第二章:(10)
沢山の作品の中からこの作品をご覧頂き、ありがとうございます。
この作品はロサンゼルスのギャングの世界の空気感を描くために、一部バイオレンスが描写が含まれておりますが、基本は主人公が偏差値30から東京大学へと進学していく過程ときっかけを描いたものとなりますので、楽しく読んで頂ければと思います。
直進の信号が青だったこともあり、7台が直進を選んだ。車線数が増えるために一気にスピードが上がる。Jも100キロから120キロ程度にスピードを上げていく。そして、それと同時にラジオを聴く余裕が消える。
一気にスピードが上がるここからは、大通りでの追い抜きテクニックと共に、警察車両を見つける集中力、敵の車との間隔など、勝利に向けて様々な要素が必要となってくる。
横から車の来ることの少ない小さな信号があり、そこが赤になっているが、恐らく誰も守らないだろう。と、なると信号と自分との間に一般車を入れたら負けとなる。Jは直ぐに目の前の一般車数台を抜いた。
この時点で市街地レースに慣れていない数台の敵を追い抜いているが、やはり同じことを考えていた4台と共に130キロで赤信号を直進した。
バックミラーを見ると残りの3台は一般車の後ろになり、赤信号で停まっている。あの程度の判断力ならば車がいかに良くても敵にはならない。このレースの最大のポイントは車の良し悪しでは無く、こうした市街地での判断力だ。
Jが最も注意すべき敵は黄色のポルシェ。ここまでの判断が同じなだけではなく、頭の良さを運転から感じられる。
4車線ある大通りだが、次の車の集団に追いついてきた。全車左右に車を振って追い抜きをかける。Jも前後左右を一気に見て、さらに追い抜く方向も右からか左からか、追い抜いた先のスペース、その次の追い抜きまで見据えて判断する。
キャノンボールでの必要要素は将棋と似ている。2手先、3手先をいかに読むかだ。抜いた先に遅い車がいれば万事休すとなる。連続で追い抜きをかけるルートを選ぶこともレーサーに求められる要件だ。
Jは目の前のジープを左から抜き、一気にベタ踏みする。激しいエンジン音と共にスピードが上がり、トラックが眼前に迫ってくる。抜いたばかりのジープとトラックとの間にあるのはシビック1台分のスペースだけだ。
トラックよりもスピードが出ているジープに対して追い抜きをかけるには、この瞬間しかなかった。ハンドルを右に一気に切り、トラックまで数十センチ、そして後ろのジープとも1メートルは無いであろう所で車線を変えた。
あと一瞬判断が間違っていればこのスペースには飛び込めなかった。そして、直ぐにアクセルを放してエンジンブレーキをかけて、目の前に迫った一般車のBMWに衝突しないようにする。
危険を回避したJはまたアクセルを開け、次のスペースを探す。探すために視野を広くすると、いつのまにか前を行くのは黄色のポルシェとシルバーのコルベットだけとなっている。
車群を抜けるとまた一般車はまばらとなり、3台はアクセルをいっぱいに開け160キロ程度での勝負が始まる。しかし、スピード勝負ではシビックには厳しい。アクセルを開けてから160キロに到達するまでの時間が、ポルシェやコルベットは早い。しかし、全速での勝負ではないのでJもしっかりと斜め後方をキープしている。
次の信号も横からの車の出入りは少ない小さな信号だ。信号は青だし、特に問題なくアクセルをさらに踏み込もうとした瞬間、見覚えのある嫌な車の鼻が信号待ちで停まっているのが目に入った。
一気にアクセルから足を外し、エンジンブレーキを入れる。バックミラーでそれを見たであろうポルシェも一気にスピードを落とす。気が付かず信号を170キロ程で通過したコルベットだが、サイレンと共にあの鼻の車が追いかけ始めた。これで勝負は2台となる。
コルベットは観念したようにスピードを落とした。
「バ~イ」
軽く手を振りながらJは法定速度でコルベットの横を通り過ぎた。
ポルシェもスピードを落としているが、問題はどの瞬間にアクセルを再び踏み込むかだ。軽くカーブを曲がりコルベットとパトカーが視界から消えた瞬間、アクセルを一気に踏み込んだ。タイミングは1秒と違わずポルシェもアクセルを開けるが、一般道でのレースではこの一瞬で変わる。
その後数ブロックレースをする中でJのシビックがポルシェの前にいる状況が生まれた。そして次の大通りとの交差が左折のポイントとしては最適だろう。左折用のレーンに入り信号待ちをする。後ろにはポルシェが付く。やはり考えは同じらしい。
右側通行では、左折の時に対向車線を横切る形となる。そして、ロサンゼルスではまず左折から青になるのが一般的だ。運良くポルシェは後ろ、作戦は一つしかない。
左折用の信号が青になり、対向車線の左折レーンの車は次々と交差点に進入する。しかしJは一向に車を出さない。
今曲がろうとしている道は交通量が少ない。同時にポルシェとこの道に入れば勝ち目は無いだろう。ゴールももうすぐだ。
ポルシェ以外の車からもこれでもかとクラクションが鳴り響くが、Jはバックミラーでポルシェに乗るメキシコ人の怒った顔を見て笑顔になっていた。信号が黄色になる。
そして赤へと変わった瞬間、一気にアクセルを全開にし、ローズクラウン通りへと入って行った。この作戦は見抜かれていたが、直後にアクセルを開けたポルシェでも交差点への進入は出来ず、信号一回分Jの車には余裕が出来た。
ローズクラウン通りからPCHへと入り、そのままゴールの駐車場へ。圧勝だった。このキャノンボールでJは殆ど負けたことが無い。スピードを競ったり、峠でのテクニックを競って勝つことは難しいが、一般道でのレースでは負ける気がしない。
遅れてポルシェが駐車場へと入ってきた。顔が真っ赤になっていることが分かる。夕陽に照らされているからではないことを知っているので、面白くて仕方が無い。
「お前、あれは卑怯じゃないか・・・・」
いろいろと捲し立てるが、過ぎたことだし、これがキャノンボールというレースだ。皆の参加費から出した優勝賞金である200ドルをJは財布に入れ、意気揚々と駐車場を後にした。
【作者からのお願い】
『続きが気になる!!』『面白い!!』と思って下さったら、下にある【☆】をタップして評価やブックマークをして頂けると執筆の励みになります。




