四十九話 松の湯の頑固親父
蜂蜜飴。
蜂蜜クッキー。
蜂蜜石鹸。
蜂蜜クリーム。
木漏れ日温泉郷の新しい特産品は無事完成した。
「まさか」
「蜂蜜でここまでできるとはなぁ……」
柏の湯の主人が感心する。
周囲も同じだった。
蜂蜜は昔からあった。
だが。
どこの家庭にもあるありふれたもの。
わざわざ特産品にしようなどとは誰も考えていなかったのだ。
流通についてはリリィ達が引き受けてくれた。
職人の手配。
容器の発注。
販売経路の確保。
その辺りは貴族家の方が圧倒的に強い。
「お父様が張り切ってます」
リリィが苦笑する。
「商売の匂いがするそうです」
「でしょうね……」
ミリナも苦笑した。
販売は木漏れ日温泉郷のお土産屋が中心。
蜂蜜を使った新商品も。
今後は各店舗が自由に考えていくことになった。
食事に関しても心配していない。
実際。
木漏れ日温泉郷の料理は美味しい。
人さえ戻れば。
十分勝負できる。
問題は――
温泉だった。
その日の夜。
ミリナ達は白樺の湯で話し合っていた。
「やっぱり」
「一番の問題は温泉ですよね」
ミリナが言う。
全員が頷いた。
すると。
(実はな)
桶さんが口を開く。
(解決できるかもしれない)
「え?」
ミリナが驚く。
(俺のスキルにある)
(源泉増量)
「源泉増量?」
(源泉の湯量を増やす)
(枯渇しない限り効果は続く)
その場が静かになる。
「そんな便利なものあるんですか!?」
ミリナが驚く。
コトネも目を丸くした。
だが。
桶さんは首を振る。
(最終手段だ)
(まず原因を探る)
(原因が分からないまま解決しても意味がない)
シャルネも頷いた。
「それはそうだな」
「また同じことになるかもしれない」
問題は。
源泉だった。
だが。
そこにも問題がある。
「源泉までの道は……」
コトネが困った顔をする。
「私も詳しく知らないんです」
「知らないんですか?」
「昔から管理していたのは松の湯です」
木漏れ日温泉郷の源泉。
その管理を代々任されていたのが。
松の湯だった。
つまり。
あの頑固エルフである。
(あー……)
桶さんは嫌な予感がした。
ミリナも同じだった。
特産品の話し合いにも来ていない。
前回会った時は。
『帰れ』
の一言だった。
どう考えても協力的ではない。
しかし。
避けては通れない。
「行くしかありませんね」
ミリナが言った。
コトネも頷く。
「はい」
「もう一度お願いしてみます」
翌日。
ミリナとコトネは。
改めて松の湯へ向かうのだった。




