第三十七話 温泉棟会議
受付棟の営業が始まって数日。
以前よりもスムーズになった受付周りに。
常連達からも好評の声が増えていた。
だが。
湯けむり亭の改築はまだ終わっていない。
むしろ。
ここからが本番だ。
◇
閉店後。
いつものメンバーが集まっていた。
ミリナ。
バルミナ。
ルーナ。
シャルネ。
エナ。
ミア。
ドロシィ。
ゴルド。
そして。
机の上には。
当然のように桶さんが置かれている。
「じゃあ始めますか」
ミリナが机に広げられた図面を見る。
「次はいよいよ温泉棟です!」
◇
「まずは内風呂だな」
ゴルドが口を開く。
「今のままじゃ流石に足りねぇ」
皆頷く。
現在の男湯は。
大きめの浴槽が一つ。
そして。
かなり熱めの小さい内湯。
二種類だけ。
女湯は。
それに加えて薬湯があるくらいだった。
「これをどこまで増やすかですね」
ミリナが言う。
◇
(まず種類増やしたいな)
桶さんが念話を送る。
「種類ですか?」
(今ってシンプルすぎるんだよ)
(せっかく広げるなら温度とか効能で分けたい)
「なるほど」
ミリナが頷く。
「例えばどんな感じです?」
(ぬるめの風呂)
(熱め)
(薬湯)
(深め)
(寝湯とかも面白い)
「寝湯?」
ミアが首を傾げる。
(浅いお湯に寝転がる感じ)
「なにそれ気持ちよさそう!」
ドロシィが食いついた。
「女性人気出そうですね」
エナも頷く。
「長風呂しちゃいそうです」
◇
「サウナも当然入れるんだろ?」
ゴルドがニヤリと笑う。
(もちろん)
即答だった。
すると。
ルーナとバルミナが嬉しそうな顔をする。
完全にハマっている。
「水風呂もしっかり作りましょう」
ルーナが真剣だ。
「今度は広めで」
バルミナも頷く。
「大人が本気でハマってる……」
ミリナが苦笑した。
◇
「次は洗い場だな」
ゴルドが図面を指差す。
「今の倍以上は増やせる」
「ありがたいですねぇ……」
今は混雑時。
洗い場待ちも発生している。
かなり問題だった。
◇
「あと蛇口ですね」
ミリナが言う。
「今はお湯と水が別々ですけど」
現在の洗い場は。
お湯用。
水用。
二つの蛇口がある。
温度調整は自分でやる方式だ。
(シャワーとかも一瞬考えたけど……)
(俺は桶でザバーって流すの好きだからなぁ)
桶さんは心の中で呟く。
◇
(でもお湯と水を混ぜて)
(ちょうどいい温度で一箇所から出るようにしたい)
「それ便利ですね!」
ミリナが驚く。
「できるか?」
ゴルドが考え込む。
「構造次第だな」
「ただ魔道具使えばいけそうではある」
「洗い場増えるなら便利そうですね」
エナも頷いた。
◇
「最後は脱衣所ですね」
ミリナが図面を見る。
ここがかなり難しい。
内湯。
洗い場。
どちらも広げる。
となると。
脱衣所のスペースが圧迫される。
「単純に広げるにも限界あるんだよな」
ゴルドが言う。
「壁壊してもスペースには限度がある」
◇
「だったら」
ルーナが手を上げる。
「二階使えません?」
皆がそちらを見る。
「二階?」
「はい!」
「受付棟できたから前より部屋空きますよね?」
確かに。
以前よりはかなり余裕がある。
◇
「悪くねぇな」
ゴルドが頷く。
「脱衣所を上下で分けるか?」
「もしくは休憩スペースも作れる」
「湯上がりにゆっくりできる場所欲しいですよね」
エナも言う。
◇
(それ良いな)
(風呂上がりに休める場所は大事)
(畳とか置きたい)
「畳?」
ミリナが首を傾げる。
(まぁゴロゴロできる床みたいなもん)
「絶対気持ちいいやつですね!」
ルーナが即反応した。
「お昼寝したい……」
ミアがぼそっと呟く。
◇
会議は夜遅くまで続いた。
新しい内湯。
新しい洗い場。
新しい脱衣所。
そして。
サウナ。
少しずつ。
新しい湯けむり亭の形が出来上がっていく。
◇
だが。
同時に。
一つの問題も見えていた。
「……やっぱり」
「長期休業は避けられませんね」
ミリナの言葉に。
皆静かに頷いた。
湯けむり亭最大の改築。
それは。
長い休みと引き換えになる。
だが。
より良い温泉のため。
その決断は必要だった。




