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転生したら桶でした  作者: 玉葱将軍


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六十五話 新しい湯けむり亭の日常


 営業再開から。


 数日が経った。


 湯けむり亭は。


 今日も朝から大忙しだった。


「いらっしゃいませ!」


「こちらへどうぞ!」


「お待たせしました!」


 受付棟には。


 次々と客がやってくる。


 温泉棟も。


 朝から多くの人で賑わっていた。


「エナちゃん!」


「はい!」


「こっちお願い!」


「わかりました!」


 朝露組の三人も。


 以前とは比べ物にならないほど忙しくなっていた。


 だが。


 慌てる様子はない。


 それぞれが。


 自分の仕事をしっかりとこなしている。


「新人さん、こっちは終わった?」


 エナが声をかける。


「はい!」


「じゃあ、次は――」


 新人達も。


 少しずつ仕事に慣れてきていた。


 その様子を見ながら。


 ミリナは嬉しそうに笑う。


「みんな、本当に頼もしくなりましたね」


 隣にいたバルミナが頷く。


「二期生だからねぇ」


「もう新人じゃないよ」


「そうですね!」


 特に。


 ミアは以前よりさらに落ち着いていた。


「ミリナさん」


「はい?」


「今日の帳簿、ここまでまとめておきました」


「えっ?」


 ミリナが帳簿を見る。


「もう終わったんですか?」


「はい」


「あと、予約の確認と仕入れの確認もしてあります」


「……」


 ミリナはしばらく黙った。


 そして。


「ミアちゃん」


「はい?」


「すごいです……!」


 思わず抱きつく。


「わっ!」


 ミアが驚く。


 その様子を。


 少し離れたところからシャルネが見ていた。


「もうミリナがいなくても店、回るんじゃない?」


「そ、そんな!」


 ミリナが慌てる。


「まだまだ私がいないと駄目です!」


「そうか?」


「そうです!」


 桶さんは。


 その会話を聞きながら。


 少し嬉しくなった。


(ミリナも、ちゃんと女将になってるな)


 最初の頃は。


 何もかも一人で抱えていた。


 掃除。


 接客。


 帳簿。


 仕入れ。


 それが今では。


 自分の仕事を他の人へ教えられるようになっている。


 湯けむり亭そのものが。


 大きくなった証拠だった。


 そして。


 別の場所では。


「熱波入ります!」


 ぶわっ!!


「うおおおお!!」


 サウナから歓声が響いていた。


 ルーナである。


「ありがとうございました!」


 熱波を終えたルーナが外へ出る。


 すると。


「次の予約、もう入ってます」


 受付のミアが声をかける。


「えっ?」


「それから、その次もです」


「……」


 ルーナの目が輝いた。


「人気ですね!」


 その横では。


「私の方も予約入ってるかい?」


 バルミナが聞く。


「はい!」


「ドワーフの方が多いですね」


「そうかい」


 バルミナがニヤリと笑う。


「分かってるねぇ」


 サウナ人気も。


 日に日に高まっていた。


 特にルーナの熱波は。


 若い冒険者を中心に人気が高い。


 一方。


 バルミナの熱波は。


 ドワーフや年配の常連達から妙に評判が良かった。


 そんな二人を見ながら。


 桶さんは呆れていた。


(いつの間にか、熱波師が人気職になってるな)


 そして。


 湯けむり亭の外でも。


 変化は続いていた。


「蜂蜜買っていこう!」


「夜狐飯店寄ってから温泉行こうぜ!」


「屋台の串焼きも食べたい!」


 湯けむり温泉郷には。


 以前より明らかに人が増えている。


 温泉だけを目的にする人。


 食事を目的にする人。


 お土産を買いに来る人。


 サウナを目的にする人。


 そして。


 その全部を楽しむ人。


 それぞれの客が。


 それぞれの楽しみ方を見つけ始めていた。


 夕方。


 仕事を終えたミリナが。


 受付棟の椅子に座る。


「今日は忙しかったですねぇ……」


 少し疲れた顔。


 だが。


 その表情には笑顔があった。


「でも」


「楽しかったです」


 桶さんは。


 そんなミリナを見ながら。


 ふと思った。


(これだな)


(俺が温泉を好きだった理由)


 温泉そのものも好きだった。


 だが。


 温泉に入った人が。


 気持ちよさそうに笑っている。


 また来たいと言ってくれる。


 その姿を見るのが。


 桶さんは好きだった。


 その時。


 ふと。


 桶さんは久しぶりに自分のステータスを確認した。


 そして。


 ???スキル。


 そこに表示されている数字を見る。


 84%。


(……やっぱり上がってる)


 以前は。


 83%だった。


 営業再開してから。


 まだ数日。


 それでも。


 確実に増えている。


(やっぱり)


(このスキルは)


(湯けむり亭に来た人達が)


(温泉を楽しんでくれた時に上がるんだな)


 まだ。


 何のスキルなのかは分からない。


 だが。


 少しずつ。


 数字は増えている。


(……あと16%か)


 桶さんは。


 その数字をじっと見つめる。


 いつか。


 この数字が100%になった時。


 何が起こるのか。


 今はまだ。


 何も分からない。


 それでも。


 桶さんは焦らなかった。


(まぁ)


(今は温泉を楽しんでもらえばいいか)


 今日も。


 湯けむり亭には。


 たくさんの笑顔が溢れている。


 それだけで。


 桶さんには十分だった。


 こうして。


 新しく生まれ変わった湯けむり亭は。


 少しずつ。


 新しい日常を作り始めていた。

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