五十四話 温泉を救え
源泉の問題が判明した翌日。
木漏れ日温泉郷中へ話が広まった。
「原因が分かったらしいぞ!」
「本当か!?」
白樺の湯。
柏の湯。
飲食店。
お土産屋。
温泉郷の人々が次々と集まってくる。
「手伝います!」
「うちもやるぞ!」
皆の顔には希望があった。
そして。
源泉復旧作業が始まる。
一日目。
地中へ入り込んだ土砂を取り除く。
土魔法が使える者は土を動かし。
人力で運べる者は運ぶ。
地味な作業だった。
だが。
誰も文句を言わない。
二日目。
崩れた岩をどかす。
温泉の通り道を探す。
ギンジが先頭に立つ。
その姿を見て。
コトネは少し嬉しそうだった。
昔の木漏れ日温泉郷が戻ってきたようだった。
三日目。
最後の大きな岩へ取り掛かる。
「せーの!!」
「おおおおお!!」
皆で押す。
そして。
ごごごごごっ!!
岩が転がった。
次の瞬間。
源泉の流れが大きく変わる。
勢いよく湯気が立ち上った。
「出た!!」
「増えてるぞ!!」
歓声が上がる。
確かに増えていた。
以前より遥かに多い。
皆が喜ぶ中。
ギンジだけは源泉をじっと見つめていた。
そして。
「……八割だな」
ぽつりと呟く。
「え?」
コトネが振り返る。
「全盛期の八割くらいだ」
「かなり戻った」
「だが昔はもっと出ていた」
嬉しそうな顔。
それでいて悔しそうな顔。
複雑な表情だった。
(十分すごいと思うけどな)
桶さんは静かに呟く。
(ここまで戻っただけでも大したもんだ)
その日の夜。
作業は終了した。
手伝ってくれた人達は温泉郷へ戻る。
残ったのは。
ミリナ。
シャルネ。
コトネ。
ギンジ。
そして桶さん。
焚き火の前。
ギンジがぽつりと話し始めた。
「松の湯はな」
「親父に任された」
炎を見つめながら続ける。
「湯量が減り始めた時」
「親父は諦めて郷に帰った」
「もう終わりだってな」
ギンジは苦笑する。
「だから俺だけは諦めたくなかった」
「俺が守らなきゃならなかった」
桶さんは静かに聞いていた。
(お前さ)
「なんだ」
(ちゃんと守ったじゃねぇか)
ギンジが目を丸くする。
(誰より調べて)
(誰より動いて)
(最後まで諦めなかった)
(十分だろ)
ギンジはしばらく黙っていた。
やがて。
「……そうか」
小さく笑った。
その夜。
全員が寝静まった後。
桶さんは静かに源泉を見つめていた。
(あと一歩だな)
自然だけなら。
ここが限界。
だが。
木漏れ日温泉郷は。
まだもっと良くなる。
桶さんは静かに決意する。
そして。
誰にも気付かれないように。
源泉へ意識を向けた。
奇跡を起こすために。
木漏れ日温泉郷の未来のために。




