表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生したら桶でした  作者: 玉葱将軍


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

26/59

第二十四話 桶、進化する


 屋敷の前。


 ミリナは静かに頭を下げた。


「……ごめんなさい」


「桶さんで、娘さんを治すことはできません」


 貴族の男は力なく俯く。


 その様子を見て。


 周囲の冒険者達も空気を察した。


「……まぁ、仕方ねぇよな」


「とりあえず一件落着か?」


「今日は疲れた……」


 常連達はそんなことを話しながら、帰る準備を始める。


 だが。


(ミリナ)


「……はい?」


(ちょっと試したいことがある)


 桶さんの声に。


 ミリナは小さく目を見開いた。


(秘湯の源泉、あるんだろ?)


(その湯を俺で汲んだら、何か変わるかもしれん)


「……!」


(まぁ分からん)


(でも試す価値くらいはあるんじゃないか?)


 ミリナは少し考え。


 そして頷いた。


「……確かに」


「ん?」


 帰ろうとしていた冒険者達が振り返る。


 ミリナはぺこりと頭を下げた。


「皆さんは先に、湯けむり亭へ戻っていてください」


「ちょっと試したいことがあるんです」


「えっ?」


「まだ何かやるのか?」


「お人好しだよなぁ……」


 だが。


 誰も止めはしなかった。


「まぁ困ったら呼べよー」


 そう言って。


 常連達は帰っていく。


 その場に残ったのは。


 バルミナ。


 シャルネ。


 そしてミリナだけだった。


「危ないから、あたしも残る」


 シャルネが尻尾を揺らす。


「助かります」


 ミリナは貴族へ向き直る。


「秘湯の源泉は、まだありますか?」


 貴族は戸惑いながらも頷いた。


「あ、あぁ」


「娘を風呂へ入れる時や、身体を拭く時に使っている」


「まだかなり残っているが……」


「それなら」


 ミリナは桶さんを見る。


「試してみましょう」


 ――数分後。


 屋敷の浴室。


 そこには。


 十歳ほどの少女が横になっていた。


 肌は青白い。


 呼吸も浅い。


 かろうじて意識がある程度だ。


 見ただけで。


 長く苦しんでいることが分かった。


「……」


 ミリナは胸が痛くなる。


(桶さん、何かわかりますか?)


(いや、全然わからん)


(ただ……悪そうなのはわかる)


(だよなぁ……)


 浴槽には。


 淡く湯気を立てる秘湯の湯。


 ほんのり薬草のような香りがしていた。


 ミリナは桶さんを見つめる。


 桶さんも静かに頷く。


「……いきます」


 ミリナが湯を汲んだ。


 その瞬間だった。


 ――ピコン。


(ん?)


 頭の中に音が響く。


 続けて。


 ――ピコン。


 ――ピコン。


(えっ!?)


 桶さんは驚いた。


(な、なんだ!?)


 慌てて確認する。


 そこには。


 新たなスキルが表示されていた。


 ・効能倍加


 ・解呪(泉質依存)


 ・体力回復(泉質依存)


 ・浄化(泉質依存)


(増えてる!?)


(いや待て待て待て!?)


 今まで。


 レベルは上がっていた。


 だが。


 新しいスキルが増える気配は全くなかった。


(……泉質?)


 そこで気づく。


(もしかして、温泉によって変わるのか!?)


 桶さんは興奮した。


(なにそれ温泉好きとして超気になるんだが!?)


(全国の温泉試したい!!)


「桶さん……?」


(あ、すまん)


(とりあえずやってみるぞ)


 ミリナはゆっくりと少女へ湯をかける。


 すると。


 いつものように。


 悪い部分が淡く光った。


 だが今回は。


「……身体の中?」


 ミリナが目を見開く。


 淡い黒い靄のようなものが。


 少女の胸の奥で揺れていた。


(治癒術で駄目だったってことは……)


(呪い系だったのかもしれんな)


(まぁ分からんけど)


 再び。


 お湯をかける。


 黒い靄が少し薄れる。


 もう一度。


 さらに薄れる。


 何度か繰り返した頃には。


 少女の顔色は明らかに変わっていた。


「……あれ?」


 少女が目を開く。


 そして。


 ゆっくり身体を起こした。


「え……?」


 自分の手を見る。


 腕を触る。


 頬を触る。


「からだ……軽い……」


 その声には。


 確かな力があった。


 ミリナ達も息を呑む。


「本当に……?」


 さらに。


 シャルネが興味津々で前へ出る。


「ちょっと、あたしもやっていい?」


「え?」


「徹夜で動いてたからボロボロ」


 そして。


 シャルネへ湯をかける。


「……っ!?」


 猫耳がぴんっと立つ。


「なにこれ」


「めちゃくちゃ楽なんだけど!?」


 腕をぐるぐる回す。


「古傷まで薄くなってる!」


「疲れも消えてるし!」


「むしろ絶好調なんだけど!?」


 ミリナも試す。


 バルミナも試す。


「……あたしも身体軽いねぇ」


「すごい……」


 全員が驚いていた。


 その後。


 ミリナ達は貴族を呼んだ。


 娘の姿を見た瞬間。


 男は固まる。


「お、お父様?」


「リリィ……?」


 次の瞬間。


 貴族は娘を抱きしめていた。


「治った……」


「本当に……!」


 涙が止まらない。


 だが。


 ミリナは静かに口を開く。


「……でも」


「盗みを依頼したのは犯罪です」


 男の肩が震える。


「本来なら、このまま捕まるべきだと思います」


 すると。


 娘が泣きながら父親へしがみついた。


「嫌だ……!」


「せっかく元気になったのに!」


「お父様いなくなるの嫌ぁ……!」


 貴族は何も言えない。


 ただ娘を抱きしめる。


 その時。


(ミリナ)


「……はい」


(俺の持ち主はお前だ)


(だから、お前が決めればいい)


 ミリナは静かに目を閉じた。


 そして。


 小さく息を吐く。


「……今回は」


「何もなかったことにします」


 全員が驚く。


「ただし」


 ミリナは真っ直ぐ貴族を見る。


「今日あったことは誰にも言わないでください」


「また桶さんが狙われたら嫌ですから」


 貴族は涙を流しながら頭を下げた。


「……感謝する」


「本当に……感謝する……!」


 だが。


 そこで。


 バルミナがニヤリと笑った。


「ただし、だ」


 空気が変わる。


「あたし達、湯けむり亭の改築と増築を考えててねぇ」


「もっと立派に」


「お貴族様が来ても恥ずかしくないくらいに」


 貴族が顔を上げる。


「今回だって」


「普通に湯に浸かりに来てりゃ、こんな大ごとにならなかったんだ」


 バルミナの笑みが深くなる。


「……分かるよねぇ?」


 貴族の顔が引きつった。


 そして。


 深々と頭を下げる。


「困った時は……最大限協力させてもらう」


「ははっ」


「話が早くて助かるよ」


(バルミナさん、こぇー……)


 桶さんは心の底からそう思った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ