↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生したら桶でした  作者: 玉葱将軍


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

39/94

第三十五話 受付棟の着工とミリナの思い出


 ついに。


 湯けむり亭の大改築計画が動き始めた。


「よーし!」


「柱運べー!」


「そっちもっと右だ!」


 朝から。


 ゴルド率いる大工チームの声が響いている。


 まず最初に着工するのは。


 受付棟だ。


 露天風呂とは違い。


 今回は完全に一から建物を建てる。


 当然。


 時間もかかる。


「早くても二ヶ月ってところだな」


 ゴルドが木材を確認しながら言う。


「二ヶ月かぁ……」


 ミリナが呟く。


 だが。


 それでも十分早い。


 土魔法や身体能力の高い種族達のおかげで。


 工事速度はかなりのものだった。


 特に。


 土属性の冒険者達が基礎作業を一気に終わらせたのが大きい。


 もう骨組み作業へ入っている。


◇


 そして。


 着工と同時に。


 湯けむり亭側も大忙しだった。


 当然。


 受付棟が完成すれば。


 色々引っ越さなければならない。


「うわぁ……」


 ミリナが頭を抱えていた。


 場所は二階。


 元々。


 ミリナの住居として使われていた場所だ。


 だが。


 今では。


 帳簿。


 資料。


 契約書。


 温泉関連の書類。


 その他色々。


 完全に事務所化していた。


「なんでこんな増えてるんですか!?」


「お前が頑張った証拠だよ」


 バルミナが笑う。


「笑い事じゃないですよー!」


 机の上も。


 本棚も。


 紙だらけだった。


◇


「こっちはこっちで多いですねぇ……」


 ルーナも苦笑していた。


 湯土産コーナーだ。


 最近は商品数も増え始め。


 在庫管理もかなり複雑になっている。


「これ新商品の試作品ですよね?」


「それは入浴剤候補」


「こっちは木彫りサンプル」


 シャルネが淡々と仕分けしていく。


「ルーナ」


「お前整理苦手だろ」


「うっ」


 図星だった。


 気づけば。


 机の上に試作品が積み上がっている。


◇


 一方。


 受付周り。


「……ここ後回しで良くない?」


 エナが呟く。


 皆頷いた。


 一番荷物が少ない。


 なので。


 とりあえず最後でいいという結論になった。


◇


 そんな中。


 湯けむり亭自体は営業を続けなければならない。


 そこで。


「エナ」


「ミア」


「ドロシィ」


「しばらくお願いできますか?」


 ミリナが頭を下げる。


 三人は頷いた。


「任せてください!」


 エナがしっかり答える。


「後輩達もだいぶ慣れてきましたしね!」


 ミアも笑う。


「お掃除も接客も任せてください!」


 ドロシィは元気いっぱいだ。


 こうして。


 各メンバーは。


 それぞれの仕事へ散っていった。


◇


「これどこに置きます?」


「それは後で確認するから一旦こっち!」


 二階では。


 ミリナとバルミナが慌ただしく片付けを進めていた。


 棚の中。


 机の引き出し。


 古い箱。


 色々整理していくたび。


 昔の物がどんどん出てくる。


「うわ懐かしい……!」


 ミリナが一枚の写真を手に取った。


「ん?」


 バルミナも覗き込む。


 そこには。


 小さなミリナ。


 そして。


 優しそうな父親と母親。


 三人並んで笑っていた。


「若いねぇ」


「やめてくださいよぉ!」


 ミリナが少し照れる。


 さらに。


 別の写真も出てくる。


 昔の湯けむり亭だ。


 今より少し小さい。


 だが。


 写真の中には。


 たくさんのお客が映っていた。


「この頃は結構賑わってたんですよ」


 ミリナが懐かしそうに呟く。


「お父さんもお母さんも人気者で」


「毎日忙しかったです」


◇


 だが。


 幸せな時間は長く続かなかった。


 ミリナがまだ幼い頃。


 両親は事故で亡くなった。


 そこからは。


 祖母とミリナ。


 二人で湯けむり亭を守ってきた。


「ばあちゃん無理してたんだよなぁ……」


 ミリナがぽつりと呟く。


 元々。


 そこまで大きな宿ではない。


 だが。


 温泉を維持するだけでも大変だ。


 掃除。


 洗濯。


 料理。


 接客。


 やることはいくらでもある。


 祖母は。


 無理を重ねた。


 そして。


 体を壊した。


「その辺からだったねぇ」


「客が減り始めたのは」


 バルミナも覚えているらしい。


 ミリナは頷いた。


「私一人で頑張ろうとしたんですけどね」


「やっぱり限界がありました」


 掃除は間に合わない。


 接客も雑になる。


 修繕も追いつかない。


 すると。


 少しずつ。


 お客様は離れていった。


◇


『もうやめてもいいんだよ』


 祖母は何度もそう言った。


『ミリナ一人で抱えるには重すぎる』


 それでも。


 ミリナは首を振った。


『やだ』


『ここはお父さんとお母さんのお店だもん』


『絶対なくしたくない』


 毎日。


 必死だった。


 そんな中でも。


 通い続けてくれる常連達がいた。


『今日も来たぞー!』


『ミリナちゃん頑張ってるねぇ』


 その言葉に。


 どれだけ救われたかわからない。


◇


 そして。


 ある日。


 突然。


 男湯に。


 黄色い桶が置いてあった。


 最初は。


 誰も意味がわからなかった。


 ただ。


 使った客達の反応がおかしい。


『疲れが取れる』


『体が軽い』


『なんかすごい』


 そこから。


 全てが変わり始めた。


◇


 今では。


 湯けむり亭は。


 この領地でも。


 トップクラスの人気温泉宿になっている。


 昔では考えられないほどだ。


 ミリナは写真を見つめながら。


 少しだけ笑った。


「……見てますかね」


「お父さん」


「お母さん」


 その声は。


 どこか誇らしそうだった。


 バルミナはそんなミリナを見て。


 静かに笑う。


「見てるさ」


「こんだけ立派になったんだ」


「自慢の娘だろうよ」


 ミリナは少しだけ照れくさそうに笑った。


 新しい湯けむり亭へ向けて。


 工事は今日も進んでいく。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。