第三十六話 受付棟、完成間近
「おぉ……」
思わず。
ミリナの口から声が漏れた。
受付棟。
その外観が。
ついに形になり始めていた。
以前の湯けむり亭とは違う。
木を基調にしながらも。
かなり立派だ。
入り口も広い。
屋根も高い。
何より。
「でかい……」
ミアが呟く。
「これは迷子出ますねぇ」
エナも苦笑い。
「うわー!」
「すごーい!」
ドロシィだけは大興奮だった。
◇
「まだ完成じゃねぇぞ」
ゴルドが腕を組みながら言う。
「内装もある」
「棚も置く」
「導線確認も必要だ」
だが。
それでも。
皆テンションは上がっていた。
◇
一方。
男湯。
「なんか外騒がしいな」
常連の一人が言う。
桶さんは定位置から外を眺める。
(まぁそりゃ騒ぐよな)
かなり大きい。
しかも。
今までの湯けむり亭らしさもちゃんと残っている。
木の温もり。
温泉宿感。
それを壊していない。
ゴルド達大工チームの腕は本物だった。
◇
数日後。
ついに。
受付棟の引っ越しが始まった。
「これ受付!」
「こっちは帳簿!」
「それお土産!」
館内は大忙しだ。
特に大変なのは。
やはり湯土産関係。
「これ在庫表違います!」
「えっどれです!?」
「そっち去年のです!」
ルーナが半泣きになっていた。
「お前整理能力終わってるな」
シャルネが冷静に言う。
「うぅ……」
◇
そんな中。
ミリナは新しい受付に立っていた。
「……すごい」
広い。
今までとは全然違う。
受付だけでなく。
待機スペースもある。
椅子も置ける。
混雑しても以前ほど大混乱にはならなそうだった。
「店長ー!」
後輩の一人が呼ぶ。
「これどこ置けばいいですかー?」
「えっ、あ、はい!」
ミリナは慌てて向かう。
だが。
途中で少しだけ立ち止まった。
「店長……かぁ」
少し照れくさい。
だが。
悪い気はしなかった。
◇
そして。
お土産屋。
「よし……!」
ルーナが満足そうに頷く。
以前とは比べ物にならない広さだ。
棚には。
癒しの湯土産。
湯けむり亭タオル。
垢すり。
入浴剤試作品。
木彫り。
温泉饅頭候補。
様々な商品が並び始めている。
その中心で。
一番張り切っているのは。
「この棚は季節物にしましょう!」
「こっちは人気商品です!」
リリィだった。
小さな体で一生懸命指示を出している。
もちろん。
実際の仕入れや商談はリリィの父や商人達が行っている。
だが。
商品選びや配置。
どんなお店にしたいか。
そういった部分にはリリィの意見がかなり入っていた。
「リリィちゃん楽しそうですねぇ」
ミリナが笑う。
「はい!」
「だって夢のお店ですから!」
リリィは胸を張った。
その姿に。
ルーナも自然と笑顔になる。
◇
「これ絶対人気出ますよ!」
ルーナが小さな木彫りを持ち上げる。
黄色い桶型のミニ桶だ。
「本人にバレたらどうなるかな」
シャルネがニヤリ。
「内緒です!」
リリィも混ざって笑っていた。
もちろん。
桶さん本人はまだ知らない。
◇
さらに。
湯上がり休憩スペースも完成。
「牛乳置きたいですね」
「果実入り牛乳も!」
女子組が盛り上がる。
(わかってるなぁ……)
桶さんは感心していた。
風呂上がりの一杯。
あれは大事だ。
◇
そして。
数日後。
ついに。
受付棟の営業が始まった。
「おぉぉぉ!?」
「なんだこれ!」
「広ぇ!」
常連達の歓声が響く。
「ここ本当に湯けむり亭か!?」
「すげぇなこれ!」
皆。
興奮していた。
特に。
お土産屋。
「増えてる!」
「うわこの桶かわいい!」
「なんだこれ欲しい!」
早速。
ミニ桶が売れていた。
もちろん。
桶さん本人は知らない。
◇
「いらっしゃいませ!」
そこには。
嬉しそうに接客するリリィの姿もあった。
◇
「導線も楽になったなぁ」
「前より並びやすい」
「待つ場所あるのありがてぇ」
常連達の反応もかなり良い。
ミリナはその様子を見ながら。
ほっと息を吐いた。
「よかったぁ……」
すると。
隣に来たバルミナが笑う。
「まだ始まったばかりだよ」
「次は温泉棟だ」
その言葉に。
ミリナは頷く。
だが。
そこから先は。
本格的な改築。
つまり。
長期休業が必要になる。
湯けむり亭最大の工事。
その準備が。
いよいよ始まろうとしていた。




