第二十八話 新しい湯けむり亭に向けて
その日の夜。
湯けむり亭の家では。
再び今後についての話し合いが行われていた。
机の上には紙束。
その前に座るのは。
ゴルドだった。
「よし」
「じゃあ常連連中から聞いてきた改善点を話すぞ」
皆が真剣な顔になる。
ゴルドは指を一本立てた。
「まず一つ目」
「広さだ」
「やっぱそこですよね……」
ミリナが苦笑いする。
「脱衣所」
「風呂場」
「洗い場」
「浴槽」
「全部もっと広くしてほしいって声が多い」
「最近混みすぎなんだよな」
シャルネも頷く。
「確かに女湯もかなり狭い」
「洗い場待ちとか普通にあるし」
「男湯もだねぇ」
バルミナが腕を組む。
「ピーク時は身動き取れない時あるからね」
ゴルドは二本目の指を立てた。
「二つ目」
「風呂の種類を増やしてほしい」
「種類?」
ルーナが首を傾げる。
「今は男湯に浴槽二つ」
「女湯に三つだろ?」
「もっと増やせないのかって話だ」
「あー……」
ミリナも納得する。
「薬湯とかぬる湯とか人気ありますもんね」
「あと熱湯好きも結構いる」
(わかる)
桶さんは心の中で頷いた。
(熱湯とぬる湯は別文化だからな)
ゴルドはさらに続ける。
「三つ目」
「飲み物と食べ物」
「……あー」
今度は全員納得だった。
「風呂上がりに飲みたいってことですね」
「それだけじゃねぇ」
ゴルドは苦笑いする。
「なんなら食堂を併設してほしいって意見もかなり多い」
「風呂上がりに街戻るの面倒なんだと」
「確かに……」
「しかも飯食って酒飲んだら」
「また風呂入りたくなるらしい」
その言葉に。
皆が笑う。
「わかるかも!」
「それ絶対気持ちいい!」
「ちなみにこれ」
「意外と女の常連の意見多いぞ」
「えっ?」
ミリナ達は少し驚いていた。
「女性も結構飲むんですね……」
「そりゃ飲むだろ」
シャルネが即答する。
「風呂上がりの酒はうまい」
(わかる)
桶さんはまた頷いた。
そして。
ゴルドは最後の指を立てる。
「四つ目」
「予約制の廃止」
空気が少し静かになる。
「やっぱりか……」
ミリナがぽつりと呟いた。
「なんだかんだ言ってな」
ゴルドは笑う。
「知らない奴とも顔見知りとも」
「好きな時間に来て」
「みんなでワイワイするのが好きなんだよ」
それは。
湯けむり亭らしい意見だった。
「予約制になって便利な部分もある」
「でも前みたいな気軽さが減ったって声も多い」
皆が静かに考え込む。
しばらくして。
ミリナが顔を上げた。
「……ありがとうございます」
「すごく参考になりました」
「こちらでも一度まとめてみます!」
「おう」
「また決まったら呼んでくれ」
ゴルドは立ち上がる。
「なんだかんだ俺も楽しみにしてるからな」
そう言って。
帰っていった。
静かになった部屋。
ミリナは深く息を吐く。
「……どうしましょう」
「問題山積みだねぇ」
バルミナも苦笑い。
「でも全部大事な意見だ」
シャルネは真面目な顔だった。
ルーナ達も悩んでいる。
そんな中。
ミリナがふと桶さんを見る。
「桶さん」
(ん?)
「何かいい案ありませんか?」
皆の視線が集まる。
(……まぁ)
桶さんは少し考える。
(温泉好きとしては色々あるぞ)
「おぉ!」
「聞かせてください!」
ミリナが身を乗り出した。
(まず広さ問題だけどな)
(建物を無理に広げまくる必要はないと思う)
「え?」
(湯けむり亭って街外れで土地広いだろ?)
「はい!」
(なら外を活かせばいい)
皆が首を傾げる。
(でっかい露天風呂を作るんだよ)
「……!」
全員の目が丸くなる。
(かなり広いやつな)
(湯けむり亭の源泉、湯量豊富だろ?)
(あれなら広くしてもぬるくならんはずだ)
「確かに……!」
バルミナが目を見開く。
「それなら建物側の拡張も少し抑えられるねぇ!」
(そうそう)
(露天に客流せば中の混雑も減る)
「大きい露天風呂……」
ミリナがうっとり呟く。
「絶対気持ちいいです……!」
(あと休憩所と食堂は欲しいな)
(風呂→飯→休憩→もう一回風呂)
(これが完成形だ)
「完成形なんだ……」
ルーナがちょっと引いていた。
だが。
桶さんは真面目だった。
(あともう一つ)
(本当は作りたいものがある)
「?」
(サウナ)
「さうな?」
全員の頭の上に疑問符が浮かぶ。
(あー……)
桶さんは悩む。
(どう説明すればいいんだこれ)
「新しいお風呂ですか?」
(いや、風呂じゃない)
「???」
(めちゃくちゃ熱い部屋に入るんだ)
「熱い部屋……?」
(そこで汗をいっぱい流した後、水浴びして休憩すると最高なんだ)
「えぇ……」
全員ちょっと引いている。
(いやマジで気持ちいいんだって!)
「本当に……?」
(信じろ)
(温泉文化の一つだ)
ミリナ達は顔を見合わせる。
「……桶さんがそこまで言うなら」
「試してみる価値はあるかも?」
「まぁ桶さん温泉だけは信用できるし」
(だけってなんだ)
そんな風に。
新しい湯けむり亭の計画は。
少しずつ形になっていくのだった。




