第三章:(6)
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この作品はロサンゼルスのギャングの世界の空気感を描くために、一部バイオレンスが描写が含まれておりますが、基本は主人公が偏差値30から東京大学へと進学していく過程ときっかけを描いたものとなりますので、楽しく読んで頂ければと思います。
「オレのダチはこないだサツにパクられてよ。オレも危うく捕まりそうになったところを逃げてきたってわけよ」
ブラックのルービンが得意気に話す。
ルービンはブラックに属しては居るがまだ十代であり、組織のメンバーとしては下っ端となる。幹部であるラルフと共に会い、その後Jの賭場に数回顔を出している。少し太めだが、体は大きく、ブラックに属するだけあり入れ墨もあり眼つきも悪い威圧感のある男だ。
「だからなんだよ」
ジョーダンは怪訝そうな顔でルービンを見ている。
ジョーダンは物騒な男だ。痩せ型だが頭をそり上げ、顔にまで入れ墨が入り、危険な雰囲気が全身から出ているJもなるべくなら関わりたく無い相手だ。しかし、普段なら喧嘩になりそうな状況も、Jの賭場で会っている縁でジョーダンも話しくらいは聞いている。
「お前はヤクとかやらないのか。オレのダチに大物の売人がいてな」
ルービンは続けるが
「それで、だからなんなんだよ」
ジョーダンは機嫌悪くなりながらも、この馴れ馴れしい男にどう対処して良いのかまだ分からず困っていた。
「そういや、お前ヤクは要るか?安くしておく・・・」
「お前馴れ馴れしいんだよ」
ルービンがジョーダンの肩に触れた瞬間、ジョーダンが怒鳴り、手を後ろに回してジーンズと背中の間に隠していた銃を取り出した。
銃をルービンに向けハンマーを起こした。
ジョーダンの持つレボルバータイプは、ハンマーを引いておく方が命中精度が上がる。ジョーダンがそれを知っているのか、映画で見た真似事でハンマーを起こしたのかは分からないが、この状態からはすぐに銃弾が発射可能だ。
「止めておけ」
遅れてビルの踊り場に現れたJが歩いてジョーダンに近づき、彼の銃のシリンダー部分を押さえ、発射できないようにして下げさせた。
シリンダーが回らなければレボルバータイプの銃は発射出来ない。Jの手が安全装置になったのだが、それ以前にジョーダンとしても落としどころは探していたのだろう。Jが力を入れる必要も無く、素直に銃を向ける手を下げていた。
ルービンは一言も発さないが、恐らく発せないのが事実だろう。第一、この雰囲気のジョーダンに平気で馴れ馴れしく話しかけている段階で、このルービンという男は喧嘩慣れはしていないだろう。ブラックの組織の大きさを自分の力だと勘違いしている下っ端にありがちな思考だ。
ルービンのような男は好かないが、かといって目の前で撃たれるのも気分が悪い。
この状況でギャンブルというのも現実的ではない。「今日はやめるぞ」と言ってもさすがにジョーダンも納得する。
呆然としているルービンの肩を叩き、Jはジョーダンとビルを出ようとしたが、振り返ったジョーダンは
「てめえは知らねえだろうけどな、Jの後ろはでけえぞ」
ジョーダンが人を誇示するなんて珍しいが、この夜はJに一目置いたらしい。誰よりも物騒なジョーダンをまずは機嫌良く車に乗せ帰した。その上で遅れてビルから出てきたルービンの肩をJが左腕で掴み、「ちょっと付き合え」とビル近くの裏路地に連れて行く。
建物の裏手となり、大きなゴミ箱と高い塀にも囲まれた裏路地は社会の死角になっている。夜ともなれば明かりも少なく通る車もほぼ無く、誰の目にも付かない場所だ。少々ルービンに灸を据えなければと思ったJは裏路地の奥にルービンを連れて行く。
しかし、そこには態度も人相も悪い若いギャング連中が7、8人たむろしていた。
数人がすぐにJとルービン眼前数十センチの所まで肩を揺らしながら近付き、下から上まで眉間にしわを寄せながら舐めまわすように見ている。ルービンに灸を据えようと思ったが、この状況ではそれどころでは無い。誰かがナイフを出す音も聞こえたが、
「おっ、J、どうした?」
聞き覚えのある声だ。奥からアーサーが笑顔で現れ、Jと軽く拳を合わせて挨拶をする。その瞬間、さっきまで体を左右に揺らしていた連中は姿勢を正し、礼儀正しくJに礼をして挨拶をして2歩、3歩と後ろに下がる。アーサーと対等の友人であるJに対しては、アーサーと同様の礼儀が求められるのだ。
「ちょっとコイツに話があってな」
とJは親指を立てて後方のルービンを指した。
ルービンは既に限界を迎えていた。目は虚ろで、口もパクパクさせている。ブラックという巨大組織には属しているが、組織の中ではなく個人として裏社会に身を置いた時に、自分がどれほどの実力の持ち主なのか、正しくシミュレート出来て無く、その結果、なりたくない自分に今出会っている。
幹部のラルフの知り合い程度に思っていたJが、色々な組織に顔が利く事もルービンにとっては驚きだった。
「おい、いいか、オレの場に来るのは構わねぇ。だがな、オレの場を荒らすな。恐らくラルフもお前の味方をすることは無い。いいな」
最後の言葉と共に少し強めに肩を叩き、ルービンを帰した。
「あれ?本当に話をするだけなんだ」
日系スーパーで買って来たのであろう日本のお菓子を食べながらアーサーが楽し気に笑っている。この状況で本当に話すだけとは誰も思わないだろう。
どうやらルービンはレッドに守られたようだ。
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