第三十四話 湯けむり亭、大改築へ
桶さんが湯けむり亭へ現れてから。
もうすぐ一年になろうとしていた。
相変わらず。
湯けむり亭は大盛況だった。
「次の方どうぞー!」
「露天空きましたよー!」
「湯土産のお渡しはこちらです!」
店内は今日も賑やかだ。
だが。
以前よりはかなり余裕ができていた。
新しい従業員達がしっかり働いてくれているおかげである。
特に掃除担当の三人が入ったことで。
露天風呂の清掃負担はかなり減った。
(いやぁほんと助かるなぁ)
男湯の定位置から。
桶さんもしみじみ思う。
◇
転売問題も。
今ではかなり落ち着いていた。
商業ギルドと冒険者ギルドが本格的に動いた結果。
ほぼ完全に消えたと言っていい。
「最近は怪しい湯土産見なくなりましたね」
ルーナが嬉しそうに言う。
「みんな買わなくなったからねぇ」
バルミナも頷いた。
「リスクが大きすぎるって広まったんだろうさ」
シャルネが肩をすくめる。
◇
そんなある日。
閉店後。
いつもの食卓に。
ゴルドも呼ばれていた。
「さて」
「そろそろ本格的に話そうか」
バルミナが机を軽く叩く。
議題はもちろん。
改築と増築だ。
◇
ゴルドは広げた図面を机に置いた。
「まず脱衣所周りからだな」
「俺の案としては」
「受付棟を別に建てる」
「受付棟?」
ミリナが首を傾げる。
◇
ゴルドは図面を指差した。
「今の受付」
「事務所」
「湯土産販売所」
「全部別棟に移す」
「そこから廊下で温泉棟に繋ぐ形だ」
皆真剣に図面を見る。
◇
「そうすれば」
「今受付とかで使ってる場所を全部」
「脱衣所と内風呂に回せる」
「おぉ……!」
ミリナが声を漏らす。
◇
ゴルドは続けた。
「内風呂は男女共に二つずつ増設可能」
「洗い場も今の倍近く作れる」
「脱衣所もかなり広くなるぞ」
(おぉー)
(かなりいいなそれ)
桶さんも感心する。
◇
「俺も異存なしだ」
「かなりいい案だと思う」
ゴルドは頷いた。
「だろ?」
◇
さらに。
この案には別の利点もあった。
「先に別棟だけ建てるなら」
「ギリギリまで営業できる」
「確かに!」
ミリナが頷く。
「今の建物を壊さなくて済みますもんね!」
「あぁ」
◇
「それに」
「受付から廊下を通って脱衣所に行く動線確認もできる」
「湯土産販売所を広げた時の混雑状況も確認できる」
「試運転ができるってわけだ」
皆納得した様子だ。
◇
バルミナも満足そうに頷く。
「いいねぇ」
「かなり現実的だ」
◇
だが。
問題もある。
「ただ」
ゴルドが真面目な顔になる。
「脱衣所と内風呂の改修は別だ」
「流石にあそこ工事する時は営業無理だな」
皆の表情が少し曇る。
◇
「危険もあるし」
「壁も床もかなり触る」
「客入れながらは無理だ」
桶さんも納得だった。
(まぁそこは仕方ないか)
◇
露天風呂だけ営業する案も出た。
だが。
「脱衣所が確保できないんだよねぇ」
バルミナがため息を吐く。
「簡易脱衣所ってのも考えたが……」
「流石に厳しいな」
ゴルドも腕を組む。
◇
「露天だけ営業ってのも魅力はあるんですけどね……」
ミリナは少し残念そうだった。
だが。
ここまで大きくなった湯けむり亭だ。
中途半端にはできない。
◇
「まぁ」
「やるならちゃんとやるさ」
バルミナが笑う。
「一年頑張ったご褒美と思って」
「少し休むのも悪くないだろ?」
◇
その言葉に。
皆少しだけ安心したように笑った。
◇
そして。
湯けむり亭は。
さらに大きく生まれ変わろうとしていた。




