア気取りのラルフに部下の男、そしてJ、男たちが3人揃ってパイにフォークを入れ、その酸っぱさに目を細めながら美味しく食べ進めた。


レモンメレンゲパイはこの最高に酸っぱいレモンと、どこまでも甘いメレンゲの甘さと酸味のコントラストこそが美味しさの秘訣だ。どちらも中庸になると途端に平凡なパイとなるが、そんなレモンメレンゲパイが多いのも事実だ。しかし、この店の一皿は酸味、甘味どちらも尖っていて、Jの好物の一つだった。

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