閑話 桶、ガチャガチャを作る
温泉棟の完成も見えてきた、ある日の昼過ぎ。
桶さんはミリナに抱えられながら、受付棟のお土産コーナーを眺めていた。
「これ、本当に人気なんですよー!」
ミリナが嬉しそうに言う。
棚には。
小さな黄色い桶。
湯けむり亭名物。
ミニ桶のお土産が、ずらりと並んでいた。
「職人さんが全部手作業で作ってるので」
「少しずつ形が違うんです」
「だから複数買っていく人もいるんですよ!」
桶さんは感心した。
なんだか前世のガチャガチャを思い出す。
そこで。
ふと思いついた。
(そういやミリナ)
(この世界に写真ってあるか?)
「ありますよ?」
「一般人はあまり使いませんけど」
(なるほど)
(バルミナ呼んでくれ)
数分後。
バルミナがやって来た。
「どうしたんだい?」
そして。
桶さんは自分の考えを説明した。
湯けむり亭で働く皆の写真を撮る。
それをランダム販売する。
昔のお祭りにあった。
写真ガチャみたいなものだ。
説明を聞き終えたバルミナは。
ニヤリと笑った。
「面白いねぇ」
「ミリナ」
「ルーナ」
「シャルネ」
「朝露組」
「リリィ」
「ちゃんとファンがいるからねぇ」
桶さんは少し驚いた。
リリィまで人気があるらしい。
「やってみようじゃないか」
こうして。
写真計画が始まった。
リリィの紹介で。
撮影専門の人を呼ぶ。
そして三日間。
ひたすら撮影が続いた。
働くミリナ。
熱波の練習をするルーナ。
帳簿を見るシャルネ。
接客するエナ。
掃除するドロシィ。
真面目に仕事をするミア。
商談中のリリィ。
市場を回るバルミナ。
そして。
なぜか桶さんも大量に撮られていた。
「なんで俺!?」
「主役ですから!」
リリィが笑顔で答える。
三日後。
大量の写真が集まった。
そして。
それを仕分けるのは桶さんだった。
桶。
横から見た桶。
上から見た桶。
お湯入り桶。
持ち上げられている桶。
ノーマル枠は、ほぼ桶だった。
「全部桶じゃないですか」
シャルネが呆れる。
だが。
桶さんの中では、全て当たりだった。
そこから先は。
レア。
スーパーレア。
ウルトラレア。
桶さんの独断と偏見で決められていく。
「これ何ですか?」
ミリナが一枚を手に取る。
そこには。
昼寝しているシャルネ。
「没です」
だが。
桶さんの中では文句なしのウルトラレアだった。
「没です」
かなり揉めた。
それでも。
最終的には皆の許可をもらうことができた。
そして販売開始。
一回百ゼン。
中身はランダム。
最初に食いついたのは冒険者達だった。
「なんだこれ?」
「写真?」
「引いてみるか」
一枚目。
桶。
「桶だ」
二枚目。
桶。
「また桶だ」
三枚目。
桶。
「桶しか出ねぇ!!」
だが。
そこでルーナのレアが出る。
「おい!!」
「ルーナさんだ!!」
一気に空気が変わった。
そこからは早かった。
数日後。
受付棟の隅には。
写真コレクター達が集まっていた。
「ルーナさん熱波師スーパーレアだ!」
「交換してくれ!」
「断る!!」
「シャルネさん帳簿レア出たぞ!」
「いいなぁ……」
「ミリナさん接客レアと交換してくれ!」
「しない!」
その横では。
別の集団が盛り上がっていた。
「バルミナさん市場視察レア出た」
「マジか!?」
「交換頼む!」
「何出す?」
「ルーナレア」
「いや」
「それはそれで欲しい」
商人達が本気だった。
さらに。
ドワーフ達も混ざる。
「酒飲みながら帳簿見てるやつ持ってるぞ」
「うおぉぉぉ!!」
「それが欲しかったんだ!!」
後日、その話を聞いた桶さんは。
なぜそんな写真が人気なのか理解できなかった。
すると常連の商人が言う。
「分かってねぇな」
「バルミナさんがいるから」
「湯けむり亭が回ってるんだぞ」
「分かる」
別の商人も深く頷いた。
そして。
さらに別の場所。
「リリィちゃん商談レアだ!」
「交換してくれ!」
「断る!」
「金なら出す!」
「売らん!!」
商人達まで参戦していた。
その頃。
ある冒険者が叫ぶ。
「出たぁぁぁぁ!!」
全員が振り返る。
「全員集合ウルトラレアだ!!」
受付棟が騒然となった。
「見せろ!!」
「触るな!!」
「譲ってくれ!!」
大混乱である。
その様子を見ながら。
ミリナは呆然としていた。
「なんでこんなに売れてるんですか……」
実際。
一時的とはいえ。
売上は湯土産を超えた。
過去最高レベルである。
バルミナは大笑いしていた。
「商売って分からないもんだねぇ」
そして。
当の発案者である桶さんは満足していた。
やはりガチャガチャという文化は偉大だ。
こうして。
受付棟には。
写真を集めるコレクター達という。
新たな名物客が誕生するのだった。




