第三十一話 桶、売上にビビる
巨大露天風呂が完成してから二ヶ月。
湯けむり亭は以前とは比べものにならないほど賑わっていた。
「次のお客様ご案内しまーす!」
「女湯空きましたー!」
「湯土産残り三本です!」
朝から晩まで休む暇もない。
特に露天風呂は大人気だった。
「はぁぁぁ……」
「やっぱ広い露天最高だな……」
「ここ来ると疲れ全部飛ぶわ」
常連も。
新規客も。
皆笑顔で湯に浸かっている。
だが。
当然問題も増えていた。
「エナちゃん! 脱衣所のタオル足りない!」
「今持っていきますー!」
「ミア、露天の椅子拭き終わったかい!」
「あと二つー!」
「ドロシィ、湯土産追加頼む!」
「はーい!」
子供組も大忙しだった。
露天風呂ができたことで掃除範囲は一気に増えた。
さらに。
単純に客数そのものが増えている。
「ふぇぇぇ……疲れたぁ……」
閉店後。
エナが机に突っ伏した。
「最近ほんと忙しいですね……」
ミリナも苦笑いする。
すると。
ミアが桶さんを抱えてやってきた。
「桶さんも疲れたー?」
(俺はずっと風呂場にいただけなんだけどな)
「でも今日もすごかったよねー!」
「桶さん大人気!」
ドロシィが嬉しそうに笑う。
(まぁ人気なのはいいことだ)
そう言いながらも。
桶さんは少し誇らしげだった。
「でも露天掃除ほんと大変ー……」
エナがぐったりしている。
「広いもんなぁ」
シャルネも苦笑い。
「前の倍くらい動いてる気がする」
「シャルネさん最近ずっと走ってません?」
「走ってる」
即答だった。
そんな中。
バルミナが帳簿を持ってくる。
「ミリナ」
「はい?」
「見てごらん」
差し出された帳簿を見て。
ミリナが固まった。
「……え?」
「えぇぇぇ!?」
思わず大声が出る。
露天風呂完成後。
売上はさらに伸び続け。
今では以前の一・五倍近い金額になっていた。
「す、すごいです……!」
「ここまでとは……」
ミリナは何度も帳簿を見返す。
「露天風呂大成功だねぇ」
バルミナは満足そうだった。
「うわぁ……」
「こんなに儲かるんだ……」
ルーナも驚いている。
すると。
ドロシィがぽつり。
「これなら毎日お肉食べれる?」
「食べれないよ」
バルミナが即答した。
「えぇー……」
皆が笑う。
だが。
バルミナはそのまま真面目な顔になる。
「ただ問題はまだある」
その場の空気が引き締まった。
「まず一つ」
「従業員の確保」
「あー……」
皆納得する。
完全に人手不足だった。
「次」
「転売問題」
湯土産の人気は止まらない。
最近では。
転売だけではなく。
偽物まで出回っているという噂も聞いていた。
「この前街で見たよ」
エナが言う。
「湯けむり亭風のお湯!」
「風ってなんだよ……」
シャルネが呆れる。
(絶対違うだろそれ)
桶さんもツッコむ。
「商業ギルドも動いてるみたいだけどな」
「でも完全には止まってない」
「うーん……」
ミリナが困った顔をする。
「そして」
バルミナが三本目の指を立てた。
「これが一番大きい」
「お店の増築」
皆の表情が真面目になる。
「露天だけじゃ限界だねぇ」
「脱衣所」
「洗い場」
「内風呂」
「全部広げないと厳しい」
今の湯けむり亭は。
完全にキャパオーバーになりつつあった。
最後に。
バルミナが四本目の指を立てる。
「併設飲食店の開業」
その瞬間。
桶さんが反応した。
(いる)
(絶対いる)
(風呂上がりの飯と酒は正義)
「桶さんまた反応してる」
ミアが笑う。
「絶対食べ物の話だよね」
「わかりやすーい」
ドロシィ達が笑う。
「常連からの要望もかなり多いからねぇ」
「風呂上がりに街戻るの面倒らしい」
「そりゃそうだ」
シャルネも納得していた。
問題は山積み。
だが。
誰も暗い顔はしていない。
むしろ。
少し楽しそうですらあった。
「とりあえず」
バルミナがまとめる。
「明日ゴルドにも相談だねぇ」
「増築の話は専門家にも聞かないと」
「はい!」
ミリナは力強く頷いた。
湯けむり亭は。
まだまだ大きくなろうとしていた。




