第二章:(6)
沢山の作品の中からこの作品をご覧頂き、ありがとうございます。
この作品はロサンゼルスのギャングの世界の空気感を描くために、一部バイオレンスが描写が含まれておりますが、基本は主人公が偏差値30から東京大学へと進学していく過程ときっかけを描いたものとなりますので、楽しく読んで頂ければと思います。
キングらと合流したのは夜11時を回ったビリヤード場の駐車場だ。
その巨大モールは市民が買い物や食事をする日常の中にあり、誰もが安全な場所と認識しているはずだ。ただ、多くの人間はそのモールの「表」から入り、表から出ていくため、そのモールの裏手にも道があり、広い駐車場があることは気付かない、もしくは気付いても近寄らないだろう。
この裏手の道や駐車場には街灯も少なく、夜になれば常時暗く、警察の目も届きにくかった。そんな巨大モールの裏手にひっそりとあるビリヤード場は、当然ながら裏通りの世界の住人達が集う場所となり、駐車場には改造車が多数停まっている。店に入るわけでもなく、大音量で音楽をかけ、爆音でエンジンをふかしながら駐車場でたむろしている街のギャングたちも多数いて、暗い駐車場ながら大いに盛り上がっている。
ビリヤード場の入り口には1メートル90はある巨体のボディガードが仁王立ちしているが、キングは笑顔で彼の肩を軽く叩き、そのまま店に入っていく。この手の店でも顔パスが利くのがキングだ。続いてJとマイキーが続き、そしてブラックの幹部ラルフが入店する。
店内は煙草の煙で真っ白である。
深夜のビリヤード場に出入りする連中であり、どの顔も相当場数を踏んだ顔をしている。入り口の扉で、店に入ることが出来る人間と出来ない人間に分かれており、店の外では若手ギャングたちが騒いでいるが、店内は様々な組織の幹部たちとその友人が多い。10代後半から30代くらいの男が多く、男女比は9:1くらいであろう。1つ何かの糸が切れれば非常に危険な事態が待っていることが本能で分かる。独特の緊張感が店には常に漂っている。ギャンブルは当然禁止なのだが、どのテーブルも紙幣が飛び交い、それを目的に次々とテーブルを回る腕に自信があるプレイヤーもいる。
掛け金などでもめた軽い口論も飛び交っているが、不良の巣窟であり、必要以上の危険を避けるためにも、周りの目を気にしながら口論をし、なんだかんだと落ち着くところに落ち着いていく。
このテーブルは、ブルーのキングに大組織ブラックの幹部であるラルフがいるため、ここでは戦力になりそうもないJやマイキーが居ても危険になることはない。
「ラルフが来るとは思わなかったぜ」キングがラルフに声をかける。
ラルフは恰幅の良い男だがスーツをお洒落に着こなしている。マフィア映画の中のマフィアへの憧れがあり、実力以上の大物風を吹かす時もあるが、実際に裏社会への顔も広い実力を有する男だ。Jとはギャンブルを通じて知り合い、この日はJが時間潰しで立ち寄ったカフェで偶然会い、誘われていた。
「Jにカフェで誘われてな。キングも居るってことだから勝負に来たよ」
「よし、オレとJがチームでラルフとマイキーが組んで勝負だ。」
キングが場を仕切り、勝負が始まった。
「じゃあ明日のドリンクでも賭けようぜ」
Jが高校生らしい「健全な」賭けを提案し、全員が乗ってきた。ただ、他のテーブルのギャンブルでビリヤードをやっている連中とは違い、下手が4人集まっただけであり、勝負がゆっくりだった。しかし、ギャンブルに来た訳では無いのでこうした時間の中で交わす会話などが楽しい。
そんな時、遠くのテーブルで一人の男が大きな声を上げる。
一瞬にして店内の空気がピリつく。掛け金目的の流れのプレイヤーに対して、そのテーブルの連中の一人が負けた事に納得がいかないらしい。組織の人間数人に対して流れのプレイヤーが一人。どう見ても形勢は圧倒的に不利だが、そうはならないのがこの店の暗黙のルールだ。どのテーブルも相当手練れのギャング連中の集まりだが、皆目的は「ビリヤードを楽しむこと」となる。その楽しい時間を害する人間は、組織の垣根を越えた「全員の敵」として即座に認定される。キングやラルフも含めた店中からの厳しい視線がそのテーブルの男たちに注がれる。流れのプレイヤーはそのことを十分に分かっていて余裕の表情だ。
現在の状況をシミュレートすることが出来れば、これ以上騒ぎを大きくさせないことが最善手となるが、どうやらそのテーブルの連中も周囲を見渡してそのことを察したらしい。テーブルの上に金を乱暴に置き、流れのプレイヤーがそれを回収し、他のテーブルへと移動していった。
一瞬にして形成された「多国籍軍」と、その状況を把握出来たシミュレート能力が、結局何も起こらなかった平和を実現させた。
「そういやJ、あのテーブルの連中、あいつらとはなるべく関わらない方が良いぞ」
マイキーがゆっくりと球筋を読んでいる間にキングがJに言う。
「今回は身を引いたけど、直ぐに銃をぶっ放す危険な連中の集まりだ。Jのことはいつでも守ってやるが、なるべくならあそことは問題起こさないでくれ。面倒だからな」
「やっぱり面倒な組織か~人は見かけ通りだな。気をつけておくよ」
色々な情報の交換をしたり、馬鹿話をしながらゲームは進み、数ゲームのトータルの結果、勝負はJたちが勝った。翌日のJとキングのランチタイムのドリンクはこれで確保となった。
【作者からのお願い】
『続きが気になる!!』『面白い!!』と思って下さったら、下にある【☆】をタップして評価やブックマークをして頂けると執筆の励みになります。




