↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生したら桶でした  作者: 玉葱将軍


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

83/94

七十八話 消えた温泉宿


 翌朝。


 シャルネ達は、昨日見つけた記録を頼りに、さらに北へ向かっていた。


 街道は、昨日までとは違い、ほとんど整備されていない。


 道幅も狭い。


 ところどころ、草が道を覆っている。


「本当に、この先に何かあるのかな?」


 シャルネが、地図を見ながら呟く。


「記録が残ってる以上、何かはあったんだろうねぇ」


 クラマが答える。


『問題は、それが今も残ってるかだな』


「……それ」


「昨日の温泉街を見た後だと、笑えないね」


『だな』


 桶さんも、少しだけ嫌な予感がしていた。


 それから、半日ほど進んだ。


 やがて。


 道の脇に、古い石碑が見えてきた。


「止まって」


 シャルネが言う。


 馬車が止まる。


 三人は、石碑の前まで来た。


 そこには、薄くなった文字が刻まれていた。


「……読める?」


 シャルネが聞く。


 クラマが、石碑を覗き込む。


「古い文字だけど、なんとか」


 クラマが、ゆっくり読み上げる。


「『この先、湯の里あり』」


「『旅人は、山の恵みに感謝せよ』」


 シャルネが、周囲を見る。


「湯の里?」


『温泉街ってことか』


「たぶんね」


 だが。


 石碑の先には、道しかない。


 建物も、人影も、何もない。


「……」


 クラマが、少し眉を寄せた。


「ここに、昔は街があったのかもしれないね」


『またかよ……』


 桶さんが、思わず呟く。


 シャルネも、苦笑した。


「温泉街、どんどん消えていくね」


 三人は、石碑から先へ進んだ。


 しばらくすると、山の斜面に何かが見えてきた。


「あれ」


 シャルネが、目を細める。


 そこには、崩れかけた建物がいくつも並んでいた。


 屋根は落ち、壁も崩れている。


 かつて、宿だったのだろう。


「……本当に」


 クラマが、小さく呟く。


「温泉街だったみたいだね」


 建物の間には、古い看板が落ちていた。


 そこには、


『旅館』


 とだけ、書かれている。


 シャルネが、周囲を調べる。


「人はいないね」


「完全に廃墟だ」


『でも』


 桶さんが、何かを感じ取る。


『近くに、湯がある』


「分かるの?」


『ああ』


『この辺り、少し温かい』


 シャルネは、桶さんを持ったまま、周囲を歩いた。


 すると。


 廃墟の奥に、小さな石造りの建物があった。


「これ」


「湯小屋かな」


 扉を開ける。


 中には、古い浴槽が残っていた。


 そして。


 その奥から、わずかに湯が流れている。


『……』


 桶さんが、静かになる。


「どう?」


『いい湯だ』


『昨日のところより、こっちの方が強い』


 クラマが言う。


「へぇ」


「まだ湧いてるんだ」


 シャルネは、浴槽を眺めた。


「こんな場所なのに」


「温泉だけは残ってる」


 浴槽の脇には、古い木札が落ちていた。


 シャルネが拾う。


「……これ」


 木札には、かすれた文字が書かれている。


「『北の湯へ向かう者へ』」


 クラマが尋ねる。


「北の湯?」


 シャルネが、続きを読む。


「『この湯よりさらに北』」


「『山を三つ越えた先』」


「『白い岩壁の下に、一つの湯が湧く』」


「……!」


 クラマの表情が変わる。


「それ」


「神湯の手掛かりじゃない?」


『たぶんな』


 桶さんも、期待を隠せなかった。


 だが。


 シャルネは、木札を見つめる。


「続きは?」


「これで終わり?」


 裏返す。


 何もない。


「情報が少なすぎるね」


 クラマが、周囲を見る。


「でも」


「昨日の記録と繋がってる」


「北へ向かった旅人」


「この湯からさらに北へ向かう道」


「そして」


「白い岩壁」


 シャルネが、頷いた。


「行ってみるしかないね」


『ああ』


 桶さんは、そう答えた。


 しかし。


 廃墟を出る前。


 シャルネが、もう一度だけ、その温泉を見た。


 誰もいない。


 手入れする者もいない。


 それでも。


 湯だけは、今も静かに湧き続けている。


「……もったいないな」


 シャルネが、ぽつりと言った。


 クラマも、何も言わず、その景色を見ていた。


『……なぁ』


 桶さんが、静かに言う。


「なに?」


『もし』


『神湯が見つかったとして』


『それでミリナが助かったら』


『俺達』


『またこういう温泉を探しに来てもいいのかな』


 シャルネが、少し驚いた顔をする。


「桶さん」


『ん?』


「温泉巡りしたいだけじゃない?」


『……』


『半分くらいは』


「やっぱり」


 クラマが、吹き出した。


「でも」


 クラマが、廃墟になった温泉を見ながら言う。


「こういう場所を見てると」


「何かできることがあれば」


「って思う気持ちは」


「ちょっと分かるね」


 シャルネも、静かに頷いた。


「うん」


「湯けむり亭も」


「最初はこんな感じだったんだろうね」


『……そうだな』


 桶さんは、廃墟の温泉を、シャルネの腕の中から静かに見ていた。


 その日の夜。


 三人は、廃墟から少し離れた場所で、野営をすることになった。


 地図を広げる。


「山を三つ」


「白い岩壁」


「その下にある湯」


 クラマが、指で地図をなぞる。


「この先だね」


「でも」


「かなり険しいよ」


 シャルネが、頷く。


「明日から」


「馬車は使えないかもしれないね」


『だったら』


『俺を落とすなよ』


「大丈夫」


 シャルネが笑う。


「ちゃんと持っていくから」


『頼むぞ』


 三人は、明日の準備を始めた。


 神湯へ続く手掛かりは、少しずつ形になり始めていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。