第四章:ウサギとカメ(1)
沢山の作品の中からこの作品をご覧頂き、ありがとうございます。
この作品はロサンゼルスのギャングの世界の空気感を描くために、一部バイオレンスが描写が含まれておりますが、基本は主人公が偏差値30から東京大学へと進学していく過程ときっかけを描いたものとなりますので、楽しく読んで頂ければと思います。
Jの手札はアップのクイーンにホールドの3、当然もう1枚だ。
マルボロを取り出し一本咥える。反対側の手でヒットのサインを黙って出す。ジッポに手を伸ばしながら配られるカードをじっと見ていた。
カードはキング。バストとなるが、Jは火を点けながら
「一番下からカード切ったな」
と、少し微笑みながら言った。この一言で場の雰囲気は一変する。
手札を配ったのはその組織の若手だ。
Jが他人の場に顔を出すことは少ないが、ラルフの誘いを受け、ここに来ることになった。ラルフがどこまで先日のルービンの一件を知っているのかは分からないが、ラルフとの関係を強化しておくことは今のJにとっても、これからにとっても重要な布石となる。キングはいないがラルフが一緒なら心強いとギャング組織の場ながら付き合うことにした。
ブラックジャックでは数百ドル既に勝っている。逆に勝ち過ぎて帰れない状況となり、その中で生まれた状況がこれだった。
「てめぇ、証拠はあるのか!」
手札を配っていた男が怒鳴る。
「いや、無い」
淡々と答えるJを見て横にいたラルフも心配そうだが、
「ただ、オレが見ていたのが唯一の証拠だ」
ギャンブルの世界で一定の信頼があるJの一言によって、場に居た他の連中も自分たちが不利益を被った可能性を知り不本意ながらJに肩入れする。
「おい、イカサマってどうなってるんだ」
場の連中が騒ぐことで事が大きくなりそうになったが、
「とりあえずこの勝負はチャラだ。文句は無いな?そして今日はもう場を閉じようぜ」
とJが提案し、大物であるラルフが同調したため、その方向で話はまとまった。320ドルがJに渡され、それをポケットに押し込んだ。すると、負けが込んでいた一人の男がJに話しかける
「おい、300貸してくれないか」
話しかけたのはゴールドのウィルという男だ。
軽薄そうで嫌いなタイプだが、相手はJのことは知っているらしい。当然ルールも知っているだろう。組織の場で金が払えなければ大変なことになる。目の前で血を見るのも馬鹿らしく、勝った金であり、場に来る前に比べて損をしている訳でもないので、「ウィルのことは一応知ってる」というラルフの言葉もあり、ウィルに300ドルを貸した。
「オレからの金は・・・」
言い終わらないうちに
「一週間で倍だろ。知ってるぜ。あくどい商売してるよな」
金が借りれたら早速嫌な笑いをしながら親友気取りだ。長くウィルと一緒にいると嫌な気分になりそうだったのでJはラルフと店を後にした。
「ゴールドの奴に金貸した?またデカい所の奴に金貸したな」
ベーコンチーズバーガーを頬張りながらキングが言う。
サンフランシスコまで遠征しての仕事はどうやら無事に済んだようだった。銃は脅しに使うのみで、撃つこと無く目的は達成したらしい。こういう話を聞くたびに、キングは本当に裏社会の人間なのだと実感する。
「ま、成り行きだったからな」
チリチーズフライを食べながらJが答える。
ホーソン通り沿いにあるこのバーガー屋は最高だ。チェーン展開はしていないが、チェーン店を凌ぐ人気を地元では得ている。週末ともなると行列も出来るが、平日のランチタイムを外せば空いている。
この店のベーコンチーズバーガーは特に秀逸であり、肉厚のパテに焼かれたベーコンの旨味と香りが加わりバーガー好き納得の一品となる。Jも定期的に食べに来る大好きな逸品だが、それと共に、チリチーズフライもまた外せない一品だ。山盛りの厚切りポテトフライに挽き肉たっぷりのチリソースがポテト以上に乗り、そして大量のチーズがその上に乗る。ポテトフライとチリソースの熱でチーズが程良く溶け、チーズとチリソースの旨味でポテトが止まらなくなる。
「とりあえず何かあれば力にはなるさ」
キングはJのポテトを軽くつまみながら言う。
この一言はJしか聞いていないが、キングを通してブルーが後ろにいることは広く知られており、そのことがJの活動を支えている。二人には何気ない食事の間の一言なのだが、この言葉の意味の大きさをJはしっかりと感じていた。
「何も無いに越したことは無いが、相手が相手だしな、用心はするさ」
今度はJがキングのオニオンリングを勝手につまむ。
「じゃぁ、銃でも持つか」
楽しそうにキングが銃を勧めるが、キング自身Jが買うとは思っていない。
「撃たねぇ銃なんて、食い終わったバーガーの包み紙くらい使えねえよ」
「今はまだ使える紙だけどな」
キングは包み紙に包まれたバーガーを持ち上げ、Jとキングは笑いあった。
「この後どうする、ビリヤードでも行くか?」
ベーコンチーズバーガーを食べ終わり、包み紙を丸めながらキングが聞く。
「いや、今日はこの後デートだ。お前が居ない間に色々とあってな。暫くは言う事を素直に聞くターンだ」
最後のコークを飲み干し、Jは席を立つ。
「その『何か』があった時に備えて今日のバーガーは貸しとくよ」
「俺の労働は案外安いんだな」
キングは上機嫌に笑いながら軽く手を振る。
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