第四十六話 桶、特産品を作る
その日の夜。
白樺の湯の客室。
ミリナ、シャルネ、桶さんの三人は集まっていた。
コトネとの話し合いも終わり。
ようやく今後について相談する時間である。
「で?」
最初に口を開いたのはシャルネだった。
「桶さん」
「何を考えてるんだ?」
(いっぱいある)
「嫌な予感しかしないな」
即答だった。
ミリナも苦笑する。
「とりあえず聞きましょう」
「何を作るんですか?」
すると。
桶さんは待ってましたと言わんばかりだった。
(まず蜂蜜飴)
「蜂蜜飴」
(蜂蜜クッキー)
(蜂蜜焼き菓子)
「おぉ……」
ミリナが感心する。
どれも聞いたことがない。
だが。
美味しそうな響きだった。
(あと蜂蜜石鹸)
(蜂蜜クリーム)
「待ってください」
ミリナの手が止まる。
「途中から食べ物じゃなくなりました」
(そうだぞ)
「そうだぞじゃありません」
思わずツッコんでしまう。
シャルネも呆れていた。
「なんで桶が美容に詳しいんだ」
(前世知識だ)
(蜂蜜は食べるだけじゃない)
(肌にも使う)
「へぇ……」
ミリナは素直に感心した。
温泉に詳しいのは知っている。
だが。
美容まで詳しいとは思わなかった。
「本当に何者なんですかね……」
(桶だ)
「それは知ってます」
シャルネが吹き出した。
「いや知らないだろ」
しばらく三人で笑う。
そして。
話は現実的な方向へ進んだ。
「問題は材料ですね」
ミリナが言う。
「蜂蜜はあります」
「でも小麦や砂糖が足りません」
「石鹸やクリームを作るなら他にも必要です」
シャルネも頷く。
「木漏れ日温泉郷だけじゃ厳しいな」
(リリィに頼るか)
「あっ」
ミリナが顔を上げた。
「それです!」
「リリィちゃん達なら集められるかもしれません!」
翌朝。
ミリナはコトネへ相談していた。
「蜂蜜を特産品に……ですか?」
「はい!」
ミリナは頷く。
「温泉だけじゃなくて」
「木漏れ日温泉郷に来たくなる理由を増やしたいんです」
「蜂蜜飴や蜂蜜のお菓子」
「蜂蜜石鹸や蜂蜜クリームも作れないか考えています」
コトネは驚いていた。
だが。
すぐに表情を明るくする。
「素敵だと思います」
「ぜひお願いします!」
ミリナはほっとした。
「ただ材料が足りないんです」
「私達の知り合いに協力をお願いしたいんですが……」
「もちろんです!」
コトネは即答した。
「協力してくださるなら本当にありがたいです」
こうして。
ミリナは手紙を書く。
相手はリリィ。
木漏れ日温泉郷の現状。
蜂蜜の話。
必要な材料。
そして。
「力を貸してください」
その一文を添えた。
返事は驚くほど早かった。
三日後。
「ミリナさん!」
元気な声が響く。
白樺の湯の前。
そこには。
リリィが立っていた。
「リリィちゃん!?」
ミリナが驚く。
さらに。
後ろには荷馬車。
しかも二台。
「お父様が」
「商売の匂いがするって」
「すぐ協力しなさいって言ってました!」
シャルネが納得した顔になる。
「あぁ……」
「そっちか」
ミリナも苦笑した。
「確かにそっちですね」
リリィは胸を張る。
「もちろん私も協力します!」
「木漏れ日温泉郷を元気にしましょう!」
荷馬車には。
小麦。
砂糖。
果物。
油。
瓶。
その他様々な材料が積まれていた。
これだけあれば。
試作品作りが始められる。
(よし)
桶さんは満足そうだった。
温泉だけじゃない。
木漏れ日温泉郷には。
まだまだ埋もれている魅力がある。
まずは一つずつ。
(蜂蜜飴からだな)
「順番にやりますからね?」
ミリナが釘を刺す。
(はい)
「絶対分かってないな」
シャルネが呟いた。
こうして。
木漏れ日温泉郷の特産品作りが本格的に始まったのだった。




