第一章:(3)
沢山の作品の中からこの作品をご覧頂き、ありがとうございます。
この作品はロサンゼルスのギャングの世界の空気感を描くために、一部バイオレンスが描写が含まれておりますが、基本は主人公が偏差値30から東京大学へと進学していく過程ときっかけを描いたものとなりますので、楽しく読んで頂ければと思います。
「クイーンのワンペアだ」金髪をなびかせ痩せ型の男はカードを開いた。
「悪いな。セブンとナインのツーペアだ」
Jはマルボロを咥えたまま自分のカードを開く。
地元の街にある、とあるビルの裏階段の踊り場、そこがJにとっての主戦場だった。大通り沿いにあるビルのあるモールは、治安の悪い地区ではなく、ビルも多数のオフィスが入るが、夜になれば誰も居なくなる。そのビルの裏階段の踊り場ともなれば、完全に街の死角となる。
Jはそこで定期的にギャングなどの連中が客となるギャンブルを行い、小銭を稼いでいる。大金は決して賭けない。自分も相手も破産しては意味が無く、あまり手を広げると、色々な組織に目を付けられるからだ。日々遊ぶ金を稼ぐには丁度良い規模で個人的に行っていた。
「どうする?まだやるか?」
相手が破産しないように気を配ることも、安定収入には必要なことだ。
「いや、今日は俺にとってバッドデーらしい」
白人の男は50ドルを置いて出て行った。これでデート1回は楽しめる。
「オレはまだ続けるぜ」
ゴールドという巨大組織に属しているというジョージという男だ。ただ、属していると言っても末端であることは見た目から分かる。長髪に無精ひげという見た目とは関係なく、その言動や表情からも一目見てまるで信用出来ない男だと思った。数回ここで手合わせをしているが、話し方にも内容にも知性を感じられず、この手の男に深入りすると怪我をすることが多く、なるべくなら関わりたくないタイプだった。そのジョージと2人でのギャンブルは危険すぎる。危険を事前に嗅ぎ取る嗅覚と、それを避ける判断力を持っていることは、この世界で無事に過ごすための重要な要件となる。
「いや、今日はここまでだ」
カードを仕舞いながらJが言うと不満そうな顔をするが、「女が待っててな、悪いな」というと、一転して嫌な笑みを浮かべ、負けた10ドルを払った。
この手の男には女の話をするのが一番効果的だ。
Jはシビックに乗り込むと街を東西に走るカーソン通りを東に走らせた。日系の大規模スーパーもある通りで日中は車も多いが、夜10時過ぎともなれば空いていて走りやすい。自然とメーターは80キロ、100キロと上がっていく。
「女が待ってて」とはジョージを納得させる方便だったが、どうせならその方便に自分で乗ってみようと、ヒップホップを大音量で流し、そのリズムに乗って頭を上下に振りながらミッシェルの家へと向かっていた。ヒップホップステーションからはWarren Gの「Regulate」が流れている。
静かな住宅街にあるミッシェルの家の前に着き、クラクションでも鳴らそうと思うよりも早くミッシェルが家から出てきた。
「ハ~イ、J。大音量のヒップホップが近付いて来たからすぐに分かったよ」
笑顔でシビックに近付き、開いた窓から運転席のJにキスをする。
「あれ?ベンってヤツと映画じゃなかったのか?」
「Jがヤキモチ焼くと可愛そうだから、断ってあげた」
ウィンクしながらミッシェルが言う。
「じゃぁ、乗る?シンデレラが遊ぶ時間なら少しあるけど」
「あっ、待ってて。この服着替えて来るから」
ミッシェルは慌てて家に戻っていったが、恐らく暫くかかるだろうとJはヒップホップのボリュームを下げ、シビックから降りた。車に寄りかかり、ポケットからマルボロを取り出し、ジッポを弾いて火を点けた。案の定、開けたシビックの窓からCoolioの「Fantastic Voyage」が流れ、マルボロを一本吸い終わってもミッシェルは出て来なかった。さらに5分程待って、お洒落に着込んだミッシェルが出て来た。
「待った?」と聞くミシェルに
「2曲分ほどね」と笑って答え、シビックに乗り込む。
助手席に乗り込んでキスをした彼女を乗せた赤いシビックは夜の街へと消えていった。
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