五十六話 ただいま、湯けむり亭
木漏れ日温泉郷の立て直しを終え。
ミリナ達は、約一ヶ月ぶりに湯けむり亭へ戻ってきた。
「わぁ……!」
最初に声を上げたのはミリナだった。
一ヶ月前とは、景色が大きく変わっている。
特に変化が大きいのは温泉棟だ。
壁もできている。
脱衣所も形になっている。
新しい休憩スペースも見える。
内風呂の配置も、だいたい分かるようになっていた。
「すごいです……!」
「もうここまで出来てるんですね!」
ミリナが感動している。
「受付棟は、もう普通に使ってるぞ」
ゴルドが言った。
確かに。
以前工事していた受付棟には、人の出入りがある。
従業員達も普通に利用しているようだった。
「思ったより進んでるな」
シャルネも感心する。
「一ヶ月あったからな」
ゴルドは当然のように答えた。
だが。
ミリナ達が驚いたのは、それだけではなかった。
「……あれ?」
ミリナが首を傾げる。
「お店、増えてません?」
温泉の周囲。
以前にはなかった建物が並んでいた。
小さなお土産屋。
屋台。
休憩所。
さらに、建築中の店舗まである。
「なんだこれ?」
シャルネも目を細める。
すると。
バルミナが笑った。
「リリィとリリィパパさ」
「え?」
「温泉客が増えるなら、周辺も整備した方がいいってねぇ」
「飲食店も作る予定らしいよ」
ミリナは目を丸くした。
以前。
常連達から聞いた不満。
食事をする場所。
お土産。
休憩できる場所。
その辺りが、少しずつ整備され始めている。
(やるなぁ……)
桶さんも素直に感心した。
その時だった。
少し離れた場所に。
見慣れない建物があることに気付く。
「……あれは?」
木造平屋。
妙に立派。
妙に存在感がある。
そして。
ルーナが露骨に視線を逸らした。
バルミナも咳払いする。
ゴルドだけがニヤニヤしている。
(嫌な予感しかしねぇ)
桶さんは思った。
近づいてみる。
入口には看板。
そこには。
『大サウナ棟』
と書かれていた。
(おい)
(誰の許可だ)
「許可なら取った」
ゴルドが即答した。
(誰にだ)
「俺に」
(駄目だこいつ)
桶さんは頭を抱えた。
ルーナとバルミナは、何故か誇らしげである。
その日の夜。
受付棟で歓迎会が開かれた。
「お帰りなさい!」
エナ達も集まっている。
テーブルの上には。
木漏れ日温泉郷から持ち帰った蜂蜜。
蜂蜜飴。
蜂蜜クッキー。
試作品の数々。
「美味しい!」
「これ売れますよ!」
反応も上々だった。
木漏れ日温泉郷での話。
温泉の復活。
ギンジのこと。
特産品のこと。
話題は尽きない。
気付けば夜も更けていた。
そんな中。
桶さんは受付棟の奥で、気になる部屋を見つけた。
(ん?)
(なんだこの部屋)
扉を見る。
そこには。
『サウナー計画室』
と書かれていた。
(……なんだこれ)
中を覗く。
壁一面の地図。
謎の名簿。
サウナ利用記録。
熱波師育成計画。
領地内サウナー普及計画。
意味不明な資料が大量に貼られている。
(おい)
(誰の部屋だ、これ)
すると。
バルミナ。
ルーナ。
ゴルド。
三人が振り返った。
ニヤリ。
「そこはねぇ」
「大事な部屋なんだよ」
「サウナーを増やすための本部です」
ルーナが真顔で答える。
「領地内サウナー計画の中枢だ」
ゴルドまで頷く。
(お前ら何やってんだ)
桶さんは呆れた。
どうやら。
木漏れ日温泉郷へ行っている間に。
この三人は。
本気で領地中にサウナーを増やそうとしていたらしい。
湯けむり亭改築計画。
その裏で進んでいた、もう一つの計画を。
桶さんは、まだ知らなかった。




