第五十三話 源泉への道
木漏れ日温泉郷の源泉地。
そこは森のさらに奥だった。
人の手があまり入っていない。
木々に囲まれた静かな場所。
小さな湯気があちこちから立ち上っている。
「ここだ」
ギンジが足を止めた。
ミリナは思わず感嘆の声を漏らす。
「わぁ……」
木漏れ日が差し込む源泉地帯。
まるで神聖な場所のようだった。
だが。
桶さんは別のことが気になっていた。
(ん?)
何か違和感がある。
近づく。
さらに近づく。
そして――
(あー……)
思わず声が漏れた。
「桶さん?」
ミリナが首を傾げる。
(ちょっと待て)
(今確認する)
源泉へ意識を向ける。
すると。
見えてきた。
湯の流れ。
地中の状態。
湧き出す力。
そして。
問題の正体。
(なんだこれ)
(両方じゃねぇか)
「両方?」
ミリナが小声で聞く。
(まず一つ)
(出口が詰まってる)
「詰まり?」
(あぁ)
(地中で岩や土が崩れてる)
(完全じゃないけど結構塞がれてるな)
ギンジが驚く。
「そんなことまで分かるのか」
(まぁな)
だが。
問題はそれだけではなかった。
(もう一つある)
皆が真剣な顔になる。
(地脈だ)
「地脈?」
コトネが聞き返す。
(簡単に言うと温泉の通り道だ)
(昔と流れが少し変わってる)
ギンジが目を見開いた。
心当たりがあった。
かなり昔。
山の一部が崩れたことがある。
大雨の後だった。
その頃から少しずつ湯量が減り始めた。
「そういうことだったのか……」
ギンジが呟く。
何十年も調べてきた。
それでも辿り着けなかった答えだった。
そして。
桶さんは少し安心していた。
(よかった)
「え?」
(最悪じゃなかった)
ミリナは意味が分からない。
だが。
桶さんは本気でほっとしていた。
(源泉そのものは元気だ)
(ちゃんと力が残ってる)
(まだ救える)
それは大きかった。
(よし)
(やること決まったぞ)
「何をするんですか?」
ミリナが聞く。
(まずは詰まりを取る)
(話はそれからだ)
ギンジも頷く。
「ならすぐ始めるぞ」
その顔は、初めて会った時よりずっと柔らかかった。
こうして――
木漏れ日温泉郷を救うための、本当の作業が始まるのだった。




