第二章:(4)
沢山の作品の中からこの作品をご覧頂き、ありがとうございます。
この作品はロサンゼルスのギャングの世界の空気感を描くために、一部バイオレンスが描写が含まれておりますが、基本は主人公が偏差値30から東京大学へと進学していく過程ときっかけを描いたものとなりますので、楽しく読んで頂ければと思います。
ミッシェルは背中に回した手を離そうとはしない。顔をJの胸に押し当て、身体はきつく密着したままだ。
ミッシェルとのデートは少し間隔が開いていたこともあり、今日のデートでは積極的だった。手を引っ張ってモールのあちこちの店に連れて行き、散々買い物をした後、カフェへと向かい、2時間近く話をしていた。そろそろかと店を出たカフェの前の駐車場で、ミッシェルはJに抱き着いた。
テラス席のあるカフェの前の駐車場なので、時折客の視線を感じるのがJには少し気まずい。夜10時前の街はTシャツ一枚では少し寒く感じるが、互いの体温がそれを補う。
「そういや、今朝なんでケイトの前で今日デートする話を避けたんだ」
Jが思い出したように聞く。
「ケイトのことは好きだよ。でも、なんかJと2人で会ってることは言いたくないんだ。・・・うん。多分そんな感じ」
「そんな感じって、どんな感じだよ」Jが笑いながら言うと
「J、『女心』って授業があったら、多分『F=落第』だよ」
「これ以上成績下がるのは困るけど、その授業で単位を取る自信もない」
Jとミッシェルは抱き合いながら笑った。そして、
「ねぇ、なんで行っちゃうの?」とミッシェルは見上げてJに聞く。
「今日はこれから会わなきゃいけない奴がいて、やらなきゃいけない事がある」
Jがそう言うと諦めたように「気をつけてね」と言って軽くキスをする。
ミッシェルが車に乗り、家路に向かうのを見届けた後、シビックに乗り込み走りだした。
「よ~ジャック」
Jはジャックの家のドアを開けた。肩には大きな荷物を抱えている。
「アニーはさっき帰ったよ。その大きなのは?」
「今日はオレからのプレゼントがあるぜ~」
と肩に抱えていた日本米10キロを下ろした。普段からジャックの家で夜食を食べていることを知っているJの母親が、定期的に持たせる米だ。今日の仕事は、ジャックに会って、米を渡すことだった。
「そのプレゼント、『オレ』じゃなくて『オレの母親』でしょ」
と毎度御馴染みのツッコミを入れてくる。そしてそれに対して
「まぁ、『我が家』からのプレゼントってことだ」
と笑いながらいつもと同じ返しをする。
ジャックが作る今夜の夜食は豚肉のフリッターだ。生姜焼き用よりは多少厚めに切った豚肉を叩いて軟らかくし、紹興酒・醤油・ニンニク・生姜の浸けダレに浸し20分置いておく。十分味が馴染んだら小麦粉と片栗をブレンドした粉をしっかりと付けてちょっと多めの油で揚げ焼きする。
豚にしっかりと紹興酒の風味とニンニク醤油の味が入っているので、ご飯は何膳も進む。ジャックの得意料理の一つだ。
その料理をジャックが仕込んでいる間、JはジャックのPCを点ける。
今朝ミッシェルが聞きたかった「世界史」の授業の宿題がPC内にある。ジャックがPCで作った宿題の名前の部分を「J」と書き換えて、解答の間のスペースなどを変えてプリントアウトする。これで異なるスタイルの宿題が完成する。これがJの宿題のスタイルで、ジャックもそれを気にもしていない。これで毎回提出するため、宿題の提出率は100%だが、世界史の授業の教科書を読んだことはなく、ミッシェルに何を聞かれても分からないのだ。
その後、JはPCでゲームを始める。アメリカの戦争シミュレーションゲームだ。
「ご飯出来たよ」
ジャックはテーブルの用意をし、豚のフリッターとご飯が並ぶ。深夜のデニーズでもそうだが、野菜が無いのは男子高校生のテーブルならではだ。
「おっ、今日も美味しそうだね、ありがとう」
Jはゲームを中断してテーブルへ向かう。
いつも通り味は最高だ。サクッとした薄い衣の中のジューシーな豚肉から、醤油ベースの浸けダレの香りが広がる。ご飯が進まない訳が無い一品で、2人ともご飯を何度かお代わりする。
「ゲーム好きだよね」
ジャックが言う。
「ゲームの中でもシミュレーションゲームだね」
このシミュレーションゲームという所が大切なところだ。
「シミュレーションゲームは、他のゲームと違って、情報収集力と情報分析力が求められるんだ。与えられた環境で、クリアを目指して敵となる相手や自分自身、攻略の糸口に関する情報を収集しなきゃいけない。そして、それを分析して、自分の現在の力、敵との戦力比較、敵の攻撃予測などを立てる。その上でようやく、ゲームをクリアするための行動に向けた攻略プランを練るんだよ」
Jがゲームについての説明を熱心にする。ジャックも箸を置いて聞き入っている。
「じゃあJがギャンブル強いのもシミュレーションゲームの影響?」
ジャックが聞いてくる。興味津々の顔をしている。
「もちろん。カードゲームだって情報収集と分析に基づくし、車のレースだって全部同じ。自分自身と相手、そして置かれている環境を理解する力が全ての結果を左右するのさ」
戦争、市場競争、スポーツ、投資などあらゆる分野でシミュレーションは行われる。ターゲットにすべき競争相手の戦力を分析し、優位性がある場所、劣勢な部分を探し出し、適切な戦略を練る。勉強や街での喧嘩に至るあらゆる分野において必要な要素だ。
Jは小学生の頃からシミュレーションゲームを好んでやっているが、純粋に楽しみながらも、このゲームで必要となる知的な情報分析・解析の訓練がゲームの世界内で終わらないとの確信を持っており、積極的にPCでゲームを行っている。やるゲームは戦争物、経営物、歴史物など多種に渡るがシミュレーションゲーム以外では遊んでいない。
「今日は久しぶりにJから為になる話を聞いた気がする」
ジャックが笑う。
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