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転生したら桶でした  作者: 玉葱将軍


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第三十五話 受付棟の着工とミリナの思い出


 ついに。


 湯けむり亭の大改築計画が動き始めた。


「よーし!」


「柱運べー!」


「そっちもっと右だ!」


 朝から。


 ゴルド率いる大工チームの声が響いている。


 まず最初に着工するのは。


 受付棟だ。


 露天風呂とは違い。


 今回は完全に一から建物を建てる。


 当然。


 時間もかかる。


「早くても二ヶ月ってところだな」


 ゴルドが木材を確認しながら言う。


「二ヶ月かぁ……」


 ミリナが呟く。


 だが。


 それでも十分早い。


 土魔法や身体能力の高い種族達のおかげで。


 工事速度はかなりのものだった。


 特に。


 土属性の冒険者達が基礎作業を一気に終わらせたのが大きい。


 もう骨組み作業へ入っている。



 そして。


 着工と同時に。


 湯けむり亭側も大忙しだった。


 当然。


 受付棟が完成すれば。


 色々引っ越さなければならない。


「うわぁ……」


 ミリナが頭を抱えていた。


 場所は二階。


 元々。


 ミリナの住居として使われていた場所だ。


 だが。


 今では。


 帳簿。


 資料。


 契約書。


 温泉関連の書類。


 その他色々。


 完全に事務所化していた。


「なんでこんな増えてるんですか!?」


「お前が頑張った証拠だよ」


 バルミナが笑う。


「笑い事じゃないですよー!」


 机の上も。


 本棚も。


 紙だらけだった。



「こっちはこっちで多いですねぇ……」


 ルーナも苦笑していた。


 湯土産コーナーだ。


 最近は商品数も増え始め。


 在庫管理もかなり複雑になっている。


「これ新商品の試作品ですよね?」


「それは入浴剤候補」


「こっちは木彫りサンプル」


 シャルネが淡々と仕分けしていく。


「ルーナ」


「お前整理苦手だろ」


「うっ」


 図星だった。


 気づけば。


 机の上に試作品が積み上がっている。



 一方。


 受付周り。


「……ここ後回しで良くない?」


 エナが呟く。


 皆頷いた。


 一番荷物が少ない。


 なので。


 とりあえず最後でいいという結論になった。



 そんな中。


 湯けむり亭自体は営業を続けなければならない。


 そこで。


「エナ」


「ミア」


「ドロシィ」


「しばらくお願いできますか?」


 ミリナが頭を下げる。


 三人は頷いた。


「任せてください!」


 エナがしっかり答える。


「後輩達もだいぶ慣れてきましたしね!」


 ミアも笑う。


「お掃除も接客も任せてください!」


 ドロシィは元気いっぱいだ。


 こうして。


 各メンバーは。


 それぞれの仕事へ散っていった。



「これどこに置きます?」


「それは後で確認するから一旦こっち!」


 二階では。


 ミリナとバルミナが慌ただしく片付けを進めていた。


 棚の中。


 机の引き出し。


 古い箱。


 色々整理していくたび。


 昔の物がどんどん出てくる。


「うわ懐かしい……!」


 ミリナが一枚の写真を手に取った。


「ん?」


 バルミナも覗き込む。


 そこには。


 小さなミリナ。


 そして。


 優しそうな父親と母親。


 三人並んで笑っていた。


「若いねぇ」


「やめてくださいよぉ!」


 ミリナが少し照れる。


 さらに。


 別の写真も出てくる。


 昔の湯けむり亭だ。


 今より少し小さい。


 だが。


 写真の中には。


 たくさんのお客が映っていた。


「この頃は結構賑わってたんですよ」


 ミリナが懐かしそうに呟く。


「お父さんもお母さんも人気者で」


「毎日忙しかったです」



 だが。


 幸せな時間は長く続かなかった。


 ミリナがまだ幼い頃。


 両親は事故で亡くなった。


 そこからは。


 祖母とミリナ。


 二人で湯けむり亭を守ってきた。


「ばあちゃん無理してたんだよなぁ……」


 ミリナがぽつりと呟く。


 元々。


 そこまで大きな宿ではない。


 だが。


 温泉を維持するだけでも大変だ。


 掃除。


 洗濯。


 料理。


 接客。


 やることはいくらでもある。


 祖母は。


 無理を重ねた。


 そして。


 体を壊した。


「その辺からだったねぇ」


「客が減り始めたのは」


 バルミナも覚えているらしい。


 ミリナは頷いた。


「私一人で頑張ろうとしたんですけどね」


「やっぱり限界がありました」


 掃除は間に合わない。


 接客も雑になる。


 修繕も追いつかない。


 すると。


 少しずつ。


 お客様は離れていった。



『もうやめてもいいんだよ』


 祖母は何度もそう言った。


『ミリナ一人で抱えるには重すぎる』


 それでも。


 ミリナは首を振った。


『やだ』


『ここはお父さんとお母さんのお店だもん』


『絶対なくしたくない』


 毎日。


 必死だった。


 そんな中でも。


 通い続けてくれる常連達がいた。


『今日も来たぞー!』


『ミリナちゃん頑張ってるねぇ』


 その言葉に。


 どれだけ救われたかわからない。



 そして。


 ある日。


 突然。


 男湯に。


 黄色い桶が置いてあった。


 最初は。


 誰も意味がわからなかった。


 ただ。


 使った客達の反応がおかしい。


『疲れが取れる』


『体が軽い』


『なんかすごい』


 そこから。


 全てが変わり始めた。



 今では。


 湯けむり亭は。


 この領地でも。


 トップクラスの人気温泉宿になっている。


 昔では考えられないほどだ。


 ミリナは写真を見つめながら。


 少しだけ笑った。


「……見てますかね」


「お父さん」


「お母さん」


 その声は。


 どこか誇らしそうだった。


 バルミナはそんなミリナを見て。


 静かに笑う。


「見てるさ」


「こんだけ立派になったんだ」


「自慢の娘だろうよ」


 ミリナは少しだけ照れくさそうに笑った。


 新しい湯けむり亭へ向けて。


 工事は今日も進んでいく。

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