第二十九話 増築に入る順番
サウナ体験会の翌日。
湯けむり亭
の家では。
今後についての話し合いが行われていた。
「さて」
「まず何から手を付けるかだねぇ」
バルミナが腕を組む。
ミリナも真剣な顔だ。
「全部一気には難しいですよね……」
すると。
机の上に置かれていた桶さんが口を開く。
(まずは風呂だな)
「お風呂ですか?」
(要望で一番多かった)
(広くしてもっと大勢で入れるようにしてほしいってやつ)
(まずそこ優先がいいと思う)
ミリナは納得したように頷く。
「確かに……!」
「最近は本当に混みすぎですし」
一方。
ルーナとバルミナは。
「…………」
「…………」
ほんの少しだけ残念そうだった。
(なんだその顔)
「い、いえ?」
「別にサウナを最優先にしたかったわけじゃありませんよ?」
(顔に書いてあるぞ)
ルーナが視線を逸らした。
バルミナも咳払いする。
「まぁサウナは後からでも作れるからねぇ」
(絶対ハマってるだろこの二人)
そんな風に話していると。
玄関から声がした。
「おーい」
「入るぞー」
ゴルド
だった。
「ゴルドさん!」
ミリナが迎えに行く。
ゴルドは部屋へ入ると。
普通に桶さんへ視線を向けた。
「で?」
「温泉バカはどういう風に広げたいんだ?」
(誰が温泉バカだ)
「お前以外にいねぇだろ」
ゴルドはすでに。
桶さんが話せることを知っていた。
シャルネが正式に湯けむり亭へ住み始めた頃。
バルミナが。
「ゴルドは家族ではないけど」
「湯けむり亭の大事な仲間だ」
と話したのだ。
さらに。
「今後、何か作ってもらう度にミリナを通すのは面倒だろう?」
「直接話せた方が早い」
という。
なんとも現実的な理由もあった。
そして実際に伝えた時。
ゴルドは一瞬だけ。
「……は?」
と固まった。
だが。
「まぁ今さら驚くことでもねぇか」
と頭を掻きながら受け入れ。
「で?」
「今後の計画について決まってることがあるなら教えてくれ!」
と普通に設計相談を始めていた。
さすが職人である。
「それで?」
ゴルドが椅子に座る。
「露天どれくらい広げる?」
皆の視線が桶さんへ向く。
(そうだなぁ……)
桶さんは少し考えた。
(中途半端なの作るとまたすぐ足りなくなる)
「ふむ」
(だから思い切ってデカくしたい)
「どれくらいだ?」
(最低五十人くらい同時に入れる規模)
「「五十!?」」
ミリナとルーナが驚く。
「そんなにですか!?」
(今後もっと増えるぞ)
(今ですら予約取れないんだから)
(しかも露天は長居する)
ゴルドは腕を組み。
「……まぁ」
「わからなくはねぇ」
「露天好きは動かねぇからな」
(あと土地広いし)
(源泉量も多い)
(だったら最初からデカくした方がいい)
皆の頭に。
巨大露天風呂の光景が浮かぶ。
「……なんかもう温泉街ですね」
ミリナがぽつりと呟いた。
(理想だな)
桶さんは即答した。
だが。
次の瞬間。
(……いや待て)
(でもそんな大工事したら工期ヤバくないか?)
(かなり時間かかるんじゃないか?)
すると。
ゴルドが不思議そうな顔をする。
「いや?」
「土属性使える冒険者雇えば一週間前後だぞ」
(……は?)
「地面掘るのも岩固めるのも魔法でいける」
「木材加工も補助魔法あるしな」
「配管もかなり楽になる」
(さすが異世界!!!)
桶さんは衝撃を受けていた。
(便利すぎるだろ!!)
「まぁ金はかかるがな」
ゴルドが笑う。
「そこは仕方ないねぇ」
バルミナが頷いた。
すると。
ミリナがふと思い出したように言う。
「……資金」
「もしかして」
「あの貴族様に相談できませんか?」
「あぁ」
バルミナも頷く。
「向こうも協力するって言ってたからねぇ」
そして翌日。
ミリナとバルミナは。
貴族の屋敷を訪れていた。
「おぉ……!」
「今日はどうされましたか!」
以前とは違う。
本当に感謝している態度だった。
ミリナは丁寧に頭を下げる。
「実は……」
「湯けむり亭の増築についてご相談がありまして」
話を聞くうち。
貴族の目はどんどん丸くなる。
「五十人規模の露天風呂……!?」
「かなり大きくなりそうです」
「面白い……!」
貴族は本気で興味を示していた。
「ぜひ協力させてください!」
「本当ですか!?」
「もちろんです!」
その返事に。
ミリナは嬉しそうに笑った。
そして。
少し考えてから続ける。
「あの」
「もしよかったら」
「今度リリィちゃんも連れてきてくれませんか?」
「……え?」
貴族が驚く。
「最初は閉店後お忍びでも大丈夫ですし!」
「でも」
「これから湯けむり亭がどう変わっていくか」
「協力してくださる皆さんにも見てほしくて」
その言葉に。
貴族はしばらく呆然としていた。
やがて。
静かに笑う。
「……本当に」
「優しい方達ですね」
そして。
深く頭を下げた。
「ぜひ」
「ぜひリリィと一緒に湯けむり亭にお邪魔しますね。」
その頃。
家で話を聞いた桶さんは。
(最初は俺を五百万で買おうとしてたのになぁ……)
(しかも盗賊団まで雇って盗もうとしてたし)
なんとも言えない気持ちになっていた。
だが。
リリィの顔を思い出すと。
(まぁ……悪い人ではないんだろうな)
そんな風にも思うのだった。




