六十六話 変わらない常連達
営業再開から。
一週間ほどが経った。
今日も。
湯けむり亭は朝から賑わっていた。
その中には。
見慣れた顔もある。
「おう!」
「久しぶりだな!」
「やっぱりここは落ち着くぜ!」
昔から通っている常連達だ。
三ヶ月の休館中。
何度も。
まだか、まだかと。
再開を待ち続けていた。
そして。
ようやく戻ってきた湯けむり亭。
「しかし……」
一人の常連が。
浴場を見渡す。
「本当に広くなったなぁ」
「前の倍くらいあるんじゃねぇか?」
「それどころじゃないだろ」
別の常連が笑う。
「風呂の種類まで増えてるぞ」
「薬湯まである!」
「おい、男湯にもあるじゃねぇか!」
以前は女湯にしかなかった薬湯。
今では。
男湯にも追加されている。
「こりゃいいな」
「ちょっと入ってみようぜ」
常連達が。
次々と湯船へ入っていく。
「……ふぅ」
一人が。
気持ちよさそうに息を吐いた。
「やっぱり温泉はいいなぁ」
「当たり前だろ」
「三ヶ月も待ったんだぞ」
皆。
嬉しそうだった。
そして。
「おい!」
別の常連が叫ぶ。
「これ何だ!?」
打たせ湯だった。
「肩に当てるんだよ」
「ほぉ」
「ちょっと貸せ」
交代しながら。
皆で試していく。
「おお……」
「これはいいな」
「肩が軽くなる気がする」
さらに。
寝湯。
「これ……」
「動きたくなくなるな」
「分かる」
最後には。
全員が寝転がっていた。
「お前ら帰る気あるのか?」
「ない」
「俺も」
そんな会話に。
浴場中から笑い声が響く。
その後。
常連達は。
新しくできたサウナにも挑戦していた。
「これが噂のサウナか」
「入ってみようぜ」
中へ入る。
「……暑いな」
「暑い」
「まだ何もしてないぞ」
そして。
「熱波入ります!」
ルーナの声。
ぶわっ!!
「うおおおお!!」
「熱っ!!」
「なんだこれ!!」
数分後。
全員。
水風呂へ飛び込んでいた。
「……」
「……」
「これは……」
「悪くない」
「いや」
「かなりいい」
常連達の顔が。
次第に緩んでいく。
その後。
外の休憩スペースで。
風に当たりながら。
昔からの常連の一人が呟いた。
「なぁ」
「なんだ?」
「昔の湯けむり亭って」
「こんなに大きくなかったよな」
「当たり前だろ」
「昔は風呂も少なかったしな」
「客だって今ほどいなかった」
皆。
少しだけ黙る。
「ミリナちゃん」
「本当に大変そうだったよな」
「一人で店やってた時期もあったし」
「掃除もして」
「受付もして」
「帳簿までやってた」
「それでも」
「店を閉めなかった」
その言葉を。
少し離れたところで。
ミリナが聞いていた。
「……」
少し恥ずかしそうに。
顔を伏せる。
「そんな昔の話」
「しなくてもいいですよ……」
常連達が笑う。
「何言ってんだ」
「俺達は知ってるぞ」
「昔のお前さんをな」
そして。
一人の常連が。
ミリナを見る。
「でもな」
「今のお前さんは」
「ちゃんと女将の顔になったよ」
「……!」
ミリナの目が少し潤む。
「女将……」
まだ。
その呼び方には慣れない。
けれど。
「ありがとうございます」
ミリナは。
嬉しそうに笑った。
その様子を見ていた桶さんも。
なんとなく胸が温かくなった。
(最初は)
(本当に小さな温泉宿だったんだよな)
客も少なかった。
建物も古かった。
ミリナは。
何もかも一人で抱えていた。
そこへ。
自分が来た。
それから。
少しずつ変わっていった。
仲間が増えた。
客が増えた。
湯土産ができた。
露天風呂ができた。
そして今では。
湯けむり亭を中心に。
湯けむり温泉郷までできた。
それでも。
常連達は。
昔と同じように。
ここへ来て。
温泉に入って。
笑っている。
それを見て。
桶さんは思った。
(変わったけど)
(変わってないんだな)
温泉から上がった常連達が。
外へ出る。
目の前には。
新しくできた店。
屋台。
人で賑わう道。
「いやぁ」
「本当に変わったな」
「湯けむり亭の周りが」
「まさかこんなになるとはな」
一人が笑う。
「昔の俺達に教えてやりたいぜ」
「ここが将来」
「湯けむり温泉郷になるぞってな」
「信じねぇだろうなぁ」
皆で笑う。
その声を聞きながら。
桶さんは。
静かに街を見渡した。
(まだまだ)
(これからだぞ)
新しく生まれ変わった湯けむり亭。
そして。
湯けむり温泉郷。
ここから。
さらに多くの人が。
温泉を好きになっていく。
そんな予感が。
桶さんにはしていた。




