第三章:(2)
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この作品はロサンゼルスのギャングの世界の空気感を描くために、一部バイオレンスが描写が含まれておりますが、基本は主人公が偏差値30から東京大学へと進学していく過程ときっかけを描いたものとなりますので、楽しく読んで頂ければと思います。
西海岸を南北に走るPCHは、旅行者が使う道でもあり昼は混むことが多いが、夜になれば金曜ででもなければ繁華街近くでもスムーズに走れる。助手席のエイミーがJのマルボロを取り、火をつけた。
「煙草吸うなら窓開けろよ」
「でも、寒いよ」
エイミーは不満げだが、少し窓を開ける。
「白い中で運転するのは趣味じゃないんだ」
街の灯りが足早に過ぎていく。Jのシビックは追い抜く赤いテールランプの数を誰かと競っているようなスピードで走っている。
エイミーは近くのカレッジに通っているようだが、特に何の勉強をしているのかまでは知らない。二人の時間が合えば、時々こうしてデートを楽しんでいる。わざわざハリウッドまで行き、映画を観てきた帰りだ。
「何観るかは聞かされてなかったけど、あれなら地元でも観れたじゃないか」
Jが聞くと
「分かってないなぁ。ドライブの時間もデートの内よ。映画の後の二人の時間を過ごすためにもハリウッドにしたの」
煙草の煙を窓の外に吹きながら楽しそうに答える。
「そんなもんかねぇ」
「そんなものよ」
エイミーが吸ってた煙草をJの方に持って行くと、Jがそのまま咥えて吸い始める。年上という以上に「大人の女」でもあるエイミーだが、マルボロレッドは強いので、一口、二口吸い、その続きをJが引き受けることが多い。
「『女心』の授業があれば『F』だって、そういえばこないだ言われたよ」
Jが窓を開けてマルボロを煙を吹きながら言う。
「厳しい指摘ね。『D』くらいは取れるんじゃない?」
「どちらにしても成績は悪いな」
「今日は安全運転ね」
Jの肩にもたれ、制限速度を超える数字を指すスピードメーターを見ながら楽しそうにエイミーが言う。前方の赤いテールランプたちが一瞬で過ぎ去っていくが、これでも「安全運転」であることは、エイミーも認識していた。
「こないだ裁判行って来たばかりだからな」
「知ってる。でもこの方が長く一緒に居れるし、良いかもね」
「ゲームの続きか?」
多少アクセルを踏みスピードを上げながら答える。Jとエイミーは、惚れた方が負け、の恋愛ゲーム中だが、今でもゲーム中であるかは知る由もない。
「さぁ、どうだろうね」
身体を助手席に戻し、悪戯っぽい笑顔でJの方を見ている。
「その笑顔はスペードのエースより強いな」
「時にはハートのクイーンよりもダイヤのクイーンって言われるわ」
「『デスペラード』か。どちらが出ても、こちらがエースならブラックジャック。相性は良いってことだ」
「自分でエースなんて、随分自信家さんね。でも、もしそうだったら賭けはJの勝ちね」
Jが「ダイヤのクイーン」の意味を理解したのが嬉しい驚きだったようで、エイミーは楽しそうに「デスペラード」の鼻歌を歌いながら流れる景色を見ていた。
エイミーのアパートの前に車を止め、二人で車を降りると、エイミーは体を寄せて腕を組みながらアパートへとエスコートした。
ルームメイトには初めて会う。挨拶をしてエイミーの部屋へ2人で入る。座る場所がベッドしか無いため、ベッドに腰を下ろしているJを横目にエイミーは机の上を片付ける。分厚い専門書、書きかけのレポートなどがあり、彼女のカレッジに通う大学生の一面を見た。
片付けるとベッドに来てJの膝の上にまたがり、首に両手を回す。
「座る場所そこ?」
「ダメだった?」いたずらな視線をJに向け「シャワーを浴びてから帰ったら?」
「完全に聞かれてるの分かってる中で汗かくの趣味じゃないよ」
笑いながらキスをしてJは立ち上がる。
「ケチ・・・」
と言いながらもエイミーも笑ってる。選択としては正解だったようだ。近くテストがあると聞いていたので、邪魔はしない方が良いと判断した。
エイミーのアパートからの帰り、時間を潰すためにJはカフェに寄った。
「よぉJじゃないか」
低音の声で話しかけてきたのはサングラスに口髭、チェックのジャケットを羽織ったラルフだ。ロサンゼルスで一定の勢力を持つブラックの幹部であり、当然ながらギャンブルを通して知り合った20代の男だが、金の貸し借りは無く、妙に気も合い、彼の存在もまた、この街でのJの安全の確保に繋がっている。
「カフェにいるならコーヒーでも飲んだらどうだ?」
席の両側に女が座っているが、テーブルには灰皿しか置かれていない。
「こっちも今来た所でな。それなら買いに行かせてるよ」
ラルフはウィンストンを咥え、右に居た女が火を点ける。そこにカップを4つ、トレーに乗せた男がやってくる。
「ルービン、お前もう一杯買って来い。J、カプチーノならあるから座れよ」ラルフが言う。
ルービンという男がトレーを置いて、もう一度買いに行こうとしたのをJが止める。
「いや、大丈夫だ。ラルフ、悪いがオレはカフェモカしか飲まないんだ。あっちで一人で甘い時間過ごすよ」
笑ながらJが言うと、ラルフも上機嫌となる。
「J、またギャンブルやりに行こうぜ。おいルービン、Jの事は知っておいて損はねえ。こいつはギャンブルに関しては一流だ」
「おいラルフ、それだと他は二流みたいだぜ」
「俺もお前も、『お勉強』はマイナーリーグだろ」
「確かに、ルーキーリーグあたりかもな」
Jとラフルにつられて女たちやルービンも笑いだす。
結局この日はラルフらと共に過ごし、その後はブラックの連中が出入りする場でのギャンブルとなった。
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