第四十三話 コトネの話
温泉から上がった後。
ミリナ達はコトネに案内されて談話室へ移動した。
木で作られた落ち着いた部屋。
窓の外には木漏れ日温泉郷の街並みが見える。
コトネがお茶を用意してくれた。
「改めて」
「来てくださってありがとうございます」
コトネは深く頭を下げる。
ミリナは慌てて手を振った。
「い、いえいえ!」
「まだ何もしてませんから!」
「それでもです」
コトネは少しだけ笑う。
「相談を聞いてくれる人すらいませんでしたから」
その言葉に。
部屋が少し静かになった。
ミリナは気になっていたことを聞く。
「温泉の湯量って」
「いつ頃から減り始めたんですか?」
コトネは少し考える。
「私が子供の頃にはもう始まっていました」
「十年くらい前からですね」
「最初はほんの少しだったんです」
「だから皆あまり気にしていませんでした」
しかし。
年々減っていった。
少しずつ。
本当に少しずつ。
「気付いた頃には」
「水を足さないと営業できなくなっていました」
コトネは寂しそうに笑う。
シャルネが腕を組んだ。
「原因は?」
「分かっていません」
「先代達も色々調べたそうです」
「でも結局分からなくて……」
そこで。
桶さんがふと思う。
(ふむ……)
(急激じゃないのか)
(少しずつ減ってる)
何となくだが。
地脈の変化という言葉が頭をよぎる。
もちろん。
まだ何も分からない。
だが。
自然に湧く温泉が少しずつ弱るなら。
あり得る話だった。
ミリナはさらに質問した。
「温泉街は昔どんな感じだったんですか?」
コトネの表情が少し明るくなる。
「賑やかでしたよ」
「今よりずっと」
「お客様も多かったですし」
「屋台ももっとたくさんありました」
「お祭りもありました」
懐かしそうに話す。
「足湯もあったんです」
「えっ」
ミリナが反応する。
「足湯あったんですか?」
「はい」
「温泉街の真ん中に」
「皆が集まる場所でした」
しかし。
今はない。
「湯量が足りなくなって閉鎖しました」
「維持できなくて……」
ミリナは窓の外を見る。
今は空き地になっているらしい。
少し寂しい。
「他の宿はどうなんですか?」
シャルネが聞く。
「柏の湯は協力的です」
「皆で何とかしようとしてくれています」
「問題は松の湯ですね……」
コトネが苦笑した。
「そんなにですか?」
ミリナが首を傾げる。
「かなりです」
「昔からのやり方を大切にする方なので」
「日帰り温泉の話も反対されました」
「足湯も反対」
「イベントも反対」
「新しいこと全般反対です」
「面倒くさそうだな」
シャルネが呟く。
コトネは否定しなかった。
桶さんも思う。
(これは面倒そうだな)
ただ。
話を聞く限り。
悪人ではなさそうだった。
むしろ。
温泉街を守りたい気持ちが強すぎるのかもしれない。
ミリナは静かに頷く。
「分かりました」
「まずは見てみます」
「見てから考えましょう」
コトネは少し安心したようだった。
そして。
桶さんも同意する。
(そうだな)
(まずは現場だ)
(温泉も人も)
(見てから判断しよう)
こうして。
翌日から。
木漏れ日温泉郷の視察が始まることになった。




