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転生したら桶でした  作者: 玉葱将軍


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七十四話 神湯を探す旅


神湯。


その言葉が、湯けむり亭の中に残っていた。


「セレナさん」


ミリナが静かに尋ねる。


「私の呪いは」


「どれくらい持つんでしょうか」


セレナは、少しだけ黙った。


「……今の状態なら」


「私が定期的に抑え続ければ」


「すぐに命に関わることはないわ」


「じゃあ……」


「ただし」


セレナが続ける。


「ずっとというわけにはいかない」


「呪いそのものは」


「少しずつ強くなっている」


「私の術で抑えられる期間にも限界がある」


「どれくらいですか?」


「正確には分からない」


「でも」


「長くても半年程度」


「……半年」


ミリナが小さく呟く。


「それまでに」


「神湯を見つけなければ」


「厳しいわね」


部屋の空気が重くなる。


だが。


桶さんは、迷いなく言った。


『だったら』


『半年以内に見つければいい』


「桶さん……」


『俺は行く』


『神湯を探す』


『絶対に見つける』


ミリナは、しばらく桶さんを見つめる。


「……私も」


「一緒に」


『駄目だ』


即答だった。


「え?」


『今のミリナを』


『危険な旅に連れて行くわけにはいかない』


『湯けむり亭で待っててくれ』


「でも……」


『大丈夫』


『俺には仲間がいる』


シャルネが、一歩前に出る。


「私も行く」


「当然でしょ」


「桶さんを一人で旅に出すなんて危なすぎる」


『俺、桶なんだけど』


「だからよ」


シャルネが呆れる。


「自分で歩けないでしょ」


『……それはそう』


だが。


もう一人については、まだ決まっていなかった。


「誰か」


「一緒に来てもらえそうな人を探した方がいいですね」


ミリナが言う。


「神湯なんて伝説を探すんです」


「情報を持っている人が必要です」


「そうね」


セレナも頷く。


「私も」


「神湯について、もう少し調べてみるわ」


「お願いします」


その日の午後。


リリィパパが、湯けむり亭を訪れた。


「ミリナさん」


「どうしました?」


ミリナが迎える。


リリィパパは、少し困ったような顔をしていた。


「何やら」


「大変なことになっているようですね」


「……はい」


ミリナは、少し迷った。


だが。


今まで助けてもらった相手でもある。


「実は」


ミリナは、これまでのことを話した。


ミリナにかかった呪い。


凄腕の解呪師でも完全には治せないこと。


そして、神湯という伝説の温泉を探すこと。


「なるほど……」


リリィパパは、静かに頷いた。


「それは」


「大変なことになりましたね」


「はい」


「これから」


「シャルネさんと桶さんで」


「神湯を探す旅に出ようと思っています」


「そうですか……」


リリィパパは、しばらく考えていた。


そして。


「実は」


「先ほど」


「クラマ達のところへ寄ってきたのですが」


「クラマ?」


シャルネが反応する。


「ええ」


「何か困り事があるようなら」


「力になりたいと言っていました」


「……」


シャルネが、少し驚いた顔をする。


「クラマが?」


「はい」


「詳しい事情までは」


「私からは話していません」


「ただ」


「湯けむり亭の皆さんが」


「何か大きな困り事を抱えているようだ、と」


桶さんは、少し考える。


『……なるほどな』


『クラマなら』


『旅の仲間として頼りになりそうだ』


ミリナが言う。


「クラマさんなら」


「お願いしてみてもいいかもしれませんね」


シャルネも、少し考えてから頷く。


「確かに」


「旅をするなら」


「一人でも多い方がいい」


「それに」


「クラマなら」


「危険な場所にも慣れてる」


リリィパパが笑う。


「では」


「私から伝えておきましょう」


「お願いします」


その日の夜。


リリィパパから話を聞いたクラマは、少し驚いた顔をした。


「へぇ」


「湯けむり亭がそんなことになってるのか」


「だったら」


「放っておけないな」


クラマは立ち上がる。


「昔は」


「迷惑ばっかりかけたからな」


「今度は」


「ちゃんと力になってやるか」


こうして。


クラマも旅の仲間になることが決まった。


そして、もう一人。


「ギンジさんにも」


「聞いてみましょう」


ミリナが言った。


「長く生きている方ですから」


「何か知っているかもしれません」


『それだ!』


桶さんも頷く。


『まず木漏れ日温泉郷に行こう』


『神湯なんて伝説』


『昔から温泉に関わってきた奴の方が詳しいかもしれない』


こうして。


最初の目的地が決まった。


木漏れ日温泉郷。


翌日。


出発の準備が始まった。


シャルネは、武器と防具を確認する。


桶さんの旅道具も準備される。


ミリナは、必要な荷物をまとめながら何度も桶さんを見る。


「本当に」


「行っちゃうんですね」


少し寂しそうな声だった。


『あぁ』


『でも』


『絶対帰ってくる』


「神湯を見つけて?」


『もちろん』


「……約束ですよ」


『約束だ』


ミリナは、桶さんをそっと抱きしめる。


「お願いします」


「私を」


「助けてください」


桶さんは、静かに答えた。


『任せろ』


『俺は温泉が大好きだからな』


『世界中の温泉を探してやるよ』


「ふふっ」


ミリナが笑う。


「それなら安心ですね」


そして。


旅立ちの日。


湯けむり亭の前には、皆が集まっていた。


ミリナ。


バルミナ。


ルーナ。


ミア。


エナ。


ドロシィ。


ゴルド。


そして。


湯けむり亭で働く仲間達。


「気をつけてくださいね!」


「絶対に帰ってきてください!」


「ミリナ店長は私達が守ります!」


ミア、エナ、ドロシィの三人が元気よく手を振る。


「よろしくお願いしますね」


ミリナも、皆に頭を下げる。


シャルネが、桶さんを抱え直す。


「行こう」


『あぁ』


こうして。


シャルネと桶さんは、湯けむり亭を出発した。


クラマは、後から合流することになっている。


そして。


まず向かうのは、木漏れ日温泉郷。


そこには、長い年月を生きてきたギンジさんがいる。


神湯について。


何か知っているかもしれない。


まだ。


何一つ確かなことはない。


ただ一つだけ。


ミリナに残された時間は、半年。


限られた時間の中で。


桶さん達の、最後の温泉探しが始まった。

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