第二章:(7)
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この作品はロサンゼルスのギャングの世界の空気感を描くために、一部バイオレンスが描写が含まれておりますが、基本は主人公が偏差値30から東京大学へと進学していく過程ときっかけを描いたものとなりますので、楽しく読んで頂ければと思います。
翌日の夕方、JはLL Cool Jの「Hey Lover」を聴きながら一人シビックで海岸線の道を流していた。レースをする訳ではなく、窓を開けて夕方の西海岸の風を感じながらゆっくりと音楽とドライブを楽しんでいた。一休みがてらカフェに向かうとケイトが一人でテラス席にいた。
「よっ、こんな所で何してるんだ?」とJが言い終わらないうちに
「おい、お前誰だ?」
怖そうな男がコーヒーを二つ持ちながらやってきた。どうやらデートの邪魔をしたらしい。
「あ、悪いな。学校で友達でさ」Jが言うと
「せっかくだし、Jも座りなよ。良いよねスティーブ?」
とケイトが言う。スティーブは不服そうだが、首は縦に振られた。
このスティーブという男からは明らかに厳しい目がJに向けられた。デートの邪魔をされたのだから当然だろう、と思ったが、その厳しい目付きには覚えがあった。グリーンの賭場で会ったことのあるミックの部下の男だ。どうやらJが気付くより前に、スティーブの方があの日会った人物だと気付いていたようだ。スティーブが灰皿を取りに席を立った。
「で、こいつがお前の彼氏か?」
小声でケイトに聞く。
「そんな訳無いでしょ!見る目無いの?友達の紹介だから仕方なく会ってるけど、しつこく来られてるの」
「良かったよ。ケイトの趣味がこんなに悪くなくて」
Jが笑っている所にスティーブが帰ってきて、話は聞かれてはいないが、ケイトとの会話で笑っているためかなり強めに睨まれた。
「おい、Jだっけ?お前ビリヤードやるか?出来るなら今から行かないか」
スティーブから誘うだけあり、ビリヤードには自信があるのだろう。ケイトの前で格好良い所を見せようという狙いが隠れてもいなかった。
Jはキングらと遊ぶだけで下手の部類に入ると思うが、そんなJに勝ったからといってケイトがスティーブに惚れるとも思えず、花を持たせてやるつもりで誘いに乗った。
ケイトはスティーブの車に乗り、Jはその後ろを付いて行く形で、行ったことが無いビリヤード場へと着いた。やはり夜のビリヤード場は、どこも同じ様に不良の巣窟となっている。
スティーブの中では「掛け金」はケイトなのだろうが、Jにもケイトにもその意識は無い。
ケイトを手に入れるために力の入ったスティーブと、全く何も賭けておらず、さらにこれで負けても良いと思っている無心のJ。こういう時に限って勝負の女神は面白い微笑み方をする。
スティーブの球が一向に落ちない一方で、普段なら成功率の低いJのショットが、連続で2つ3つと決まっていく。Jも面白がって続ける内に圧倒的差で勝利した。しかし、スティーブのイライラが頂点に達しているのが分かり、「次のゲームはギリギリで負けよう」と心に決めた。
しかし、落とそうと思っても普段は落ちないくせに、外そうと思うと逆に落ちてしまう。しかも、落とす気が無い為、プロがやるような高度な技を見よう見まねでやるが、これがまた見事に決まったりする。
誰の目にも明らかな怒りのオーラに燃えるスティーブを前に、もはや楽しいという感覚は無く、「なんで落ちるんだ?」とJは焦っていたが、ケイトは無邪気にも
「J、凄いね~上手いなんて知らなかったよ。格好良いじゃん」
とJが球を落とす度に嬉しそうに声を上げるので、スティーブを見ながら気が気でなかった。結局勝負は圧勝でJが3連勝した。
「ケイト!もう帰るぞ」
キューを放り投げたスティーブに対して
「私はJと帰るね」
ケイトは火に油を注ぐ。しかし、イライラしているスティーブを見ると、このままケイトを一緒にいさせることは安全では無いだろうと感じた。
「オレが送っていくから心配するな」
声は冷静に、しかし、しっかりとスティーブを見ながらJはスティーブとケイトの間にさりげなく割り込む。
「お前、誰にもの言ってると思ってる・・・」
スティーブは怒りの表情を見せるが、Jの後ろにキングが居ることは先日の一件で十分に知っているため、手が出て来ることはない。それでも、これ以上いると喧嘩になるだろう。
「大丈夫だ、そのまま家に送ってくよ」
ケイトの腰に手を回し、行くように促し、Jはもう片方の手を軽く振り、背後のスティーブに挨拶をしつつ店を出た。慌てず、でも急ぎながら助手席にケイトを乗せ、車を出した。
「あれ?そう言えばケイトの家って知らないや。どこだ?」
簡単に道の説明をされ、そちらに向かって走らせる。Jはミラーを見たが、特に付いて来る車も無く、もう安心だった。
「Jって案外色々出来るんだね~。ただの女ったらしかと思ったら」
笑いながらケイトは饒舌に話す。今夜のビリヤードに関しては自分自身も驚きだった。今日の出来をキングたちにも見せてやりたかったが、せっかくケイトが誤解しているので、そのまま笑っていた。
ケイトの家に着くと
「今日は色々ありがとね。格好良かったよ。ちょっとだけ好きになったかな」
ウィンクして助手席から出て行った。
「ケイトが、好き、ねぇ~。明日は雨だな」
マルボロを咥え火を点け、ジャックの家へと車を走らせた。
「Jが話していた通り、今日は雨だね」
翌日の休み時間、ジャックがJに話しかける。まさか本当に雨が降るとは思わず、ケイトの一言がどれだけ珍しい一言だったのかと思いJは苦笑いだった。
そこにやってきたのはキングだ。
「J、ジャック、今夜ビリヤード行くか?」
「いつも通りの仕事終えたら向かうよ」
とJは返す。
「じゃあ、大金稼いだら、Jに奢ってもらわないとな」
キングは上機嫌に笑い、それぞれ次の授業の教室へと向かった。
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