第三十二話 新しい仲間を探そう
湯けむり亭は嬉しい悲鳴を上げていた。
だが。
限界も近い。
「……というわけで」
朝。
開店前。
食卓でバルミナが手を叩いた。
「まずは従業員を増やすよ」
「はい!」
ミリナが元気よく返事をする。
エナ達も真剣な顔だ。
「今の人数じゃ完全に足りてないからねぇ」
「特に掃除!」
シャルネが即答した。
「露天広すぎる」
「うぅ……」
ミリナは苦笑い。
すると。
桶さんが念話で話しかける。
(まぁでも嬉しい悲鳴だよな)
(最初ガラガラだったもんなぁ)
「確かにそうですね」
ミリナも少し懐かしそうに笑った。
バルミナは紙を広げる。
「今回募集するのは六人」
「湯土産担当に二人」
「掃除や雑務担当を三人」
「それと私の補佐が一人」
その瞬間。
皆の顔が少し変わった。
「……一番大変そう」
ルーナがぽつり。
「聞こえてるよ」
バルミナがニヤリと笑う。
「数字に強い子が欲しいんだ」
「最近帳簿量も増えすぎててねぇ」
「確かに……」
ミリナも頷いた。
売上が増えたことで。
管理する数字も一気に増えている。
「今回は街から通える子達を中心に探すよ」
「住み込みだと準備も必要だからねぇ」
皆納得する。
そして。
募集を始めてから数日後。
湯けむり亭では簡単な面接が行われていた。
「緊張しなくて大丈夫ですよ」
ミリナが優しく声をかける。
その隣では。
バルミナが鋭い目で応募者を見ていた。
「数字は得意かい?」
「朝は強いかい?」
「接客は好き?」
質問はかなり現実的だった。
そして。
数日かけて面接を終え。
夜。
湯けむり亭の食卓で最終確認が行われる。
「じゃあ決めるよ」
バルミナが紙を広げた。
「まず湯土産担当」
「ミーナ」
「カナエ」
二人とも街娘で。
接客経験あり。
愛想も良い。
「掃除・雑務担当」
「リコ」
「ナナ」
「フィア」
体力重視で選ばれた三人だ。
「最後に」
「私の補佐」
皆少し緊張する。
「セリカ」
その名前に。
ミリナが頷いた。
「すごくしっかりしてましたね」
「あぁ」
バルミナも珍しく高評価だった。
「数字に強い」
「気が回る」
「あと肝が据わってる」
「それ大事ですね……」
ミリナが苦笑いする。
すると。
桶さんがぼそり。
(バルミナさんの補佐とか絶対大変だろ)
「絶対大変ですね」
ミリナも即答した。
「聞こえてるよ?」
バルミナが笑う。
そんなやり取りの後。
ミリナが少し真面目な顔になる。
「あと皆さん」
「新しい子達にはまだ桶さんのことは秘密でお願いします」
皆頷く。
シャルネも腕を組んだ。
「まぁ普通信じないしな」
(変に広まっても面倒だしなぁ)
桶さんも同意する。
「事前に話した通り」
「もし桶さんが何か気になることがあったら」
「桶さんから私達へ伝えてもらいます」
「それを私達から後輩のみんなへ伝える形にしましょう」
「その方が自然だねぇ」
バルミナも納得した。
「いきなり桶が喋り出したら腰抜かすよ」
「シャルネさん最初すごかったですもんね」
ルーナが笑う。
「……忘れろ」
シャルネが顔をしかめた。
エナ達は楽しそうに笑っている。
「後輩だー!」
「先輩って呼ばれるかな!」
「えへへ!」
シャルネが呆れる。
「調子乗るなよ」
「乗らないよー!」
たぶん乗る。
全員そう思った。
こうして。
湯けむり亭に新たな従業員達が加わることになった。
さらに賑やかになっていく未来を想像しながら。
ミリナは少し嬉しそうに笑っていた。




