第二章:(5)
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この作品はロサンゼルスのギャングの世界の空気感を描くために、一部バイオレンスが描写が含まれておりますが、基本は主人公が偏差値30から東京大学へと進学していく過程ときっかけを描いたものとなりますので、楽しく読んで頂ければと思います。
翌朝、Jは少し早めに学校に行った。
昨夜名残惜しそうなミッシェルと意味深な言葉で別れて、その用事がジャックだったことへのちょっとした罪悪感みたいなものもあったからだ。嘘をついた訳ではなく、ケイトならば即座にジャックの家に行くことを理解し指摘したと思うが、素直なミッシェルはJの言葉をストレートに受け取った。Jとしても拍子抜けする予想外の素直過ぎる反応だったが、訂正する機会もないままに今となってしまった。
ミッシェルが友人たちと授業開始前に話している場所は分かっている。三方を2階建ての伝統校の古い校舎で囲われた噴水のある中庭のベンチで、朝は授業までの時間を友人たちと過ごしている。まだケイトはいないようなので、さりげない振りをして近くを通り、ミッシェルと目が合うと軽く顎を上げて挨拶をした。
「あ、Jどうしたの?いつもこっちに来ないのに」
ミッシェルは友人らを置いて笑顔でJに近付いてきた。野次馬のミッシェルの友人らに見られないように柱の陰に自然な動きで隠れる。
「いや~ちょっと用事があってね」
「私に会いに来たとか?」悪戯っぽく笑いながら腕を組んでJを見上げる。
「そう、ミッシェルの笑顔に会いたくてね」
Jは冗談っぽく言うが、このミッシェルの笑顔はいつだって見ていたい。
そして「じゃあ、用事があるから」と別れようとすると同時に、
「そうそう、ミッシェルが聴きたいって言ってたCD貸すよ」
とJはバックパックからBoyzⅡMenのCDを取り出しミッシェルに渡す。
「あっ、ありがとう。これ聴きたかったんだよね」
喜んだミッシェルの笑顔に見送られ、Jは図書館へと向かった。図書館に着くとやはり誰もまだ来ていない。いつものテーブルに行き、バックパックを置く。CD一枚の重さだが、ミッシェルからの「貸し」の分の重さは無くなり、バックパックも軽やかに置かれる。誰かが来るのを待つ間、テーブルに伏して寝ているとキングがやってきた。
「あれ?J早いな。どうした?」
「あぁ、用事があったからな」
Jは言いながら「用事」とは便利な言葉だなと改めて思った。キングはバックパックをテーブルに置きながら
「そういや、今夜はビリヤード行くか?」と誘う。
「おっ、いいね。行くよ」
今夜のJの「用事」は決まった。
放課後、キングとの約束の時間まではまだあるため、Jは街外れのゲーセンに向かった。案の定インテグラが停まっている。白のインテグラならどこにでもあるが、車が放つ個人のオーラみたいなものがある。ナンバーまでは暗記はしていないが、このインテグラならリチャードのだろうと確信を持ってゲーセンの店内に進む。
「リチャード、やっぱり上手だね」
4人の女に囲まれてレースゲームをやっているのはリチャードだ。相変わらずモテている。単なる友人ではなく、誰もがリチャード目的でここに居ることは、漫画で描けばハートになっている女たちの目から、そして声や態度からすぐに察しが付く。Jもデートは重ねているが、こういうハーレムのような状況になったことは無く、リチャードを見る度にイケメンの実力を実感させられる。
「ねぇ、喉湧いたからドリンク買って来るね」
女の一人が言うと、もう一人の女も一緒に行くと言う。そこに
「じゃあ、オレの分もコーク買って来てくれ。お前らの分もこれで払えよ」
とリチャードは20ドル札を出していた。
「よう、リチャード。その金以外で20ドルあるか?」
とジーンズのポケットに両手を入れたままJは笑顔近づいていった。
「おぉ~J。こないだ酷く負けちゃったもんな」
リチャードも笑顔で答える。
この相手の警戒心まで一瞬で解いてしまう笑顔と余裕がモテる要因なのだろう。勿論Jも警戒はしていない。普段貸した金を回収する時には緊張があったりもするが、時にはこういう気持ちが良いケースもある。
「サンディーごめんな。Jに金返すからその20ドルいいか?」
「OKリチャード、じゃあ今日は私がコーク奢ってあげる」
と言う彼女から20ドルを受け取り、リチャードはそのままJに渡した。
Jが笑顔で受け取ると
「J、一回対戦しないか」
リチャードはレースゲームにJを誘う。車好きであることが伝わる常に綺麗な白のインテグラに乗るリチャードだ。車好きである以上、この手のゲームもまた得意なのだろう。金を返してもらっておいて断るのも無粋なのでここは付き合うことにした。
応援団は4対0。全員がリチャードが座るマシンの後ろや横に立ち、レースの開始を待つ。ただ、LA中を駆け回り、シビックよりも高級な車たちとの実車でのレース経験も豊富なJは、ゲーセンでもこの手のゲームが好きでやり慣れている。結局Jはリチャードに勝った。
「オレにレースで勝つのはまだ早いよ」
ゲーム機のマシンを降りながら言うと
「ギャンブルでもレースでも良いところが無いな」笑いながらリチャードが言う。
「圧倒的にモテるんだから、ゲームでくらい勝たせてくれ」
軽口を叩きつつ笑顔でJとリチャードが話すため、リチャードが負けたものの、女たちも笑いながら話を聞いている。軽く手を上げて「see you」と別れを告げ、Jはゲーセンを後にした。
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