第一章:(2)
沢山の作品の中からこの作品をご覧頂き、ありがとうございます。
この作品はロサンゼルスのギャングの世界の空気感を描くために、一部バイオレンスが描写が含まれておりますが、基本は主人公が偏差値30から東京大学へと進学していく過程ときっかけを描いたものとなりますので、楽しく読んで頂ければと思います。
午前8時の高校の駐車場、シビックの車内でJは大音量でCoolioの「Gangsta’s Paradise」を聴いている。Jが通う高校は歴史の古い学校ではあるが名門校と言う訳では無く、校内にギャングなど組織に属する生徒はゴロゴロいる。危ないクスリでも銃でも、学内で手に入るのが現実だ。
Jは3XLのダボダボのTシャツにブカブカのバギージーンズというラフな格好に、金のネックレスとピアスをしている。ギャングスタファッションが全盛の中、よく居るラフな格好の高校生であり、特に目立つ存在ではない。
バックパックを片方の肩にかけ、ポケットに手を入れJが校内の敷地を歩いていると、体の大きな男達が円陣を組むように丸く集まっている。クスリの取引などが行われる時の古典的なスタイルだ。少し見れば、中央の男が何かを渡し、そして受け取った男から金を受け取っているのが丸分かりなのだが、本人たちは恐らくバレている自覚は無いだろう。しかし、こんな形で取引をしている連中は、所詮街のゴロツキ止まりでしかない。リスクを予測出来ない人間は、表の世界でも裏の世界でも大成はしない。
Jは目立つ存在ではないが、キングなどとの付き合いも通して、多少裏の世界では活躍していた。
Jの収入源は一週間で倍になる高利の金貸しと、個人的に行っているギャンブルだ。顧客は共に街のギャング連中が中心となるが、それを可能にしているのがキングとの付き合いとなる。裏の世界では誰が誰と繋がっているのかを把握している事は命に関わる非常に重要な情報となる。この情報を正しく認識せずに、不用意に誰かに手を出すと、命の危険が増すことに繋がってしまう。Jの後ろにキングが居て、そのキングがブルーに属している事、この情報と事実が、例え組織に属していなくても多少の危険な橋なら渡ることを可能にしていた。
「ジェ~イ」
振り返るとミッシェルが手を振って近付いてくる。Jがよくデートを重ねる相手だ。
「ねぇ、今日の夜って空いてる?観たい映画があるんだ」
笑顔でJの腕を組んでいる。年相応に色気もあるミッシェルだが、笑顔は子供のように無邪気であり、この笑顔が彼女の魅力の1つでもある。Jも自然と笑顔になる。
「いや、今夜はちょっと仕事があって・・・悪いね」
「えぇ~。仕事って、高校生のくせに?じゃぁ、映画はベンとでもいって来ようかな」
悪戯っぽくJを見ながら、
「ねぇ?ヤキモチ焼いた?」ミッシェルが笑顔で聞く。
「はいはい、ヤキモチで心が痛いからドーナツでも食べて栄養補給してくる」
Jは軽くミッシェルにキスをして別れ、校内の路上で販売しているドーナツを2つ購入し、図書館へと向かった。
「よぉ~キング、昨日は突然呼び出して悪かったな」
Jは顎を軽く上げ、「What's Up」と挨拶をしながら2つ買ったドーナツの片方をキングに差し出した。
「おっ、サンクス。それよりお前は昨日のヤツの顔、夢に出なかったか?俺はあいつの顔で起きちまったぜ」
図書室へは勉強のために集まっている訳ではなく、Jやキングたちの溜まり場として使われていた。キングは既に昨日の話をその場にいる仲間に話していたようだが、正しく伝わっているかの確証は無い。キングの実力は申し分が無いのだが、彼の話は大きくなる傾向がある。
図書館にはキングの他に、若手を中心としたギャング組織レッドに属するアーサー、Jの親友で組織などには属さない優等生のジャックが居た。皆立場は色々とあれど、古くからの友人で、対等な立場として付き合いがあり、Jにとっても居心地の良い連中だ。
アーサーは日本の漫画などが大好きで、日本のアニメキャラのTシャツを着ていたりもする。しかし、同時にムエタイの使い手でもあり、日々体を鍛えており、小柄ながらマッチョな体をしている。
「J。スーパーサイヤ人です」
立ち上がりTシャツを脱いで筋肉を見せながら話しかける。どちらかと言えばグループの道化役で、気さくで良いヤツなのだが、体を鍛えているからか、すぐに服を脱ぎたがるクセがある。図書室の事務員の厳しい目と咳払いが聞こえる。
「おい、目立つだろ。服着ろ」Jが言うと
「ゴ~メンナサイヨ~」
と、妙なアクセントの日本語で答えるが、それを図書室の事務員に向かって大きな声で言うから困ってしまう。当然相手には通じないので、再び睨まれている。
「そういや、木曜にパーティーするんだ、皆来ないか?」
キングが全員を見渡しながら口を開く。
「大丈夫だ、心配するな。女もちゃんと呼んであるから」
と笑いながら言うが、ここにいるJたちにとっては単純に信じられる言葉では無い。キングが話す女たちとのエピソードは数知れずなのだが、誰一人キングの「女」というのを見たことは無く、これも話が大きくなっていると友人たちの間での共通認識となっている。
ただ、友人であり、色々と世話になっていることもあるので、ジャックもアーサーもパーティーへの参加を表明していた。
「じゃぁ彼女も連れて行くよ」とジャックが言うので
「これで本当に女が参加するな」
とJがすかさず合いの手を入れ、皆が笑い出す。
「本当にいるんだよ、心配するな。で、お前はどうするんだ?」キングが言う。
「木曜か、ちょっとその日は親の関係の用事があるから家から出られないや」
「なんだよ~そうか、親の用事じゃ仕方ないな」
組織に属していると、こういう都合も考慮されないケースがあるが、自由の身であることのメリットは無理強いされる拘束が無いことだ。そして、それを許す友人であることがJには嬉しかった。
【作者からのお願い】
『続きが気になる!!』『面白い!!』と思って下さったら、下にある【☆】をタップして評価やブックマークをして頂けると執筆の励みになります。




