第四十五話 白樺の湯の食事と木漏れ日温泉郷の特産
柏の湯と松の湯の視察を終え。
ミリナ達は白樺の湯へ戻ってきた。
「お疲れでしょうし」
「お昼を用意しました」
コトネがそう言って案内してくれる。
食堂へ入ると。
美味しそうな香りが漂っていた。
「主人が作ったんです」
「料理長をやってまして」
どうやら。
白樺の湯の料理長はコトネの旦那様らしい。
昼過ぎの中途半端な時間。
そのため。
軽めに食べられる料理を用意してくれたようだった。
「わぁ……!」
ミリナの目が輝く。
並んでいたのは。
蜂蜜焼き鳥。
焼きたてのパン。
蜂蜜バター。
そして蜂蜜ミルク。
どれも蜂蜜をふんだんに使っていた。
「いただきます!」
早速一口。
「美味しいです!」
ミリナは思わず声を上げた。
焼き鳥は香ばしい。
蜂蜜の甘さも丁度いい。
パンもふわふわだ。
蜂蜜バターとの相性も抜群だった。
「こんなに蜂蜜を使った料理」
「初めて食べました!」
ミリナが感動する。
「蜂蜜って結構高級品ですし」
「なかなか手が出ないんですよね」
すると。
コトネが不思議そうな顔をした。
「そうなんですか?」
「この辺ではどこでも採れますよ?」
「森に囲まれてますから」
「どの家でも普通に使いますし」
「えぇっ!?」
ミリナが驚く。
その横では。
「……」
シャルネが無言だった。
ただし。
手だけは止まらない。
もぐもぐ。
もぐもぐ。
どうやら気に入ったらしい。
(なぁミリナ)
桶さんが念話する。
(これってお土産として売ってたりするのか?)
「コトネさん」
「蜂蜜ってお土産にもありますか?」
ミリナが聞く。
すると。
コトネは首を傾げた。
「え?」
「いや……」
「わざわざお土産にするようなものじゃないですし」
「売ってないですね」
(もったいねぇ……)
桶さんは思わず呟いた。
(どれくらい採れるんだ?)
さらに質問する。
「蜂蜜ってたくさん採れるんですか?」
「かなり採れますね」
「どこの家にもありますし」
「余らせることもあります」
その瞬間。
(それだ)
「え?」
ミリナが首を傾げる。
(ちょっと蜂蜜入れてみろ)
「またですか?」
(いいから)
ミリナは小皿の蜂蜜を少しだけ桶さんへ入れた。
しばらく沈黙。
「……何してるんだ?」
シャルネが聞く。
「桶さんが調べるそうです」
「もうなんでもありだな……」
シャルネは呆れたように呟いた。
さらに数秒。
(やっぱりだ)
『何かわかったんですか?』
(かなり質が良い)
(香りも強い)
(甘みも濃い)
(雑味も少ない)
『そんなことまで分かるんですか!?』
ミリナは思わず驚く。
(なんとなくだ)
『絶対なんとなくじゃないですよね?』
「絶対なんとなくじゃないだろ」
シャルネが即座にツッコんだ。
桶さんは聞こえないふりをした。
(これ十分特産品になるぞ)
『特産品ですか?』
(料理にも使える)
(お菓子にも使える)
(飲み物にも使える)
ミリナは少し考える。
「そういえば……」
「私だったらお土産で欲しいです」
「瓶に入れて売ってても買いますし」
「お菓子にしても美味しそうです」
コトネは目を丸くした。
「言われてみれば……」
「考えたことありませんでした」
そこで。
(美容にも使える)
『美容!?』
ミリナが思わず声を上げた。
「どうしました?」
コトネが驚く。
「あ、いえ!」
「蜂蜜って美容にも使えるらしいですよ!」
「美容ですか!?」
今度はコトネが驚いた。
『桶さん』
『なんでそんなこと知ってるんですか?』
(前世で色々見てきたからな)
『いや』
『桶なのに美容に詳しいんですか!?』
(そこ引っかかるのか!?)
「また変な顔してるぞ」
シャルネが呆れたように言った。
だが。
桶さんは真面目だった。
(温泉と蜂蜜)
(この組み合わせは強いぞ)
(かなり強い)
ミリナは真剣な顔になる。
そして。
コトネへ向き直った。
「コトネさん」
「もしかしたらですけど」
「木漏れ日温泉郷の武器って」
「温泉だけじゃないのかもしれません」
コトネは少し考え込み。
そして困ったように笑った。
「蜂蜜なんて」
「当たり前すぎて考えたこともありませんでした」
その様子を見て。
桶さんは確信する。
(なるほどな)
(地元じゃ当たり前すぎて気付いてないのか)
温泉。
そして蜂蜜。
木漏れ日温泉郷には。
まだ誰も気付いていない武器が眠っているのかもしれない。
桶さんは静かにそう思うのだった。




