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裏通りの東大生  作者: Jzou
ウサギとカメ

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38/60

第四章:(2)

沢山の作品の中からこの作品をご覧頂き、ありがとうございます。


この作品はロサンゼルスのギャングの世界の空気感を描くために、一部バイオレンスが描写が含まれておりますが、基本は主人公が偏差値30から東京大学へと進学していく過程ときっかけを描いたものとなりますので、楽しく読んで頂ければと思います。

「もう寒いね~。でもこのパーカーで大分温かいよ」


ミッシェルは両手を袖の中に入れる。


「オレが買ったパーカーね」

とJが言うと


「罪滅ぼしでね」

と楽しそうに笑う。


海岸沿の道にシビックを停め、Jが海を見ながらシビックにもたれる。そしてその腕の中でミッシェルが一緒に海を見ていた。


エイミーの事件から暫くはミッシェルの機嫌が悪かった。


しかし、怒っていたのはエイミーと一緒にいたこと以上に、店内にミッシェルがいたにも関わらず、それに気が付きもしないJの軽率さだった。いつもなら注意深く周囲が見るのに、ミッシェルの存在に気付きもせず、エイミーの腰に手を回してた姿が、自分には見せない浮付いた姿に映っていた。


事情を説明しても言い訳となりそうなのでJは特に説明はしないままだったが、それでもこうして再びデートを重ねるようになっている。


「この海のずっと向こうに、日本があるんだよね?」


「ん?そうだけど」


「海を見てたら、日本に行きたいなーとか思わないの?」


ミッシェルの身体が少し固くなる。


恐らく旅行での日本行きの話ではなく、遠からず訪れる卒業を経て、Jがどうするのかの話なのだろう。ロサンゼルスは太平洋に面している。今2人が見ている太陽が海に沈めば、遠く日本で太陽が昇り始める。海の向こう、という表現は間違っていないが、地球規模の「向こう」であり、日常的に海を見ながら日本を感じることはない。


「泳いで行くには遠いなー」


Jは軽口で答えてみるが、実際卒業後の進路なんて考えてもいないので、Jにとってこの海の遥か遠くに日本がある、それ以上では無かった。


「ねえ、キスして」


振り返ったミッシェルは悲し気な表情だが、自分の進路が分からない以上、かけられる言葉も見つからない。静かに、そして長くキスをした。



「よし、ドライブ行こうか」Jが提案する。


「どこに?」


「卒業後の進路も分からないけど、どこに向かうかも分からないドライブ。取り敢えずはパロスバルデス半島の海沿いでも流すか」


ミッシェルの顔も明るくなり、2人は車に乗り込んだ。


ロサンゼルスの南に位置するパロスバルデス半島の海沿いを走る道は車も少なく、視界には海も広がりスピードを上げて流すと景色も車内に入る風も気持ちが良い。海を見れば遠くサンタ・カタリナ島も綺麗に見える。


カーラジオの音楽に、流れる景色に、二人の会話にと楽しみながらドライブは続く。


「ロングビーチまで行くか?それとも家の方に向かう?」

半島の海岸通りを越えてウェスタン通りを走りながらJが聞く。


「えっ?聞く必要ある?勿論ロングビーチでしょ」

ミッシェルも笑顔で応じる。


ロングビーチは港湾都市であり、パロスバルデス半島から向かうと市内に入る前にロングビーチ港を通る。世界でも屈指のコンテナ港であり、港に接する大通りでは大型トラックが行き交う。そのロングビーチ港にかかる大橋を渡ってロングビーチ市街に入り、Jの行きつけのイタリアンの店近くの駐車場に停める。


お洒落な店構えにミッシェルは戸惑い、


「前のイタリアンの時もそうだけど、こういう店に来るなら言ってよ。パーカーじゃ合わないよ」


「仕方ないさ。行き先は決めずにドライブした結果だからね」

Jは笑いながら言い

「それが出来るのが高校生ってことで」


戸惑うミッシェルの手を取って店に入る。



ディナータイムにはまだ早いために店は空いている。


「チーズケーキとエスプレッソを。ミッシェルは何にする?」


「じゃぁ、私はカフェラテで」


店員に告げると


「ねぇ、ここレストランだよね?ケーキだけで良いの?」

とミッシェルは小声で聞く。


店内を見渡せば、遅いランチなのか、早めのディナーなのか分からない食事をしているグループもいるが、客の少ないこの時間ならば、ケーキを楽しむだけでも歓迎される。


「よくやってることだから。ここのチーズケーキが一番好きなんだよね。濃厚さが秀逸でね」


運ばれたチーズケーキはカットも大きく、高さも7、8センチはある。2人で食べるには十分過ぎる大きさだ。入れたフォークを拒む程に濃密なクリームチーズのチーズケーキで、この濃厚な美味しさを楽しみたくてJはよくこのレストランに来ていた。


「これ、美味しい」


一口食べてミッシェルが笑顔になる。


「その笑顔を見ると、こっちも笑顔になるよ」Jが言うと


「いや、Jはチーズケーキが運ばれてきた時から笑顔だったよ」


ミッシェルの鋭い指摘が入る。好きな一品なだけに、このチーズケーキを見るとJは自然と笑顔になる。


チーズケーキを囲むカフェタイムを2人でゆっくりと楽しんだ。卒業後の見通せない未来が不安にはさせるが、それを今から案じても仕方なく、Jとミッシェルは今を楽しんでいた。

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